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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
7 中都市ラピサ
64/267

7−7



——あー…残念だなぁ……


 居なかったよ、勇者様。

 はあっと零した溜め息が風に乗って遠くの方へと流れて行って、私は再び視線を落とす。

 人の多い街なのに、市街を流れるこの川は殆どゴミが落ちてない。

 景観維持に尽力している立派な住民の住まう街だと感心し、心の中で拍手を送る。

 ベリルちゃんとソロルくんを部屋におき、ルンルン気分で領主様の屋敷へと向かった私は、勇者様に繋いでくれと下男っぽい雰囲気の人にソロルくんの飾りを差し出した。もちろん中へ通されるなんてことはなく、差し出した飾りの確認が取れるまで、じっと門の外側でその人が現れるのを待っていた。

 が、実際にやって来たのは美中年なライスさん。クライスは外出中なんだ、と申し訳無さそうに言われ、そこまで顔に出ていたか?とちょっと自分を反省した。

 気を取り直し「かくかくしかじかこういう訳で明日の朝に宿の方まで迎えに来て欲しいそうです」と説明すると、ライスさんは「わかった。このことはクライスに伝えておくから。二人の事をよろしくね」といつもの笑みを浮かべて言った。

 用事が済んだ私はそのまま中心街へと引き返し、商工ギルドで貸店舗の契約を本日付けで終了させた。その後は狙っていたお店でお惣菜を次々ゲット。追加の飲み物に念のためバケットのようなパンを手に入れ、たまたま川が目に入ったので覗いてみたという訳だ。

 ついでに対岸を行く通行人らを眺めながら、この風景は世界は違えど同じなのだと考察とかしてみたり。前の世界でも、少し離れた場所から人の流れを見るというのが好きだったこともあり、うっかり深入りしてしまう。


——おいおい、そこの少年よ!!


 おやつを買ってくれなかったと、お母さんの背中に向かって中指立てたらダメだろう!?それはこことは違う世界にある自由を掲げる大国で、FUCKを意味するジェスチャーだ。

 ていうか君、今まさに可愛い顔で「わがまま言ってごめん」的な謝り方してたじゃん。お母さんも「いい子ね」的なセリフを吐きつつ君のあたま撫でてたじゃん。


——母親の目がなくなった途端それですか!?


 ……まぁ、経験からいうと。

 母親なんて職業は、尽くしても報われないのが基本仕様ってヤツですけどね。期待して手を掛け過ぎたらダメなのよ。こっちの心が折れるから。


——お母さんは君を愛しているからこそ、おやつじゃなくてご飯の方を食べて欲しいと思ってるのに……あ、そういやあの子、ちゃんとご飯食べてるかなぁ?


 ふと思い出した前の世界の息子の身を案じつつ、再び対岸の通りに視線を向けると。


——おぉーい、そこのお兄さん!それってだいぶ罪作り!!


 君さっき、ナンパしようと花屋の子に近づいて、失敗したのか小さいブーケ買わされて終わったじゃん。そのブーケを差し出しつつ次の子に声をかけてみたけれど、あっさりと袖を振られて終わったじゃん。もういいやって、川を見ながら泣いてる子に「元気出しなよ?」って軽ーくブーケ渡しちゃうって!!

 おそらく熱い瞳か何かで、青年の背中のあたりを見つめ続ける女の子を眺めつつ。


——ほーら、その子、じーっと君の後ろ姿を見送ってるよ…?


 うわー…気の毒。主に彼女が。

 しかし待て。この世界、神と呼ばれる存在がよく干渉してくる場所だというし。

 かの女神様の恩恵とかで…あの二人、今後どうにかなるのか?と。

 そんな風に思ったところで、不意に知った気配を感じる。


——これって…ものすごく薄いけど、勇者様?


 少し前に獲得した“気配察知”のスキルを強めて、街に埋もれる気配を探す。


——絶対見つける…絶対見つける……何が何でも見つけてみせる。


 しばらくじっと探っていると、より強く背中の方にその感覚が合わせられ。


——やった!同調☆


 どうやら後ろの方角にいらっしゃるみたいだわ♪と、群集の中に混ざり込む彼の姿を視線で探す。

 往復することもなくピタリと止まった視界の中に、襟付きの服に身を包む黒髪の男の人が映り込み。


——あ、いつもの大剣が無い…ラフな格好、初めて見た!!


 と。

 思わず頬が緩んでしまい。

 瞬きをして、さぁ気合いを入れて眺めるぞー!と本腰を入れようとしたところ。

 その瞬(またた)きの瞬間に姿を消したその人を。


——ん?あれ??見間違い???


 大好きな勇者様の街ファッションを見たいという自分の妄想が過ぎたため、勘違いを起こしたか?とキョロキョロ辺りを見渡すが、やはりそこには姿が無くて。

 けれど確かに、そこに立っていた気がしたのだと。

 腑に落ちない心地の上に、居ない人を見て笑うとかヤバ過ぎる、と何とも言えない恥ずかしさが乗っかって。


——か、帰ろうかなー……疲れてるんだよ。きっと、そう。


 こんな私を見ていた人が居ませんように!!と心の底から祈りを捧げ、もちろん逃げるようにして、私はそそくさとその場を後にした。

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