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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
4 フェツルム坑道
35/267

4−7



 暇だなー、と月明かりに照らされた湖畔で一人黄昏れる。

 体育座りをしてしまうととても寂しい雰囲気が漂ってしまうので、とりあえず両足は伸ばしたままだ。

 あの後、どうしてもバツの悪さを拭いきれず、いつもの距離に5メートル上乗せしたあたりから彼らが村へ戻っていくのを見守った。それなりに時間をおいてボス戦の場所から出たはずなのに、思いのほか早く追いついたのは。やはりというか、勇者様の身を案じ後を追ってきた例の娘さんが洞窟内で倒れていたせいらしい。毒で体力をほとんど失っていたものの幸い周りにモンスターの気配がなく、外傷一つなかったそうだ。村の入り口で、運命のような奇跡的生還だったと熱く語る彼女の姿を遠い目で眺めると、時間をおかず私はその場を後にした。

 そうして今は、山道の帰り道で見た、村にほど近い小さな湖のほとりに座っている。

 明日の朝に戻るのでも充分彼らの出立に間に合うはずなので、ここで一晩すごそうとやってきたのだ。涼しい場所に身を置けば、少しは頭も冷えるだろう。


——そういえば。


 イシュがくれたアイテムを思い出し、どんなもんかと銘入り高級革袋(ブランドバッグ)に手を入れる。確か、“mammo-th(マンモ・ス)印の線香:1ダース”という名が付いていたはずだ。

 もちろん1ダースも必要ないので、1本だけと鞄の中をまさぐれば、手のひらに触れたそれは思った以上に大きい様子。どうやら非力な己の腕では簡単に引っ張り上げられそうにない。全く、どんな線香だよ!?と内心悪態をつきながらも何だか楽しくなってきた私は、地面に置いた鞄の口を横向けると、よっ!というかけ声で一気にそれを引き抜いた。


——…イシュよ。確かに私は無駄に大きい意味不(イミフ)なアイテムが大好きではあるけれど。


 先を削れば杭(くい)として使えそうな臙脂色(えんじいろ)の巨大な線香を両手で支え、どうしたものかとしばしフリーズ。

 ここまできたらせっかくなので火をつけよう、と加護石を取り出して、端っこの平らな部分にそれを置く。なにせこの極太線香、小さく見積もっても直径が15センチあり、火種アイテムでは明らかに火力が足りないのだ。

 こんなにも大きいとなんだかすごく気持ち悪い。が、その気持ち悪さが心のどこかでヒットしているのもまた事実。

 さすがイシュ。幼なじみの性格をとてもよく知っている。


「発火ー」


 他人の目には太い線香を抱えて座る私の姿はさぞシュールに映るだろうと思いつつ、火よ起これーと声を漏らせば。赤い加護石から半透明な人型(ひとがた)がにゅっと現れ、滞りなく頭の先を白い灰に変えて行く。


——あ、なんか独特のにおい。 


 個性的だが受け入れられなくもない匂いが、徐々に辺りに充満していく。


——ん?そういえばこれって最後、どうやって消せばいい??


 ちょっと考えてみてほしい。

 この線香はΦ15 cm(ファイ・じゅうご)の長さ100 cm(ひゃく)。

 飽きた所で折ればいい?いやいや。それは無理な話なのだよ。だってこれ、片手じゃ持てないくらい太い上に重さがやばい。力のステータスが貧弱な私には到底折れる代物ではないのである。


——うわ。本気でどうしよう…


 このままではいずれ、手のひらがとても熱い思いをしなければならなくなる。

 なかなかに由々しき事態だ。

 意外と本人、冷静だけども。

 じりじり迫るタイムリミットに良案も思い浮かばず沈黙していると、私の中のアンテナがピンと立つ。


——なんてこと。こんな時に勇者様の気配がこっちの方に近づいてくるなんて…(> <;)


