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白い兎耳の毛を風に揺らしながら、魔法使いクローリクは巨大な炎剣が現れた方へ体を飛ばしていた。足下には魔法陣があり、空飛ぶ絨毯のようにその方陣は老人を風に乗せて運んで行く。
「走るのは老体にこたえるでござる」
とぼやいていると、非難がましい視線が地上から向けられる。
「ずるい…」
金色のしっぽを揺らしながらシュシュが呟く。
「黙って走ったほうがいいと思うな」
森において身体能力が向上するシルウェストリスは、苦い表情の少女をどこか馬鹿にするように言った。一人だけだいぶ余裕がありそうに見えるのだが、先に行くと言わないあたりが彼らしい。
「ソロル、余裕があるなら強化魔法をかけてくれないか」
槍で道を開きながら先頭を走るライスが少年を伺う。
「しょうがないなぁ。これだから人間は…」
少年は一言も二言も余計に呟きながら、地上を走る人間二人の足に術を施した。
「間に合うといいでござるが……」
老人がポツリと漏らした言葉に、全員が無言で応える。
走り続けて数分後。
木々の密度が低くなり、淡い光が奥から漏れ始めた。
ようやく森を抜ける!と4人が思った時だった。
青い空に星が瞬く。
失速し立ち尽くす彼らが目にしたのは、空から飛来した隕石の雨と、その先にいた黒くて不気味な4体のモンスターが次々とその雨に打たれ断末魔をあげる光景だった。
もうもうと立ちこめる煙の中に人影のようなものが見える。
前代未聞の隕石の雨をうけて尚、そこに立っていたのは一組のカップル。
勇者クライス・レイ・グレイシスと弱小冒険者ベルリナ・ラコットは、唇を重ねたままそこに居た。