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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
7 中都市ラピサ
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7−3



「…狙われてるのは“豊緑の射手(ビリジアン)”」

「え?何ですかそれ」


 大盛況のまま店じまいを迎えた私は、ベリルちゃんを連れて大通りから数本離れた路地を歩いていた。

 すっかりかわされたと思っていたその話題を急に戻され、反応が少し遅れる。

 気を取り直して聞き慣れない言葉に疑問を返すと、少女は「これ」と呟いて自分が背負う大きめの弓に視線を向けた。

 ビリジアンというからにはどこかにその色が含まれているのだろうと目をこらせば、弛んでいる弦がなんとなく緑色に光っているように見える。弓本体は象牙色で所々に茶色の模様——というか斑(ふ)?——みたいなものが入っており、細い枝が編み込まれて出来たようなデザインと合わせると、なかなかに美しい造形だ。

 ちなみに弦が弛んでいるのは壊れているわけではなく、張りつめたままにしておくとダメになるのが早いため、使わない時は緩めておくものらしい。

 レプスさんに献上した“創星の杖”のように、名前が付いた武器というのは大抵がレアなものなので、取りあえずそこのところを聞いてみる。


「名器なんですか?」

「…いちおう霊弓」

「へー。それはすごいですねぇ」

「…いうほど感動が感じられない」

「(´ー`*)…私、あんまりそういうの興味ないですし」

「…霊弓は世界に7本しかなくて、神弓の次にすごい武器。意思を持ってて使い手を選ぶ」

「ほほぅ、なるほど」

「………説明しても無駄だった」

「え!?そんなことないですよ!」


 ふぅ、と金髪の美少女に溜め息をつかれ、思わず焦りが出た私。

 この手の人に溜め息なんかをつかれると、何故か自分が無性に至らない人間のような気がしてくるからとても不思議だ。


「と、ところでどんな人に狙われてるんですか?」


 このままではいたたまれない気分になってしまうので、すかさず話題をそらしにかかる。


「…紫色の森の妖精」


 いつものように気怠げな態度でこちらを見ずに呟かれたそれに、私の脳内はすぐさま疑問符で埋め尽くされた。が、なんとなく聞き返してはいけないような気がして、開きかけた口を閉じる。

 少し前からベリルちゃんが頑に見ようとしない方向に、同じように視線を向けるまいと努め、しばらく狭い路地を進んだ。

 無言のまま鞄から手鏡を取り出して、間接的にそこを映せば、なるほど納得。


「あぁ、うん。紫色の変態さんですね、これは」


 角の生えた怪人のお面をかぶり、意味不明な衣装をまとった——なんというか、前の世界でいうと戦隊系?の敵っぽい雰囲気の——紫色の髪の男が、物陰に隠れながらじっとこちらを伺っていたのである。

 ちょっとだけ確認で、どうして森の妖精さん?とベリルちゃんに聞いてみる。

 と、「父がよくわからないものに出会ったら、それは森の妖精だと言っていたので」なんて、少し堅い言葉が返り……。

 そういえばベリルちゃん、お父さんのこと嫌いじゃないけど、一歩引いて見てるっていうか。相手をするの面倒くさそうにしてたっけ。思い出すのもちょっと…っていう程なんですね。ならこれ以上は触れるまい、と。

 ささっと鏡をしまい込み「うーん…」と唸る。


「どうします?」

「…どうしたらいい?」


 疑問返しにあったので、ハテ?な顔で彼女を見ると。


「…同じ雰囲気だから、対策とかわかるかなと」

「………ベリルちゃん、それはちょっと私に対して失礼です」

「…何故?」

「私とアレでは行動に込めた熱意とか、美学とか、天と地ほどの差がありますので」

「…結果的には同じに見える。けど、そう。違うんだ」


 初めて知った、という空気で「違うんだ…」と抑揚薄く繰り返した美少女は、そこでふと通りの奥に視線を向けた。


「どうしました?」


 問いかければ、興味なさげな言葉が返る。


「…前に会った怪しい勇者が通りの奥に見えたから」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——え?奥?


 この路地とぶつかる位置の中央通りは、今居る場所からだいぶ遠くの方にあり、人がいっぱい歩いているかも?な様子しか伺い知れない感じですけど…。


——顔なんか判別不能なレベルだし……ベリルちゃんてばそれが見えるの??


 前に会った“怪しい勇者”の名詞に、私の頭は即座にその名を弾き出す。

 この位置からそれを確定できるとは。

 そりゃあすごい視力だな。

 あー、ここってファンタジー世界なんだから、それもアリな能力か〜、と感心し。

 ついでに打開策っぽいのがひらめいたので、提案とかをしてみたり。


「紫色の変態さんを撒くために、悪いですけどその勇者さんを使わせてもらいましょう」


 自分たちが逃げるために誰かに迷惑をかけるなんて…勇者パーティの一員がそんなことできないよ!と断られるかとおもいきや。

 あっさりと頷いた美少女に「やっぱこの子、太いわー」な思いを抱いて。

 少しずつ歩みのスピードを上げながら、私は再び問いかける。


「フィール君、どっちの方角いきました?」

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