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第一話 キュクロプスその七

 和典は自分から十字と接していった。他の男の部員達もそれに続く。彼は何時しか美術部の人気者となっていた。無愛想だが親切で公平な人柄が好かれたのだ。

 その彼にだ。ある日だ。部員の一人が尋ねた。

 その時彼は部室で油絵を描いていた。その彼に対して尋ねたのである。

「あのさ。いいかな」

「何かな」

「佐藤君は制服白じゃない」

 尋ねるのはこのことだった。今はエプロンをかけていてジャージ姿だがそのジャージも白だった。その白の彼にだ。着ている制服のことを尋ねたのである。

「うちの学校制服は生徒それぞれが選べるけれど」

「それが何かあるのかな」

「いや、白い制服ってさ」

 その制服自体がだ。どうかというのだ。

「何かあるとすぐに汚れるじゃない」

「そのことだね」

「ボタンも金色で奇麗だけれど」

 制服の白に合わせてである。

「それでもさ。すぐに汚れて」

「確かにそうだね」

「うちの親戚で海上自衛隊の人がいるんだ」

「日本の海軍の」

「うん、その海軍の頃からだけれど」

 海上自衛隊は帝国海軍の伝統を受け継いでいると考えられている。あらゆることにその名残が見られる。この辺りが陸上自衛隊や航空自衛隊とは違うのだ。

 その海上自衛隊のことをだ。その部員は話すのだった。

「夏は白なんだ」

「日光を反射して厚くないからだね」

「そうらしいね。それでね」

「海上自衛隊の夏の制服の白も」

「何かっていうと汚れが目立つらしいんだ」

 白はあらゆる色を映し出してしまう。だからなのだ。

「そこが問題なんだけれど」

「わかっているよ、僕も」

「白の詰襟でも?」

「そう、汚れが目立つ服であることはね」

「じゃあ何で着るの?」

 怪訝な顔になってだ。その部員は十字に尋ねた。

「汚れが目立って大変なのに。その都度洗濯しないといけないのに」

「だからなんだ」

 それ故にだとだ。十字は彼に答えたのだった。

「汚れが目立つからね」

「えっ、汚れが目立つから」

「そうだよ」

 その通りだと答える彼だった。

「だからなんだ」

「汚れが目立つからって」

「汚れは気付かれないうちに付くものだから」

 それでだというのだ。

「それに気をつける為にね」

「ううん、そうなんだ」

「汚れは服だけじゃないんだ」

「それだけじゃないって」

「心にも付くものじゃない」

 十字は彼にこのことも話した。

「服にも心にもね」

「じゃあ心も?」

「そう、何もかもを常に潔白にしないといけないから」

「流石だね」

 ここまで聞いてだ。彼はだ。

 あらためてだ。十字にこう言うのだった。

「教会にいるだけはあるね」

「神は人では気付かないものも見ておられるんだ」

 まさにだ。教会の人間、神の僕の言葉だった。

「そして僕はね」

「佐藤君はいつもなんだ」

「心も服も身体も」

 そうしたあらゆるものを含めてだというのだ。

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