表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/266

第一話 キュクロプスその十三

「マスコミも騒ぐ。嫌な事件になるな」

「悪人を殺すとどうしてもこうした言葉が出ますよね」

 ここでだ。検死官の一人がこんなことを言った。

「法に寄らず悪を裁く正義とかって」

「そうだな。マスコミなりネットなりでな」

「確かにそうかも知れませんけれど」

「警察にとっては許せるものじゃない」

 法の番人である彼等から見ればだ。それはとてもだった。

 それでだ。刑事は言うのだった。

「この一連の事件の容疑者は絶対にだ」

「ええ、捕まえましょう」

「必ず」

 警官や検死官達も頷きだ。そのうえでだった。

 彼等は遺体の処理にかかった。それはかなりの時間を要するものだった。

 そして事件のことはマスコミやネットで大々的に取り扱われた。所謂猟奇殺人としてだ。

 十字は報道を教会のテレビで観ていた。テレビではコメンテーター達が先の社長達への惨殺を含めてそのうえでだ。事件の関連性を指摘していた。

 彼はそれを見てだ。静かにこう呟いた。

「それは正しいね」

「はい、何故なら」

「彼等は裁きを下されたのだから」

 こうだ。共に質素なテーブルを囲む神父に述べたのである。

「だからね」

「そして枢機卿殿は」

「うん、僕はその執行を行わせてもらったよ」

 実に淡々とだ。十字は述べるのだった。

「よかったよ。それでね」

「他に悪人はいますか」

「いるだろうね」

 まだはっきりしないがそれでも言うのだった。

「この世には悪もまた多いから」

「そうですね。悪は何処にでもいます」

「あの学園にも」

 ここでだ。場所が特定された。

「僕が今通っているあの学園にもね」

「八条学園にもですか」

「あの学園は経営陣や先生達はしっかりしているけれど」

 世界的な企業グループでありかつては財閥だった八条グループが経営しているのだ。八条グループの本拠地であるこの神戸に設けられた巨大学園なのだ。

 八条家はかなり清潔でしっかりとした経営で知られている。同族経営であるがそこに甘えはないのだ。

 その八条家が選んだ教師陣もだ。日教組等の影響を排除して質のいい教師が揃っている。そうした意味で八条学園はかなり健全な学園であるのだ。

 だが、だ。その八条学園でもだというのだ。

「どれだけ見事な林檎が入れられた箱でもね」

「一個は必ずですね」

「腐った林檎があるものだから。それに」

 さらに言う十字だった。質素なパンと野菜ジュースという朝食を神父と共に食べながら。 

 そのうえでだ。彼はこうも言ったのである。

「外からはね」

「その外にもですね」

「腐ったものはあるよ。腐ったものがあるのは中だけじゃないんだ」

「学園の外から学園に関わりのある組織や人間がですね」

「学園にしろどんな世界にしろ」

 十字は淡々と述べていく。テレビで報道されている凄惨な処刑を聞きながら。

「あらゆる世界はその世界だけで成り立ってはいないからね」

「様々な世界が重複的、かつ交差して存在していますね」

「そう。そしてその外の世界にも腐った輩はいて」

「中にも腐った林檎がありますね」

「それを見極めるよ」

 十字は静かに述べた。

「そしてそうした輩がいれば」

「容赦なくですね」

「処刑が執行されるんだ」

 その処刑は当然だという言葉だった。そうしてだ。

 このことを述べてからだ。十字はパンを食べ終え野菜ジュースを飲みだ。

 そのうえでだ。神父に述べた。

「それではね」

「今からですね」

「歯を磨いて学園に行くよ」

「ではその場所で」

「見てみるよ。さらにね」

 学園の中の腐ったものを。それをだというのだ。

 こう言うと共にだ。さらに言う彼だった。

「後は」

「腐ったものだけを御覧になられるのではなく」

「清らかなものも見てくるよ」

 人の中にあるそれをだ。見るというのだ。

「人には両方あるのだから。だからこそね」

「ではその中には愛もありますね」

「うん。愛は最も清らかなものであり」

 さらにだ。言葉を続ける十字だった。

「そして最も醜いものは」

「その愛を汚すことですね」

「そうした輩こそが処刑されるべき輩なんだ」

 十字に炎が宿った。白い炎が。

 それを宿らせたままだ。彼は学園に向かう。そうしてだった。

 彼は白い詰襟の制服で学園に向かう。そこには何一つとして醜いものはない。だがその中においてだ。彼はあまりにも苛烈で凄惨な炎を身にまといつつだ。そのうえで今日も学園に向かうのだった。



第一話   完



                   2012・1・4

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