1−6
「いやー、今の凄かったですねぇ。まさか隕石が降ってくるとは思いもしませんでしたけど」
「…嘘をついたな?いつあの攻撃を仕掛けたんだ?」
コトが終わり、ちょっとだけ恥ずかしくなって定位置——その距離10メートル——につこうと背を向けたところ、しっかと腕を掴まれる。
——うわぉ、勇者様まさかの情熱家!?後ろ手に引っ張られるなんて、なんたるロマンス☆
常の調子に戻った私の脳はすでにピンク色である。
でもそれがバレないようにはっきりいおう。
「嘘なんてついてませんよ?それに何もしていません。ほら」
証明しようと取り出したステータス・カードを差し出そうとして、ちょっと慌てる。
「うぁ。嘘ついてごめんなさいっ。さっきの戦いで援護したのがカウントされたみたいで、レベルが15に上がってマシタ…」
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冒険者 ベルリナ・ラコット 18歳 ♀
レベル 15
体力 18 知力 80 魔力 56
スキル 家事 8/10
細工 5/10
交渉 5/10
捜索 Max
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差し出されたカードを受け取って、眉をひそめる勇者様。
「レベル15でボス4体を同時撃破だと……?」
「ですから、なにもしてないですってば。してたらとんでもなくレベルアップしてるはずですもん」
「……それは…確かに」
森と平地の間に他のメンバーの姿が見えたのを視界の端に収め、腑に落ちない顔をしている彼に、ちょっとだけ近づいて。
右手の人差し指を立て、口元に持っていく。
それは言わずもがな、内緒ね♪のポーズだ。
「勇者様だけに特別ですよ。実は私、特殊スキル持ちでランクMaxなんです。あの隕石はたぶんそれのせいですね」
彼の手の中にある私のステータス・カードが、持ち主の意思を反映して隠された能力についての記述を浮かび上がらせる。
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冒険者 ベルリナ・ラコット 18歳 ♀
レベル 15
体力 18 知力 80 魔力 56
スキル 家事 8/10
細工 5/10
交渉 5/10
捜索 Max
特殊スキル 絶対回避 Max
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特殊スキルとはユニーク・スキルだ。その名の通り個人に与えられる特殊なスキルである。これは神霊の加護に似ているがランクが存在することから全く違うものであるとされている。神霊の加護に対し圧倒的に持つ者が多いのだが、持たないのが普通であるため、いちおう特殊スキルを持つ者は珍しい部類に入る。また、有利なものしか存在しない神霊の加護に対して、特殊スキルは稀に持つ者に不利な条件として付加されることもあると聞く。
それを目にした勇者様は、ゆっくりと灰色の目を私に合わせるように視線を上げて、無言のままステータス・カードを返して寄越した。私がおじさんキラーな微笑みをたたえながらそのカードを受け取ろうとしたところで、横から無粋な叫び声が割って入る。
「だぁぁぁぁっー!お前ほんとに何者だよ?!なんであの隕石の嵐の中で生きてられるわけ?!」
「え?たまたま隕石群が頭上に落ちて来なかっただけですけど…一言で言うと奇蹟?」
「なんかまともに答えられたよ!?」
どうしよう!?とソロルくんが一人頭を抱えているが…まぁいつものように無視だ、無視。
「それじゃあ私、通常配置に戻りますね!」
シュタッ!っと宣誓のポーズを取って、今度こそ距離をとるべく歩き出す。
遅い合流を果たした彼らは、激戦を終えた様子の勇者様を取り巻いて、いろいろと状況整理をし始めたようだ。ここのダンジョン・ボスは攻略した時間から丁度一日経てば復活し、その気になれば何度でも戦うことができるという。今回はファーストアタックで勇者様一人だけでの対戦となったため、パーティ全体の経験値を稼ぐために数日間ここへ泊まり込むことについてでも話し合っているのだろう。