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第三話 いかさま師その十

「塾の理事長さんもね。伸び悩んでる塾生に指導したりされてるらしいしね」

「伸び悩んでいる」

「うん、小学生の娘から浪人の娘までね」

 ここで部員は十字にだ。無意識のうちに極めて重要なことを言った。

「そうしてるよ」

「娘?」

「あっ、そういえばそういう娘って女の子多いかな」

 ここで自分の言葉に気付いた彼だった。そしてだ。

 視線を上にやってだ。そして述べたのだった。

「何でかな。男の子はそうでもないけれど」

「そうなんだ」

「うん、別に女の子だからって差別してる訳じゃないけれど」

「女の子の方が成績を気にするとか?」

「そうじゃないかな」

 部員は十字の言葉にこう返した。彼は気付いていない。

 しかし十字は直感的にそれを感じ見抜きだ。そしてなのだった。

 こうだ。真剣な声で小さく呟いたのだった。

「とんでもない話みたいだね」

「あれっ、今何て言ったの?」

「何でもないよ」

 今の呟きは隠したのだった。しかしだ。

 頭の中でだ。考えをまとめていく。そのうえでだ。

 部員に対してだ。こんなことを言ったのだった。

「有り難う、全部わかったよ」

「全部って?」

「うん、僕の中でね」

 何がわかったのかは言わない彼だった。しかしだ。

 その部員にだ。こんなことも述べたのだった。

「それでね」

「それで?」

「今描いてる絵だけれど」

 絵の話をしてきたのだった。見ればだ。

 バロック期を思わせる画風にだ。貴族の服を着た男女がいる。彼等はそれぞれ手にカードを持っている。その左にいる男はカードを持つ手を背にしてそのカードを隠している。見れば中央の女ももう一人いる女も背中にカードを持った男もだ。絵の右にいる青年、彼だけは純粋そうな顔をしているがその青年を取り囲んでいる感じだ。

 その絵を見てだ。部員は言った。

「ジョルジュ=ド=ラ=トゥールだったかな」

「うん、いかさま師だよ」

 その絵だというのだ。98

「ラ=トゥールの代表作の一つだよ」

「そうだね。それにしてもね」

 部員はその暗い中に人が浮き出ている様に照らされている絵を見て言うのだった。

「何回か観た絵だけれど」

「どう思うかな」

「無気味な絵だよね」

 こう十字に答えた彼だった。

「どうもね」

「そう思うよね。何も知らない純粋な人をね」

「よってたかって騙そうとしているんだね」

「この中央の女の人だけれど」

 紅い服を着ただ。彼女から見てだった。

「物凄く癖がありそうな人だね」

「そうだね。如何にもこういう場所にいる様な」

「それか売春宿にいるみたいな?」

 こうも言う部員だった。

「そこで仕切ってるみたいな。そういう人みたいだよ」

「実際に昔は賭博と売春は一緒の場所で行われていたこともあったしね」

「成程ね。そういう人なんだ」

「うん、それで周りの二人はね」

「この女の人の手先なんだ」

「部下っていうのかな。そういう人だよ」

「ううん、そう思うとこの人って」

 部員はその彼を見てまた言う。

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