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第四話 インノケンティウス十世像その一

                  第四話  インノケンティウス十世像

 十字はその日の放課後だ。部活も終わりだ。

 教会に帰る筈だったがその日はだ。一人でだ。

 駅前に向かった。そこは商店街になっている。その街の中にだ。

 一つ大きなビルを観た。そこには漢字でこう書かれていた。

「清原塾」

 その塾の名前をだ。彼は呟いたのだった。そうしてだ。

 そのうえでだ。塾の入り口に向かう。そこは自動のガラスの扉だった。随分と厚いガラスだ。

 そのガラスの扉は彼が近付くと左右に開いた。やはり自動だ。

 その開かれた扉をくぐり中に入るとだ。早速だった。

 ダークブルーの制服に帽子の壮年の男が彼のところに来てだ。こう尋ねて来たのだった。

「あっ、ちょっと待ってくれるかな」

「何でしょうか」

「君は塾生かな」

 こうだ。彼の身元を尋ねてきたのである。

「見ない子だけれど」

「いえ、違います」

 そうでないことは正直に答える十字だった。

「僕はこの塾の塾生ではありません」

「じゃあどうして来たのかな」

「見学に」

 これも事実だった。ただし目的は隠して答えた。

「その為に来ました」

「そうなんだ。見学なんだ」

「そうです。それは駄目でしょうか」

「いや、いいよ」

 それはいいとだ。警備員はすぐに彼に答えた。

 しかしそれと共にだ。彼にこうも言ってきたのだった。

「けれどね。身元は確認しておきたいから」

「学生証ですか」

「それを見せて。それでね」

 それに加えてだとだ。警備員は彼にさらに言う。

「後はね」

「来歴にですか」

「うん、来歴簿に書いておいてくれるかな」

 彼の名前や身元、それに来た時刻等をだ。それをだというのだ。

「そうしてくれるかな」

「わかりました。それでは」

 十字は警備員の言葉に素直に答えたのだった。そうしてだ。

 実際に警備員室に案内されてそこの窓口で名前等をボールペンで書いた。それからだ。

 警備員は笑顔でだ。彼にこう言ってきたのである。

「ああ、八条学園の生徒さんなんだ」

「そうです」

「うちの塾も八条学園の生徒さんが多いんだよ」

「中学生も高校生もですか」

「小学生もね」

 全課程があることがここで再確認される。

「あるよ」

「予備校もあると聞いていますが」

「そうだよ。うちの塾はどんな課程でもあるんだ」

「それだけ充実しているのですね」

「講師の先生もね。いい塾だよ」

 警備員は人柄のいいことがそれだけでわかる笑顔で十字に述べる。

「とてもね。それにね」

「それにとは」

「その八条学園のことだけれど」

 警備員は彼にこのことも話してきたのだった。

「塾長の甥御さんと姪御さんもおられるんだよ」

「そうなのですか」

「そうなんだよ」

 ここではあえて知らないふりをして応えた十字だった。その方が警備員とのやり取りがスムーズに進むと判断したからだ。知っているとそこから警備員は知っている相手にはと思い多くのことを話さないと判断したからだ。 

 その判断のうえで警備員に応えた。そうしてだった。

 十字はだ。その何も知らないふりで警備員に述べたのである。

「この塾にも通っておられるね」

「姪御さんもですか」

「いや、甥御さん。清原一郎先生もね」 

 警備員は十字が知らないと見てだ。彼の名前を自分から出した。

「あの方もなんだ」

「先生もということは」

「そう、塾の講師としてね」

 その立場でだ。この塾に在籍しているというのだ。

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