 実はいろいろ今更な気がしなくもないが……。

 心情的に、今は彼に向ける顔がないのである。

 図々しくも参戦してしまったことについて、お咎めなし…というか、スルーされたというか。これまで通りの反応だったと解釈できないこともないのだが、図らずも昨夜の情事——色事の意味じゃない方の!——に居合わせてしまったこちらとしては負い目の方がありすぎて……。あの後、嫌われたとハッキリ悟りたくないがため、いつもなら直視のところをやや横を見てピントをずらす…という手段を取っていたのである(ずらしたところで辺りに漂うイケメンオーラはマジパネェというやつだったけど)。

 いよいよ側まで近づいた半端ない人の気配に、現実逃避で飛ばした意識を慌てて戻す。きょろきょろと辺りを伺い、本日2回目となる気合い一発。重い線香を抱きかかえ、茂みの中に身を隠す。


——土下座ポーズで線香を支える私の姿は、さぞ滑稽なことだろう…


 ほんの少し、線香の頭が茂みからはみ出てしまったのはご愛嬌ということにしてほしいと、頭隠して尻隠さずな己の姿を悲観する。

 それほど時間をおかず先ほどまで自分が居た場所に人が立つ気配を感じ、どうか見つかりませんように!と強く念じていると、その願いが通じたのかすぐ近くに別の気配が現れた。


「勇者様…」


——WoW☆昨日のテイク・ツー!!


 やり直すのか!?昨日のあれをやり直すのか!?凹んだ私をさらに凹ませるというこの仕打ち!!なんたる無情!!と額を地面にぐりぐりこすりつけていると、村娘は一歩踏み出しましたという音を立て再び声をあげる。


「眠れないのですか?でしたら…」

「…いや、外の空気を吸いに来ただけだ」


 全く、何たる再現性!!とさらに愕然とする私をよそに、2人の会話は淡々と続いていく。


「では、ご一緒します」

「………今は一人にしてほしい」

「悩み事ですか?もしそうなら、誰かに話した方が気が楽になりますよ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——勇者様が悩み事?………だとしても、誰かに話すなんてこと、絶対しない人だろうなぁ…。


 土の匂いをかぎながら、見えない場所で苦笑する。

 そうなのだ。

 彼の心はとても強くてとても固い。

 付け入る隙などないくらい頑丈な外堀で、その内側にどんな大切なものを隠しているのかと…私の中の意地の悪い性格が、思わず邪推してしまうほど。

 女という生き物は、ミステリアスと代名されるその不可解な気配の一端を、多く、直感で悟るのだ。そしてどうか自分だけに晒してほしいと、無意識に欲を抱く。

 私だって例にもれずそうなのだろう。

 好きな人が幸せならば、それにこした事はないはずなのに。


——他の誰かに心を開いた想い人を見て泣くなんて。なんて、独り善がりな愛だろう。寂しくなかった訳じゃないけど、だからと言って誰でもいいということでもなかったはずなのに。


 あの日、初めて貴方を目にして。あの時、確かに動いた心は。こんな余計なものだらけの心じゃなくて、もっと澄んだものだったはずなのに。

 人を知るほど欲が出て、今はこんなにぐちゃぐちゃだ、と彼らの側で深い吐息を静かに漏らす。


「……一人が楽な時もある」


 本当に、低くてよく通る声だと、遠い場所でぼんやり思う。

 それが逆に物悲しい。


「すまないが、先に帰ってもらえないか」

「……え、と。す、すみません…出過ぎたことを……あの、私…」


 今度こそハッキリと告げられた拒絶に、言い繕おうと開かれただろう口元が閉じて行く様子がありありと浮かぶ声音で、村娘はついに沈黙してしまう。続く言葉を待っているのか定かではなかったが、シンとした空気に耐えかねたのか、慌てて踵を返すような大地を踏む音がした。


