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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
5 春の渓谷
47/267

5−10



——あの光草、抗アレルギー薬の材料だったのか……


 むしろ例の調合師への依頼状はそっちの人物に渡すべきだったか?と首をひねるも、過ぎた事は仕方ないと諦める。

 予定よりかなり早めに仕事を切り上げそのまま宿に戻ったが、頭を洗い体を洗い寝間着に着替え薄いベッドでごろごろしても、昼に取った長時間の睡眠がたたりなかなか眠気が来なかった。

 仕方なく薬草辞典を引っぱりだしてレックスさんと集めた光草のことを調べだし、今に至るという訳だ。

 部屋に入れることを断られているパーシーは宿に到着すると尻尾を一振り、喜び勇んで夜遊びに繰り出した。まぁ、賢い子なので人を襲うことはないだろうし、下手することもなく明日の朝には戻るだろう。

 自由な魔獣をうらやましく思いつつ、あれ?もしかして奴の背中に乗ったら簡単に勇者様を見に行けたんじゃ!?しかもパーシーって、がんばれば空飛べそうだし。いやいやしかし。プライベートな時間は覗かないって決めてるから…と、ベッドの上でごろりと転がる。


——やる事が無さすぎる……


 勉強?無理無理。今そんな気分じゃないし。とりあえず頭使う系はパスの方向で。

 じゃあ他に…歌ってみるとか?いやいや。それは隣人の安眠妨害に繋がるからだめですよ。そこそこの値段の宿屋でも意外と壁は薄いので。

 踊るとかも同様の理由でパスだしなぁ。


——これはもう……目を閉じて妄想するしか………!(☆Д☆)


 とりあえずやることの決まった私は、薄い布団をたぐり寄せ己の体をすっぽり覆う。

 愛用の抱き枕を横抱きにして目を閉じたなら、後はいつ幸せな眠りについても大丈夫な状態だ。


——それじゃあ今日は、ベルさんがナンパされて大変!な状況を、颯爽と現れた勇者様が助けてくれるという王道展開で…


 そんな状況に追い込まれることは100%ないと言えるあたりが悲しいが、ないことを妄想するのが楽しいんじゃないか!と思う。

 例えば裏路地に連れ込まれそうになる状況ならこう助けてもらおうとか、単純に数で囲まれてしまう状況ならこんな風に助けられるのがいいとか、いずれも美化200%なイメージ画像をまぶたの裏に張り付けて、ムフフとひとり口元を緩ませる。

 勇者様のサラサラの黒髪が風に舞うシーンとかは欠かせない。

 灰色の双眸が敵を見定め鋭く光るシーンとかも外せない。

 間に合ったか、とか、大丈夫か、とか呟きながらヒロインに微笑みかけるシーンも然り。

 あとはちゃっちゃか悪役をやっつけてもらって、再び二人きりの世界へゴー。

 最後に、君が無事で良かった的な抱擁があると尚良いが、そこはお互いの関係がどこまで進展しているかによってくる。私の場合は、いつどこで何の事件も無くたって勇者様からの抱擁は大歓迎。彼さえよければむしろこっちから行く、くらいだが。


——よし。それならここいらで勇者様に抱きつく練習を……


 まずは腕を大きくあげて彼の懐に潜り込み、つま先立ちで背伸びをしたなら目の前には色っぽい鎖骨のくぼみがあるはずだ!!そこに顔を埋(うず)めつつ、あげたままの腕を回して彼の体をしっかりホールド!!……いや、待て。手をあげたまま近づいて、そこで背伸びをしたとしたら…首に抱きつく感じにしかできなくないか?……そもそもその状態で懐に潜り込むってどうやると??さては私、忍びの者だな!?忍びの者なら大抵の無理設定は押し通せるような気がするし!今度イシュに頼んで手裏剣探してもらおうか……って、なんかヤダよ、その絵面っ!!普通に女の子と勇者様の抱擁シーンでいいから!!こう、ぎゅう、って!!ぎゅう、って!!!

 愛用の抱き枕を横抱きのままギュウギュウに締め付ける私の姿は、もしかしたら客観視して何かの決め技に見えるのかもしれないなぁ、とか。思わないでもないけれど…。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——た…タダだからっ!考えるだけならタダだからっ!!誰にも迷惑かけないしっ!!


 そうして、自分の妄想の痛さっぷりに、うーうー唸ってベッドの上をゴロゴロと転がっている時だった。


——んん?


 薄暗い室内に、窓を透過して入り込む尾の長い青色の小鳥さん。

 しかも体が半透明でほんのり光を纏っており、なんとも神々しい姿なのである。

 清らかな雰囲気というか、同じ半透明でもゴーストなんかとは全く別の生き物だということが直感でわかるくらい。

 小鳥さんはスイーと音も無く室内を旋回し、熱を発する生き物を見つけたという動作で私の顔の先に来る。

 ちょこん、と足をそろえて枕に降りて、美しい羽をしまい込み。

 小首を傾げ。

 可愛らしい声で鳴———。


「夜分にすまない」


 ———かなかった!!!Σ( ̄Д ̄;)

 布団からガバリな効果音で抜け出して、素早く抱き枕に向かって正座する。


——うわ、わわ、わ。ど、ど、どうどうどうっ!落ち着け私!!


