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第八話 絞首台のかささぎその十一

「神の僕なら」

「それならばですか」

「そう。このカササギが神の僕なら」

 その場合ならと考えたうえで。そのうえでの言葉だった。

「神の下された裁きをどう思うかだね」

「若し処刑される者が邪悪ならば」

「神に裁かれるに相応しい者ならね」

 その場合はだというのだ。十字は感情の見られない声で話していく。

「どう思うかだね」

「ですが」

「そう。そして」

「神の僕ならば」

「僕も同じだよ」

 己とカササギを感情移入させてだ。十字は言ったのだった。

「このカササギとね」

「神の裁きを見る者ですか」

「ただ。僕とカササギが違うことは」

 それは何かというとだった。十字と絵のカササギの違いは。

「それは僕が神の裁きを代行することだよ」

「まさにそれですね」

「そう。僕は神の裁きを代行するんだ」

 見ているだけではなくだ。そうするというのだ。

「自分の裁きの代行を見るんだよ」

「そうすることがですね」

「僕の務めだよ」

「ではその為にも」

「描いたよ。この絵をね」

 ブリューゲルの一見すると美しい、しかし実はえも言われぬ寂しさと恐ろしさを含んだその絵を描いたというのだ。十字は自分でこう語ったのである。

「どうかな」

「よいと思います。ただ」

「ただ?」

「枢機卿は近頃こうした恐ろしさを含んだ絵を多く描かれていませんか」

 神父は十字にだ。このことを問うたのである。

「そう思うのですが」

「そうだね。それはね」

「そうしておられる理由は」

「今見ているものが人のそうした面ばかりだからね」

「それ故にですか」

「そう。だからだよ」

 十字はこう神父に答えた。

「だからね」

「そうだったのですか」

「若し。明るいものを見られれば」

「その時はですか」

「明るい絵を描くよ」

 そうするというのだ。その場合はだ。

「喜んでね」

「そうですか。しかし今は」

「あの塾のことが終わらない限りは」

 そうでない限りはだ。とてもだというのだ。

「描けないね」

「では。その時が来ることを」

「待っているよ」

 そうだというのだ。その時にこそだというのだ。

「是非ね。ただ」

「ただ、ですか」

「あの塾の闇はあまりにも深いね」

「確かに。地獄の様です」

「日本人は時々地獄はこの世にあるというけれど」 

 極楽もだ。日本人の考えではそれも普通なのだ。

 だがカトリック的な考えからだ。十字はこう言うのだった。

「それは日本人独特だね」

「確かに。私も日本人ですが」

「そう思うんだね。神父も」

「はい。ですが」

「うん。そうかも知れないと思う時もあるよ」

 地獄がこの世にあるかも知れないとだ。十字も考える時があるというのだ。

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