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第三話 いかさま師その六

 怯えた様な声を出してだ。望に気付いた様な感じを見せてきた。それはまるで闇夜から急に猛獣に出会った様な、そんな極端なものだった。それを見せてからだ。

 望にだ。こう返したのだった。

「何、どうしたの?」

「いや、御前顔青いけれどな」

 春香のその蒼白になった顔での言葉だった。

「急にどうしたんだよ」

「何でもないから」

 こうは言う春香だった。しかしだ。

 その顔は青いままだった。そしてだ。

 その場を取り繕う様にしてだ。こう望に言ってきたのだった。

「それで。トマトだけれど」

「全部食ったよ」

 嫌々という口調だがそれでも言う望だった。

「本当にな。トマトはな」

「そう。食べたの」

「もう弁当に入れないでくれよ」

 心から嫌がっている言葉だった。

「他のなら食うからさ」

「だからトマトは」

「イタリア料理に使うからか?」

「それに身体にもいいから」

 雪子が来る前とはうって変わって狼狽を必死に隠す様子で言う春香だった。

「だからね」

「けれどな。トマトはな」

「嫌いなら食べなくていいんじゃないの?」

 二人の間に立ってだ。雪子は何気なくを装って言ってきた。しかしこの何気ない動作も他の者、二人にも二人を見ている他の面々にも気付かないものだった。気付いているのは。

 十字だけだった。彼はその雪子を見つつその目をさらに鋭くさせていた。

 その十字には雪子も気付かない。そのままだ。

 彼女は望にだ。こんなことを尋ねた。

「ねえ、神崎ってさ」

「何だよ」

「本木春香のことどう思ってるの?」

 こう彼に尋ねたののである。

「この娘のことは」

「そ、それはな」

 そう問われるとだ。望はだ。

 その顔を赤らめさせた。だがそれでもだった。

 口は尖らせてだ。こう言ったのである。

「何でもないよ」

「何でも?」

「そうだよ。只の幼馴染みだよ」

 それに過ぎないというのだ。

「それがどうしたんだよ」

「別に」

 右手の人差し指を己の口に置いてからだ。今度はとぼけてみせる雪子だった。

 そしてそのままだ。今度は望にこんなことを言ってきた。

「若しもよ」

「今度は何だよ」

「望に彼女がいてね」

 ほんの僅かにだがちらりと春香を見てからだ。また尋ねる雪子だった。

「それでその娘が浮気なんかしたらどうするの?」

「そんなの許せないに決まってるだろ」

 即座にだ。怒った様な声で言い返す望だった。そしてだ。 

 春香は望がこう言った瞬間にだ。蒼白になったままの顔を強張らせた。

 それはまるで石になったかの様だった。メデューサを見てしまったかの様な。

 そしてその顔のままでいる春香に気付かずにだ。望はさらに言うのだった。

「裏切りだろ。裏切りは最低だよ」

「だよね。若し彼女がそんなことしたら?」

「縁切る。それにな」

「それに?」

「やられたらやり返せだろ」

 こんなことも言う彼だった。

「そうしないと駄目だろ。絶対にやっちゃいけないことだからな」

「そうよね。春香もそう思うわよね」

「え、ええ」

 また言われてはっと気付いた様な顔になってだ。春香はだ。

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