「そ、それでは、先に帰りますね。今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい、勇者様」


 そうして再び静かになった空間で、一人になりたいという勇者様を思い「私は空気…私は空気…」と心の中でひたすら呪文を唱えていると、不意に頭上より落ちる深い声。


「…何をしてるんだ?」

「っ!?いえ、私は空気ですのでお気遣いなく!どどどどうぞ、あちらの方で思う存分、一人の時間を満喫してくださいませっ!」

「………」

「いや、だから、そのですね、私は今、空気の役をやっているのですよ!居るようで居ないものと思っていただければ!」 

「………」

「うぅ…や、やっぱりダメですか?この図体で空気の役は無理がありますか??えぇと…その、実を言うとですね…勇者様のために私も早くここを立ち去りたいのですが、なにぶん…この、これが…」


 両手で支える巨大線香を少し揺らし、その存在を彼に伝えながら。


「これが、存外重くてですね、簡単に持ち上がらないのです…それでその…火をつけてしまったので放置する訳にもいかなくて…」


 困ってるんです、と言葉が口をつく前に、私の両手からその存在が持ち上げられる。

 驚いて顔を上げると、片手でそれを持ち上げた勇者様と目が合ってしまい…。


「ごごごごごめんなさいっ!や、あの、悪気があった訳じゃないんですが!その、つい…いつもみたいに悪ノリしちゃったというか!いくらなんでもアレは図々しかったと反省してますっ!しばらく遠くに居ますから!!しゃしゃり出たりしませんから!だからあの、あのっ…」


 どうか私を嫌わないで。もう少し貴方の後を追わせて下さいと、一番大事な部分がのどの奥に掛かってなかなか出てこない。あぁ、あの子もこんな気持ちだったのかと、涙目のままあたふた焦る裏側でぼんやりと思っていると。


「…あの時は助かった」


 ぽつりと、思いもしない言葉が耳に届く。


「あのとき助けてもらわなければ、確実に誰かを失っていただろう。…何か礼をしなければと思って、来たんだ」


——は………うえぇっ!?( ̄□ ̄;)


 思わぬセリフにぎょっとして固まっていると、勇者様は線香を地面に立てて、ゆっくりと腰を屈める。そして未だ土下座ポーズの私の先に、その大きな手を差し出した。


——こっ…これはっ!?え?えぇと……もしかして…この手を取れという意味ですかっ!??


 いやいやいやいや、いくらなんでもそれは畏れ多いですから!!と、おののく心の片側で、うわ、ものすごく触りたい!そしてそのまま頬ずりしたい!!と欲望丸出しの気持ちが揺れる。

 しばらくその手を凝視して僅差で理性が打ち勝つと、私は土下座の姿からしゃきっと上体を持ち上げた。


「だだ大丈夫です!一人で立てますからっ!!」


 線香臭いこの手で勇者様の体に触れる訳にはいかないと、体を支える両腕にしっかりと力を込める。

 とそこへ、にゅっと伸びる影。


「土がついている」

「……………………?………っ!?……っっ!?!?…っっっ!!!」

「……?」


——いやいや!いやいやいや!!勇者様、そこ、不思議がるところじゃありませんからっ(;゜∇゜)ノシ


 眼前に迫る端正なお顔に、何か疑問に思うところがあるという雰囲気をまとうその人は、動かない顔でジッとこちらの様子を伺っているように見えた。近すぎてどうしたらいいかわからない私は、じんじんと存在を主張する額に残る温もりに、ただ硬直しているしかない。しかし、いつまでもこのままで居る訳にはいかないと、ゆっくりと息を吸い、これ以上無いというくらい熱を発する己の顔を項垂れる。


