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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
4 フェツルム坑道
34/267

4−6



「な…」


 異変はすぐに現れた。

 ボスの近くで構えを取っていたライスさんの体が、ゆらり、と揺れてそのまま崩れ落ちたのだ。

 変化にいち早く気付いた勇者様が寸歩でライスさんの側に寄り、肩を抱き上げその場を飛び退く。


「ソロル、状態回復を…」


 少年の声が重ならないことに疑念を抱いた勇者様は、ボスに向けたままだった視線を後方へと動かした。

 同じように、こちらも彼に向けたままだった視線を後衛の3人に向ける。

 そこには……。


——寝てるーっ!?!!


 金髪ポニテのベリルちゃんが辛うじてそれに抗っている様子の他、白いウサミミもろともぱったりと地面に伏したレプスさんと、訳も分からず旅立ちました感が漂うソロルくんの姿が見えて度肝を抜かれる。


「ベリル、気付け薬か眠気覚まし、を…」


 深良い声が途切れたのを訝しみ再び勇者様へと視線を向けるのと、少女の声が重なった。


「…持って、ない」

「………」


——………え?┌|゜□゜;|┐


 ぱたり、と響くとても可憐な昏倒音。


「えええぇぇっ!?」


 叫ぶや否や、私は自分でも驚き!の速さで銘入り高級革袋(ブランドバック)に片手を入れていた。


——パーティ全員睡眠の状態異常とか!!ほんとシャレにならないですよ、お嬢さん!!しかもコレ、ボス戦でっせ!?


 状態異常攻撃を持っているモンスターが相手だとわかっていたなら、せめて確率減少アイテムを装備しておくべきでしょうよ!!と心の中で突っ込んで、ハタと気付く。そういえば、アレなゲームじゃ結構簡単に手に入っていたから忘れていたけれど。


——そういうアイテムって、この世界ではレア扱いじゃなかっただろうか…?


 己の鞄にしまわれたそれ系のアイテムをいくつか頭に浮かべながら、イシュとの会話を思い出す。

 職業は冒険者、その実ただの一般人である私。唯一の装備品が肩に掛かったアイテム袋という驚きの軽装から察していただけるように、これまで特定の武器を長期間にわたり装備し続けたことがない。よって、職業が確定——剣士とか弓士とか——されることもなければ、その恩恵にあずかることもできず、通常、いろいろなアイテムの「正式名称+効果」が分からない状態だ。

 “毒消し”など分かりやすい名称が記されたアイテムはさすがに理解できるものの、レプスさんが魔法使いの職業を極めたおかげで読み取った“創星(そうせい)の杖”などという立派な名前は、私の前では只の“木の棒”という認識にしかならないのである。

 だから、拾い物や商店で買い込んだアイテムにまさかの付加効果が付いていても、誰かに教えてもらわなければ知らずに終わる。そこで重宝するのが、鑑定・鑑識スキルを所持した商人こと幼なじみのイシュルカ・オーズ。聞けばちゃんと教えてくれるし——商人によっては効果を偽る者がいる。あとはスキルランクが低くて把握してない場合あり——、聞かなくても便利そうなものがついていれば勝手に教えてくれるのだ。

 そもそも付加効果を期待して購入を決めたアイテムなど今まで一つもないのだが…私はいわゆる“引き”の良いタイプらしく、効果付きアイテムを高確率で手に入れる。イシュ曰く「ベルが普通に持ってたり、あると思い込んでるアイテムは大抵がレアアイテム。まず普通じゃ手に入らないものだから」ということだ。

 わずかな間、飛ばしていた意識を戻し奥を見やれば、体力を残した巨大な植物(ボス)が既に一歩を踏み出している。

 この状況。ボスの言葉を借りるなら、ずっと俺のターン、というやつだ。


——えぇい!たとえウザいとか思われても、ここは前進すべき場面だわ!!たとえウザいとか思われても!!(;д;)……勇者様が死ぬより断然良いんだから!!!ここまできたらもう後ろは振り返らないのですよ!!女、ベルリナ!出陣の時!!この戦、たとえ命運尽き果てようとも!歴史に名を刻んでやるのですっ!!!


