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第四話 インノケンティウス十世像その二

「そうされているよ」

「そうですか」

「私立だと先生も塾の講師になれるからね」

「公立の学校では無理なのですか」

「公務員だからね」

 その立場から副業は禁じられているのだ。

「だけれど八条学園は私立だから」

「私立ならですか」

「先生も学校に許可を得ていればいいんだよ」

「わかりました。そうした事情からですか」

「理事長も直々にね」

 そのだ。十字がまだ見ていない彼からもだというのだ。

「一郎先生には講師になってくれる様にお願いされたんだよ」

「そうだったのですか」

「理事長は二代目なんだ」

「この塾のですか」

「そう、お父上が開かれたんだ」

 この塾をだ。そうだというのだ。

「お父上は物凄く立派な方でね。いや素晴らしい方だよ」

「これだけの塾を一代で、ですか」

「そうだよ。凄い方と思うね」

「人徳もあられたのですか」

「うん、元は八条学園中等部の先生だったんだ」

 警備員は十字に自分から話していく。あらゆる情報を。

「それでこの塾を開かれて瞬く間にね。塾生思いで教育熱心でね」

「そうした方だったのですか」

「今の理事長もそのことを忘れておられないと思うよ」

 警備員は特に何も疑っていることのない顔で十字に話した。

「それにね」

「それにとは?」

「副理事長の方がとてもしっかりしているんだ」

 警備員は新たにだ。この人物の話を出してきた。

「あの方が折られるのも有り難いね」

「副理事長もおられるのですか」

「うん、この塾の経営や教育にとても熱心な方でね」

 それでだというのだ。

「理事長を補佐してくれて時には理事長も代役も務められて」

「ではその方だけで」

「塾はやっていける程なんだ」

「その方もやはり清原さんでしょうか」

「いや、理事長さんの弟だけれど」

 そうした意味では清原一族だった。しかしだった。

 警備員はその副理事長のことを詳しく話していきだ。その話を聞く十字もわかった。その副理事長のことが詳しくだ。

「婿養子に入られてね」

「では清原姓ではないのですね」

「そうだよ。けれどとても立派な方でね」

 そしてだ。その立派な副理事長がだというのだ。

「塾を切り盛りしている部分はあるよ」

「では理事長がおられなくても」

「いやいや、そういう訳にはいかないからね」

 警備員は十字のやや突っ込んだ、あえてそうした問いには笑ってこう返した。

「やっぱり理事長さんはお兄さんだから」

「それでこの塾のですか」

「そう、理事長は理事長だよ」

 そのことは絶対にだというのだ。警備員は十字にこの塾のことをどんどん話していく。

 そしてその中でだ。彼は十字に自分からこう申し出たのだった。

「それでだけれど」

「はい、それで」

「この入り口の番は同僚に任せるからね」

 そうしてからだというのだ。

「この塾の中を案内しようか」

「そうして頂けますか」

「見学に来たんだよね、塾の」

「はい、そうです」

 そしてだ。警備員に塾の見学にあたっての一つの殺し文句も告げたのだった。

「それから入塾を考えさせてもらいます」

「それじゃあ余計にね」

「案内して頂けますか」

「そうさせてもらっていいかな」

「お願いします」

 無表情なのは変わらない。しかし声に僅かであるが頼み込むものを含ませた。その微妙なニュアンスにおいてだ。彼は警備員に言ったのである。

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