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第五話 愛の寓意その六

 そしてそれ以上にだ。彼女はだった。

「それに国公立には興味ないし」

「ないんだ」

「八条大学に行ければいいし。それに」

「それに?」

「まあね」

 猛の方を見て顔を赤らめさせてだ。そしてだった。

 そのうえでだ。こう言ったのだった。

「何ていうかね」

「何かって」

「何でもないわよ」

 猛にばれるのが怖くてだ。雅は言葉を打ち切った。そのうえでだ。

 彼にだ。こう促した。

「とにかく。クラスに入りましょう」

「そうだね。じゃあね」

「席とか決まってるの?」

「特に決まってないよ」

「何処に座ってもいいの」

「まあ大体誰が何処に座るかは決まってるけれど」

 そうしたものは自然と決まってくる。そうだというのだ。

「僕は結構前の方に座ってるけれどね」

「一番前とか?」

「あっ、そこはちょっと」

 一番前になるとだ。猛は困った顔で雅に答えた。

「座らないよ。何かあからさまだしね」

「露骨に勉強してますって感じになるから」

「だから一番前には座らないよ。三番目辺りで少し右のところに座ってるんだ」

 教壇から見てだ。そこだというのだ。

「いつもね」

「わかったわ。じゃあ私もそこに座るから」

「雅もなんだ」

「まだ勝手がわからないから」

 また理由付けだった。その証拠に目が微かに動く。もっとも猛は気付かないが。

 そう理由付けをしたうえでだ。雅はこう言ったのだった。

「だからそれでいいわよね」

「うん。僕は特に困らないから」

「席は空いてるわよ」

「前の方は空いてるよ」

「じゃあ後ろが一杯なの」

「塾とか予備校はどうしてもそうなるじゃない」

 席が自由だからだ。怠け等が入ってそうなるのは人間の性質だろうか。

「まあ僕は一応しっかりしないといけないかなって思ってね」

「それで前にいるのね」

「一番前は流石に勇気が出なくてね」

「勇気って」

「ほら。一番前にいたらおかしなことできないじゃない」

 先生のすぐ前だ。その席ならばだというのだ。

「居眠りとかね」

「居眠りね」

「僕も授業中たまにやっちゃうしね」

「猛もそうなるの?」

「たまにだけれどね」

 このことは少しだけ苦笑いになって言う猛だった。

「やっちゃうよ」

「私もそれはね」

 居眠りについてはだ。雅もだ。少しだけ困った顔になった。

 そしてそのうえでだ。こう猛に言ったのである。

「まあ何ていうか」

「やっちゃうんだ」

「そうなの。だから確かに私もね」

 一番前はだ。どうかというのだ。

「一番前はね」

「だから前の方でもなんだ」

「そう。ちょっとね」 

 雅もだ。困ったというのだ。そんな話をしてだった。

 彼等は自分達のクラスで講義を受けた。雅にとってははじめてのこの塾での講義だった。

 その講義の後でだ。猛はクラスを出るところで雅に尋ねた。

「それでどうだったかな」

「今日は英語と現国だったけれどね」

「うん。どうだったかな」

「かなりわかりやすかったわ」

 確かな、すっきりとした微笑みでだ。雅は猛に答えた。

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