 うおぉ!!と闘志を奮い立たせ、取り出した“気付け薬(超臭い)”を首に下げつつ、再び慣れた手つきで鞄へと右手を忍ばせる。


——くらえっ!ベルさんの渾身の一撃!!


 手に触れたそれを思い切り引き抜いて、神業ともいえる速さで両手に装着。

 己のなけなしの魔力を注ぎ込み、気合い一発。


「起きてくださーいっ!!」



 ガ、ジャャャャャーーーーーン!!!!!



 途端、けたたましい音が空洞に響きわたり、びりびりとした痛みが耳の奥で踊りだす。

 自分の手により生み出された騒音に思わず細めた目で彼らを伺うと、一人、また一人と頭を振って起き上がる姿が見えた。

 上手くいったとほっとしながら、両手に装着したそれを外して鞄の中へ。

 安眠妨害…もとい、睡眠系状態異常回復アイテム、その名も“クラッシュ・シンバル”。前世ではクラシック曲のトリなどで用いられていた両手持ちの金属打楽器のことを指すが、この世界では先に述べたような効果を発揮する魔道具を指し示す。叩けば鼓膜が破壊されるような痛みを伴う騒音を発するそれは、遠い記憶を持ち合わせる私からしてみると二重の意味でその名前。通常は単体回復だが、魔力50を喰わせれば全体回復にもなるという思いのほか優れたアイテムだ。


「うぅむ…どう、したのでござるか?」


 空気清浄的なアイテムを放り投げ、すかさず物陰に身を潜めた私は、へにゃっと折れたウサミミに手を添えるその人へ声をかける。


「レプスさん!できれば攻撃は氷系の方がいいかと思われます!」

「む?ベル殿?」


 体を起こし首を曲げてこちらを見るレプスさんは、空洞の隅にある岩陰に潜む私の気配にいち早く気付いたようだ。

 さすが獣人。さすがウサさん。と、ヒコヒコが復活した長い耳にみとれていると、奥からボスの叫びが届く。


——おぉ…こちらもさすが、勇者様。さっそく戦闘再開ですね!


 大剣を一振り、間合いをはかって再びボスに切り掛かるその人の姿を見つめながら、起き抜けの体でよく動けるなぁと感心する。


「ベル殿!」


 不意に呼ばれてそちらを向けば、ベリルちゃんが隣に倒れた少年を弓でツンツンつつく姿が目に入る。


「“昏睡”を直すアイテムを持ち合わせていないでござろうか!」

「アテがあるにはあるんですが!近づかないと渡せません!」


 なにぶん我々の間には距離があるので、大声で言わないと届かない。

 ボスは体の一部に実のようなものを付けているので、もしかしたらそれが飛んでくるかもしれないし。射程距離が広そうなモンスターの前に出るなど、いろいろと彼らの邪魔になってしまうこと確実なので、現状、こちらは出口ギリギリに陣取っているのである。

 それでもきっと、レプスさんかベリルちゃんが戦闘の合間をぬってこっちに来ると思っていると、おもむろに持ち上げられた2人の腕が私に対し、おいでおいでと揺れている。

 見間違いか?と目をこするが、ベリルちゃんの腕の動きが早く来いと言っている。


——え、私にそこへ前進しろと……?