「っ…はぁっ。し、死ぬかと思っ……」

「……状態は良好だが」

「えぇっ!?」


 視線を外し、やっと息をつく事ができた私に対し、まさかまさかのその発言。下げた頭を思わず元に戻してしまい、再び灰色の双眸と対峙する。

 だがしかし。大人な私は同じ轍を二度は踏むまいと、赤い顔で冷静な対処を試みる。


「もしかして勇者様、他の人のステータス見えてます?」

「体力、魔力、状態だけなら、見ようと思えば見える」

「はぁ…なるほど」


 さすが勇者。そういうスキルは辞典にも載ってなかったし噂にも聞いた事がないので、おそらく恩恵(ギフト)と呼ばれるものの一種なのだろう。

 orzの格好から上体を持ち上げ座り直し、一人納得していると、彼はそんな私の側にごく自然に腰を下ろした。


「限度はあるが、命の礼だ。惜しみはしない。どんなものなら見合うだろうか」

「………えーと。はい?」


 ワン・モア・プリ☆な気持ちのままにピシリと伸びた背筋で返す。


「ダンジョンで受けた礼だ」

「…ダンジョン……?もしかして、私が乱入したアレの事ですか?」


 こちらの疑問に沈黙で肯定を返すその人の隣から、私は慌てて距離を取る。


——そうでした!!ごめんなさいっ!


「な、何もいらないです!でも、できたらそのっ…み、見逃してもらえると……!!」


 ジャパニーズ土下座で言うと、勇者様は短い息を吐き出した。


「何もいらないと言われる方が困るんだ。それに、見逃すという言葉も意味がわからない」


——うっ……確かに、タダより高いものはないって言いますね…。見逃す、についてはその…


 そろり、と視線を上げて、もしかしてそれについてはスルーしてしまってもいいのかと、様子を伺い。


「……では、あの…もしよければですが………勇者様の、魔力を分けて頂けたらと」


 魔力?と少々訝しんだ様子の彼に向かって、あわあわと両手を振って。


「いやその、他意はないんです!怪しい呪術に使うとか、そういうんじゃ全く無くて!」


 論より証拠というやつだ、と鞄からそれらを取り出して互いの間に積んでみる。

 ついでに己のステータス・カードを差し出しながら説明を試みる。


「あのとき皆さんを起こすのに、魔力50をアイテムにそそいだ訳なんですが。私の魔力は総量で56しかないもので…見ていただけると分かる通り、残量が6しか無いんです。で、ですね。私の場合、回復にかかる時間が他の人の倍以上だったりしまして、実は蓄魔石のチャージをするのも一苦労なんですよ」


 はは、と乾いた笑いが口から漏れる。


「さすがにMax 56で希少な魔薬を飲むというのも、何だか勿体ない気がしますしね」


 それならイシュから満タンの蓄魔石を買えばいい、という話だが、なんとなく勿体ないと思えてしまう貧乏性。蓄魔石は汎用アイテムで比較的安価に設定されているのだが、苦労はすれど自分で済ませてしまえるのならそれにこしたことはない。

 でもここで、余りある魔力と回復力を兼ね備えているだろうその人にチャージしてもらえるならば。私としてはものすごく助かるし、勇者様からしてみてもそう悪い話ではないはずだ。………積み上げた蓄魔石、10個くらいあるけれど。


「あ、もちろん可能なぶんだけで構いませんのでっ」


——持ってるの容量100だし……


 2、3個でも充分嬉しい。

 と、ドキドキしながら相手の出方を伺うと。


「……それでいいのか?」

「…………ダメですか?」

「いや……そんなことでいいなら」

「非常に助かりますっ」


 もう一度ジャパニーズな土下座をかますと、頭の先でそれらが持ち上げられる気配がした。

 蓄魔石は前の世界の玄武岩のような模様をしており、表面はツルツルで、9枚入りの板ガムサイズにほど近い。

 勇者様はそんな魔石を一度に3つも掴み取り、魔力を同時にチャージしていく。

 なんたる荒技…と呆然と彼の手を見つめていると、あっという間に作業は終わり、次の3つが掴まれる。


——6つも入れてくれるのか…(ノ_<。)


 思わぬ親切心にだいぶ感動していると、彼は満タンになったらしいそれらを横に置き、残った4つに手を伸ばす。


「勇者様、まさか全部入れるつもりじゃ……」

「?…やめた方がいいか?」

「えぇ、その…魔力がすでに600も無くなっているはずなので」


 恐々とそう言うと、勇者様は「なんだそんな事か」という雰囲気で作業を続ける。


——っ……魔力4桁……軽く1000超えなんですね…( ; _ ; )


