9−1
「今日もすごい雨ですねぇ」
「降り止む気配が見えないな」
「いつになったら止むんでしょうか」
「こればかりは人の身でどうにか出来る事でもないしな。根気よく待つしかないんだろう」
前の世界のチェスに似た戦盤の駒を動かして、今日も今日とて恐竜さんと遊戯にふける。
最早この宿の一階の窓際に置かれた席は私と氏の指定席になっていて、そんな我らの足下に黒い毛玉の魔獣さまがごろりと体を横たえるという風景が日常になっている。
それというのも天候が宿に来てから一向に回復しないのだ。
いくらなんでも降り過ぎだろう!?とツッコミを入れたいほどに凄まじい、バケツをひっくり返したように注ぐ雨。さすがファンタジー世界の天候はひと味違う!と思わせる災害級の雨さんが、すでに十日ほども続いているのである。
*.・*高台にある街で良かったわー…*.・*
低地に位置する村や街を案じつつ、己の居場所に内心で安堵の息を零した私。
名前をベルリナ・ラコットという、ごく普通の18歳。
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えぇと…。
ファントム・タウンに居たハズなのに、気付いたらこの街だったんです。
なんでもこちらのレックスさんが、寝ている所をわざわざ運んでくれたそう。
勇者様が去る間際「これから天気が崩れる」と語って行ったそうなので、ひどい雨に打たれる前に街に着いてしまおうと気を遣ってくれたらしい。
もちろんそれには心からお礼を言っておいたのだけど……。
この豪雨も相まって、きっと先の方へ進んでしまったその人の気配を感じ取ることができない焦りから、やっぱりどこか浮かない気持ちを抱いた私は失礼な奴だなぁ、と。前の席に腰を下ろしたイケメンさんをそおっと伺い、ゴメンナサイ…と心の内で謝罪を入れたりしてるのです。
そんな私はこことは異なる世界から生まれ変わってきたらしい、いわゆる異世界転生者。
記憶?もちろんありますよ。
けれど、いくら前世の記憶があったって、物事はそう上手く行かないよ!と、心の底から叫びたい…。
……スイマセン。たぶん、何日も続いている雨のせい。
きっとほんの少しだけ鬱々としてるんです…。