 これ以上前に出たら勇者様に近づき過ぎに…と焦るこちらをおかまい無しに速度を上げた少女の腕が、ふと別の手で掴んだままの巨大な弓に向かって行って。


「いいい行きます!行きますから撃たないで!!(ノ> <)ノ」


 いや。実際、私は死なないと思うけど。

 他に的になる雑魚モンスターも居なければ、外部の力の及びにくそうな地下空間、なんて状況ならば。

 その場合の“回避”方法って“壊れる”くらいしかないんじゃないかな……なんて思ったり。さすがに弓の控えまで持ち合わせてはいないので……。


——渡したらすぐ引こう。


 岩から出る前に鞄に手を忍ばせて、目的のブツを取る。

 ちらっと前方を確認し、前衛2人がボスを翻弄している隙に猛ダッシュ。


「っ、これ、これですっ」

「よろしく…」

「えぇっ!?」


 呟くや否や、こちらを放置でボスに狙いを定め始める美少女にギョッとする。

 あれ?おかしいな。持ってくるので私の仕事は終わりのはずでは?と助けを求め、レプスさんを見上げるも。


「ベル殿、攻撃は氷系の方がいいと言っていたでござるが」


 どうしてそう思うのでござろうか?と、期待を超えた予想外の質問を返される。

 内心、微妙な気分になったが、親切なお嬢さんと言われる私は気を取り直しさくっと説明。


「たぶん、ボスの体液に含まれる催眠成分が揮発性(きはつせい)なんですよ。先ほどは炎(ブレイズ)で温められて一気に飛散し、全員が睡眠状態になったんだと思うんです。だから、見かけ植物っぽいですけど炎系の攻撃はダメで、そうすると次に耐性が低いと言われる氷系が妥当かなー、と」


 それはいわゆるカウンターのようなもので、ゲーム的経緯でイメージすると、炎系魔法による攻撃で睡眠の状態異常を反射するというヤツだろう。あちらの世界の記憶を持つ私からしてみれば、条件反撃というのは簡単に想像できる。それをちょっと現実的に考えてみたならば、上記の理由にこじつけられた。


「なるほど……某の攻撃のせいでござったか。シュシュ殿、すまないでござる」

「いい。結局、無傷…」

「ベル殿、危ない所を助けてもらって、ありがとうなのでござる」

「いやいや、私はたまたま近くにいたまででっ(焦)」


 癒し系の微笑みを向けられて、顔がうっすら赤く染まったのが自分でもよく分かる。レプスさんは今だからこそ愛らしさぶっちぎりの雰囲気だが、若い頃はそれはもう、そうだっただろうと思わせる、優しげに整った顔をしてるのだ。素直、優しい、強いときたら……可愛さもにじみ出て、ある意味、最強の人材なのである。


「凍らせる方が体液が飛び散るのも防げそうでござるな」


 ふむ、と顔を引き、レプスさんはさっそく魔法発動の動作に入る。


「あの、ちょっといいですか」


 いろいろとその前に!と呼び止める私を伺って、2人は不思議そうな顔をする。


「いえ、そのですね。お二人が攻撃に入ったら、誰がソロルくんを目覚めさせるのかなー、なんて……」


 ますます不思議そうな顔をする彼らを前に、私の顔に漫画のような雫が一つ流れ落ち。


「頼んだ…」

「よろしくなのでござる」

「………えぇ、はい。あの……はい」


 二対一とは卑怯なり、と思えども勝てるような気もしなければ私が一番暇なのは確かに確かな事なので。


——うぅっ…な、なんでこんなことに……もうさっきから勇者様の「こちらをちら見」の視線が痛くて痛くて息苦しいと言うのに…(ノ_<。)


「グレイシエイトでござる!」


 横でレプスさんが氷結化魔法を放った声を聞きながら、手の熱でぬるくなった小瓶の蓋を引き開ける。“妖精の呟き”という名のこのアイテム。イシュが別れ際にくれたもので、効果は不明。

 だがしかし。

 通常、彼が無償で譲ってくれるアイテムはどうでもいいようなもの——私がそういうアイテムを好むため——が多いのだが、まれに未来を先読みしたかのようなピンポイントの商品を絡めてくることがある。経験的に今回もらったアイテムがまさにそれだと確信したため、封を開けてみたのだが。

 ざわざわと、木々が風に揺れるような音がし始めた小瓶の底を不思議に思う。


——なんだろう、このリラクゼーションBGM。ここでさらに眠りを誘うとは、一体どういう了見か??


 毒は毒、眠りは眠りで制するってことなのか?と意味不明な思考を浮かべていると、やけに可憐な誰かの声が瓶の中から響きだす。


『シーウェ』


——んん?


