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「…どうしたの?」
「……今日はやたらざわついてて、煩い感じなんだよね。近くで鬼火(ウィル)が飛んでるし…こういう日は霊界の門が開くんだ。うわ、鳥肌立った」
「モンスターが近いのか?」
「あー、そういう訳じゃないけどさ…鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)は漂ってるだけで何もして来ない、っていうか何かできるほど強い存在じゃないし。何だろ。無理矢理言うと、死霊(ゴースト)達のばか騒ぎっていうか…お祭りみたいな日なんだよね。そっち系の空気が浮き足立ってて、とにかくザワザワして煩わしい」
起こした火から離れずに、俯いて静かに過ごすエルフ耳の少年に、ふと金髪の美少女が問いかけた。
それに答える少年は、終始鬱陶しそうな表情で火の一点を見つめて過ごす。
鬼火と聞いた彼らのリーダー、黒髪の若い勇者がそのまま会話に加わって、近いうちにそれらとエンカウントするという訳ではないのだと、腕をさすって少年が言う。
*.・*なんだと、お化けのお祭りだって?そんな冗談よしてくれ……*.・*
あっはっはぁ!と、カラ笑いもほどほどに。
またしても偶然会った牛乳紅茶色(ミルクティー)なイケメンさんを放置して、銘入り高級革袋(ブランドバッグ)にしまわれた例のブツの存在に、体がカタカタ音を出す。
こちらの様子に「どうかしたのか?」と、なかなかの美声が横から届き、青い顔に愛想笑いを浮かべた私。
名前をベルリナ・ラコットという、ごく普通の18歳。
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ごめんなさい。
マジ謝るからこっち来ないでっ。
わかってますよ!さっきから向いの林の影で青い鬼火が揺れてるの!
まるで人探ししてるみたい♪とか、そんな嫌〜な雰囲気なのとか!!
——ホワイト・ゴーストのばかやろう!!
そんな風にいつか会ったゴースト・ハウスの持ち主とかを心の中で罵って、アンデッド系のモンスターを寄せ付けない効果を持った護符アイテムを身につける。
その時、思わず口から出たのが「なみあむだぶつ…」な私の前世は、こことは全く異なる世界の一般人。前の記憶を持ったまま転生してきた今世というのが、魔法ありなファンタジー世界だったりで…。
でもまぁやっぱり“一般人”は、変わらない感じ…と言いたいです。
※なみあむだぶつ:正しくは、なむあみだぶつ(南無阿弥陀仏)。
間違ってるよ!?な親切は誰も発揮できないシーン。