 なんだかもう自分の数値が悲し過ぎ、上手く前を見られない。

 片手間だろうと思っておいて今更という話だが、形として実感すると、我々の間には途方も無い壁が立ちはだかっているように思えてしまうのだ。


「……魔薬いります?」

「少しすれば回復するから心配ない」

「………そうですか」


 ええ、確かにそうでした。

 貴方様はこの世界の神霊に認められた“勇者”という神秘の存在でした。

 一般人とは体の成り立ちからして違うんですね………orz


「こんなに入れていただいて、本当になんてお礼を言ったらいいか…」


 魔力が減ったからとて気怠い感じになるという訳でもないので、目の前の人物は何の変化も見せないままにそこに居る。


「それは違う。礼を言うのはこちらの方だ」


 硬い音が届いたけれど、呆然の方向に半トリップ状態の私は普段の照れを表現できず、いやぁいいんですよー、な間延びした返答を無意識でしてしまう。

 ふふふ、ははは、自分ってなんて残念なステータス…と意識を遠くに飛ばしていると。


「スキルが増えてるな」


 ふわっと柔らかい空気が漂って、どんな春の到来か!?と飛んだそれを引き戻し。

 その人の視線の向かう場所を辿っていくと、出したままのステータス・カードの上に行き着いた。


「…気配察知……?」


 捜索スキルと特殊スキルの間の欄に、いつの間にかその文字が追記されている。

 なんだろう、何かしたかな?と不思議に思うが、どうせ考えても仕方の無いことなのだろう。あるぶんには困らないものなので、チャージしてもらった蓄魔石と共にカードを鞄にしまい込む。

 それを合図にその人は下ろした腰を持ち上げて村へ戻る素振りを見せながら、ふとこちらを見下ろした。


「……ここで寝るのか?」

「えっ…あ、はい。そのつもりですが」


 どうかしました?と首を傾げ見上げると、勇者様はわずかに複雑そうな顔をする。

 その姿を伺って、私ってば着実に無表情の中にある微々たる変化を見分けるスキルを身に付けてきているわ!パートナーになるならば一番最初に必要になる技術ですからね!と、心の中でガッツポーズを決めてみる。

 そのまま待つと、しばらく視線を彷徨わせてから放置していたそれに意識が定まって、それでも沈黙が続く姿が見えたので、この話は終わりだろうと推測された。さらにそこから間があいたので、あとは別れの挨拶くらいかと思っていると。


「このアイテム……」


 思わず口にしてしまったという空気を纏い、それきり口元を引き結んでしまう勇者様。お互いにそこに立つ線香に視線を向けて、しばし沈黙。


「……友人がプレゼントしてくれたものですが…もしかして“何か”あります?」


 別れ際についでという雰囲気でくれたものだし、特に何の説明もされなかったので。

 私としては、巨大なだけのネタ商品かと思っていたのだが。


——勇者様が気になるほどの何かの効果が、それに付与されていたとでも??


 ……なんかあり得る。

 あのイシュならやりそうだ。

 気分的に冷たい雫がほほを流れ去る。


——オオカミ少年の逆バージョンってやつですか……今回のおまけって、実はどちらも意味有り物品だったんですね?


 気まずい沈黙が流れる中、遠くの空でこの事態に思いを馳せてニヤリ笑いをしているだろう幼なじみの姿が目に浮かび。ちょっと前とは明らかに異なる、さらなる困惑顔のまま口ごもってしまった勇者様の姿を見たら。


——………まさかこれ、媚薬系?


 ライバルが多い中、イシュだけは私の恋を心から応援してくれていると信じていたのに。こんな応援のされ方は、むしろ逆効果ってヤツですよ!と憤りを抱えていると、彼はようやく閉じた口を開いて言った。


「……鎮静の効果が」

「………え?鎮静ですか?」


——おおっ!?なんだ、意外とまともな効果じゃないですか!


 答えた後にその人がさりげなく視線を泳がせたのを、ほっとして目を離した私は気付かずに。

 あとは片言、別れを交わすと、勇者様は村の方へと帰って行った。

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