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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
5 春の渓谷
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5−6



 そういう訳で、どういう訳か今現在、私の横には超絶な美形さんが立っている。

 レックスさんめ。まさかの勇者様狙いってやつですか!?と心の中で突っ込んで、それはないなと即否定。そういうのってちょっとした仕草とか視線とか言葉の言い回しでわかるものだし、実際に隣を歩けば「時間つぶしと勇者様への単純な興味」というのがありありと伝わってくるからだ。さらにその興味の中に、私がどんなふうにしてフィールド中から愛しの彼を探し当てるのか、的なものも含まれているような気がするが。

 特に実害もなければ、エンカウントも処理してくれるし。

 まぁいいか、と一度思えばそれほど気にならなくなってくるというものだ。

 そんな中、相変わらずいろんな花が光ったままの景色を見渡して。


——何度見てもすごいよなぁ。夢の国よりそれっぽい。


 何よりも植物が灯す光量が癇に障る眩しさじゃないところが良い。目が疲れないから、いつまでも見ていられるというか。それはそれで頭がおかしくなりそうだけど、ずっと記憶に留めておきたいと思うくらい美しい。


「足取りに迷いがないな」


 ふと横から降ってきた声に、私は思わずニヤリと笑んだ。


「当たり前じゃないですか。愛する人を追いかけるのに迷いなんかないですよ」

「言ってくれるな。だが、なかなかできないことだ。若いのに大したものだと思う」

「………」

「どうして黙る。ベルは人間じゃなかったか?…まさか、長命種の血が混じっているとか?」

「……いえ、おっしゃるとおり只人(ただひと)ですが。なんか、別に童顔でもないのに若いとか言われると微妙というか……」


 見た目は若いが精神的な年齢の方は貴方様より高いので!……(自分で思ってorz)な気分に、誤摩化すために付け加えたセリフの最後がモゴモゴな小声になった。


「そういうレックスさんは何歳ですか?とても20代には見えないですが」

「いきなり直球で、しかも言外に老けていると言ってきたな?…気分的には24で止まったが。そうだな……実年齢は秘密にしよう。まぁ当然、東の勇者よりは年上だ」

「男子のくせに何恥ずかしがってんですか。秘密とか言われてもトキメキませんよ」


 ジト目で見遣ると、彼はフェロモンたっぷりの、ものすごい流し目でこちらを見下ろした。


——う、わぁ( ̄□ ̄;)


 やばい、イケメンフェロモンにあてられる、とサッと目をそらして少しばかり後悔する。


——トキメかないは禁句だったか?いやしかし…モテる男子は平凡女子の発言なんか、いちいち気にかけないと思うのだが……?


 たぶん今、私はすごく苦い顔をしていると思われる。


「……レックスさん、もしかして“愛の女神の加護”とか、あったりします?」


 目を合わせずにそれを聞いたのがツボにでも入ったのか、横から吹き出すような声が聞こえた。


「今ので少しはときめいてくれたのか」

「違いますよ!“魅了”にでもあてられたのかと思ったんですっ!!」

「それは肯定してるのと同じじゃないか?」

「ぐぬっ……」


 何もかもそのイケメン顔が悪いんだよ!と一人憤慨する私を放置し、相変わらず楽しそうに美形は笑う。それがあまりに楽しげなので、こちらはものすごく微妙な気分になり沈黙を貫くしかなかったが、ひとしきり笑った後に彼はようやく言葉を返した。


「女神の加護は受けていないが、魅了耐性の高い体質ではある」

「………そうですか」


 このファンタジー世界では、愛の女神の加護を与えられている人物は揃いも揃って美男美女。それは彼女が美の女神も兼任しているためだが、それだけで終わらないのが“加護”の恐いところである。

 特にかの女神の場合、異性(稀に同性)に対する“魅了”効果が本人の意思を無視して勝手に発動してしまう。スキルのように能力の高さがランクとして明示されるわけではないので、だいぶ曖昧になってくるのだが。実のところ加護にも強さの程度があって、“愛の女神の加護”についていうのなら、どのくらい美男美女なのか、そして相手に対してどのくらい魅了効果を発揮するのか、といった具合に個人個人で開きがでるという。

 さらに“魅了”能力の高さに比例するように“魅了耐性”が設定されているという仕組みになっているそうで、持てる美貌で他者を惹き付けてやまない人は、大抵、魅了系魔法と同族に対して抵抗力を発揮する。が、しかし。いくら耐性を持っていてもどうにもできない場合があって……要は、自分の耐性値を軽く超える魅了能力の持ち主とかには、結構簡単に屈してしまう…という話。

 ついでに語ると、フィールくんがそうであったように“勇者”は軒並み彼女に愛されていて、加護付きがデフォルトらしい。

 そんな一節を帝国の大図書館で目にした記憶がよみがえる。

 大賢者と呼ばれた人が自分の記物に残しているのだ。

 まぁ、そんなこともあり、レックスさんへの先の質問へと相成った訳であるのだが。


——女神の加護なしでこの顔とは……いや、もういいか。これ以上はやめとこう。


 人は見た目ではない。

 フィーリングだ。

 そして私は己の顔をそちらの方へとゆっくり向ける。


「やっと会えました……!」


 視線の先には、久しぶりの勇者様。


——あぁ…今日もカッコイイ(はぁと)

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