 お馬さんへのかけ声的な言葉で、まずは口まわりの空気を飲み込んでみたりする。


「だっ、大丈夫ですっ。全然眠くなくて本を読んでたところですから!」


 そこは絶対に、ちょうどいま貴方の妄想をして楽しんでいたところです、なんて言ってはいけない。


「…それは悪い事をした」

「いえいえ!見てたのは薬草辞典ですので!ストーリー性とか皆無ですから!」


 嘘ではない。

 少し前までちゃんと読んでいたのだし、今もベッドの端っこに放置し(おい)てある。

 まるでこれから夜の長電話を楽しもうとしている一昔前の恋人達♪な状況のなか、本当に悪いと思っているような声で言われ「このままじゃ回線切られる!?」と焦った私は、すぐ用件を終わらせると言われたくなくて勇者様のセリフを遮るように声を返した。

 半透明の青い鳥——精霊とか妖精とかの類なのだろうか?実物を見た事がないので判別できないが——は先ほどとは逆の方向に首を傾げ、こちらを静かに伺っている。

 くちばしに動きがないのに、その場所から声が漏れてくるのは何だかとても不思議な感じだ。


「薬草辞典か……勉強熱心で頭が下がる。流石は知力80というやつか」

「そっ、そうでもないですよっ。生活の知恵ってヤツです!私にはモンスターを倒す力がないので、そういう仕事をこなす機会が多かったというだけですからっ」

「……そうか。あの情報提供は本当に助かった。いつも助けられてばかりで不甲斐ない勇者だな、私は」


 初めて聞く自嘲気味な彼のセリフに、反射でそれを否定しようと口が動くが、続く彼の言葉の方が早かった。


「少し揉めたが、貰ったアイテムでなんとか事を収めることが出来た。感謝する」


 何のフォローもできないままに終わってしまった話の流れに、複雑な想いを抱きつつ。ここは聞き流すのが大人かと、努めて明るい声を出す。


「それは良かったです」

「明日、菓子をギルドの方に預けておくから受け取って欲しい。すぐ固くなるから早めに食べて欲しいそうだ」

「はい!了解です!」

「手渡せなくてすまない。本来なら礼も直接言うべきなんだが…」

「いえいえ、お気になさらずに。気持ちだけで充分ですよ♪」


 フィールドやダンジョンなどとは違い、市街地で貴方様を取り巻く環境は、それはもう複雑なものですからね。そこはちゃーんと理解がありますよー、と言外に伝えておいて。

 少し安心したような静かな声で「そう言って貰えると助かる」なんて。

 目の前で囁かれようものならば。


 いいんです、いいんですよ。

 だって私、貴方の事が大好きなので。

 貴方の役に立てるなら、できることは何だって。

 追い始めてたった三年。

 それだけで。

 今こうして会話ができるということが、私にとってどれだけの僥倖か。


 この幸せがどこかへ飛んでいかないようにと、唇をそっと閉じ。

 幸せ色の小鳥を見つめていると。

 ふわりと鳥は舞い上がり、よく通る声で言う。


「邪魔をして悪かった」


 風も吹かない静かな夜。

 この時間、街の明かりは殆ど消えて夜空の星がよく見える。

 そんな世界に羽ばたいていく青い小鳥に、おやすみなさいの言葉を返せば。

 ほんの少しだけ間を置いて、小さい声で返された「おやすみ」の、その言葉。


 …舞い上がっていいですか?と思わず誰かに聞いたけど、もちろん答える声はなく。

 頭なんかで思うよりインパクトが大きくて、私はしばらくその場所で、ひとりフリーズ状態になってしまったのでした。



*.・*.・*.・*.・*.・*


 勇者の嫁になりたくて。

 異世界からの転生者、ベルリナ・ラコット18歳。

 今夜はなんだか、ものすごく良い夢が見られそう…な気がします♪

え?主人公が気持ち悪い?やだなぁ、今更じゃないですか。


ところで、勇者様のカッコいいシーンはいつになったら見られるのでしょう……不甲斐ない作者ですみません!!<(_ _;)> そこは本当にすみませんっ!(私的にいつだって勇者様はカッコイイんですけどね……誠実な真面目人間であるとことか、間違いや知らない事を認められる謙虚さを持ってるとことか、清廉潔白なところとか…モゴモゴ)



取りあえず、いつも通り書いておきたい所を記します↓


冒険者ギルド上級者:上位者、位持ち、など呼び方は様々。トップランカーな単語を使いたかったが、グーグル先生によると別の意味が含まれるようなので…このままいい横文字が思いつかねば日本語表記のままでいきます。


イシュルカの眼鏡:オーパーツの方の人工遺物。「見たいものが見える」仕掛けが施されています。ベルはその機能の拡張で、探し物を見つける、という使い方をしてました。当然、見たいものが見える眼鏡ですので、ご婦人の衣類の下なども簡単に見え……(ゴホゴホゴホッ)。あ、イシュルカは今の所、異性に興味がないようなので(だからって同性に興味があるという訳でもないですが)そんな不埒な使い方はしてないですよd(>_・ )あくまで護身目的です。交渉相手の懐の下にあるかもしれない刃物的なヤツを見るために。


ベルの愛用抱き枕:マーライホーンという海のモンスターをモチーフに作られたという大きめのぬいぐるみ。こ、これはっ!前の世界の赤道直下な国にある、マーライオンに角を付けたらこうなった、的なヤツ!購入せねば!なテンションでベルさんが買い取った一品。首の辺りに絞め跡がついてます。

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