 まじまじと開いた口を覗いていると。


『シーウェ、あなたは何て可愛いの』


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「っ、ねねね姉ちゃんっ!?!!!!!嘘だろ!?なんで?!僕あいつらと旅に出たはずだよねっ!?」


 真っ青な顔をしてがばりと跳ね起きた少年に、生暖かい視線を向ける。

 ものすごい勢いで辺りを確認し始めた彼は、ひとしきり景色を眺めるとようやくレプスさんとベリルちゃんの姿を認め、次いで私の姿を目に留めて、何をしたといわんばかりに睨みをきかせる。


「いや、涙目で睨まれても恐くないですから」


 ふっ、と生暖かい目のまま返してやると、少年は乱れた髪を手櫛で戻し、慌てて立ち上がろうとする。


「…フロレスタ」

「言うな!それは悪魔の名前だ!!」


 ちらりとも見ずに囁いたベリルちゃんに、すかさず突っ込むソロルくん。


——ほほう。ソロルくんにはお姉ちゃんが居るのかー。フロレスタさんて言うのかー。なるほど、なるほど。


 彼らの横でひとり悦に入っていると、がっしり肩を掴まれる。


「忘れろ!そして二度とそれを口に出すな!」

「はっはっはっ。やだなぁソロルくん。大丈夫ですよー。そもそも私、エルフの森に入れませんし。会う機会もないんですから、名前なんて呼べません。すぐ忘れてしまいますよー♪」

「……なぜだろう。確かに筋は通ってるのに、いまいち信用できないのは」


 そしてそのまま私の持つ小瓶に視線が落ちたのを感じ、顔が白いままの彼にいちおう説明を入れてみる。


「あ。これ、ソロルくんの“昏睡”を直したアイテムです。使い切りなんでご安心を」

「っ……」


 瞬間、私の手から奪うように掴んだ空の小瓶を、自分の袋に詰め込んで。その姿があまりに必死で、思わず漏れた笑い声に、謝罪の意味を込めて言う。


「おわびにこれあげますよ。たくさんもってるんで」

「悪臭を放つ気付け薬なんかいらないよ!!」

「え、でも無いと眠っちゃうんじゃ?今後のためにも一つくらい持ってた方がいいですよ」


——なにせ君、他のメンバーが“睡眠”で留まったところを“昏睡”までいっちゃうくらい耐性が無いんだし。


 乱暴な口調とは裏腹(?)に意外と純粋培養な生い立ちなのかもしれない、としみじみ考えていると、そのままの剣幕でソロルくんは私に怒鳴る。


「いらないってば!!」


 まぁ。反抗期の男の子というものは、大概こんなものだろう。

 仕方ない、とそれを鞄にしまおうとしたところへ横から手が伸びたので、そちらの方へ乗せてやる。


「はい、どうぞー」

「…ありがとう」


——おぉっw(*゜o゜*)w は…初めて聞いた!そのセリフっ!!


 かといって微笑み一つ浮かべない少女だが。もちろん照れた素振りなんていうのも存在しないが、こちらはこれで機嫌が良い時の顔なのだろうと推測された。途端、レアだ!レア顔だ!!とテンションが上がった私はちょっと遠くへトリップしかけ、4度目くらいの「ちら見」の気配にハッとして意識を取り戻す。


——そうでした。忘れてましたが、これはボス戦……


 美少女の感謝の言葉はそれはそれで至上の宝物(ほうもつ)なのだけど。今はそれどころではないのだと、冷たい汗が背中に浮かぶ。


「で、では私はこの辺で……」


 再びダッシュで出口付近の岩場に潜み、勇者様の「ちら見」に恐れおののきながら、彼らが戦闘を終えるのをただひたすらじっと待つ。

 葉茎の先が凍りかけ動きが鈍ったダンジョン・ボスは、ライスさんの大技とベリルちゃんの大技で大幅に体力を削り取られると、勇者様によりトドメをさされ断末魔を空洞内に響かせた。

 ほどなくして立てた葉をぱったり倒し、動きを止めたそれに向かったライスさん。

 ボスの体の一部に目を落とし考察している素振りを見せて、近づいてきた勇者様の方に顔を向け、困ったような声を出す。


「やっぱり、ヴァレリアナじゃないような気がするんだけど。他のダンジョンで見た事あるけど、色が違うし…状態異常の付加確率が高すぎたように思う。変異種かな?」


 それに頷いて、勇者様は膝を折り、ボスの体に手を触れる。


「どう?」

「…変異はしていない。通常のヴァレリアナだ。ただ……レベルが80に達している」

「80!?まさか!!……はぁ。依頼がオレたちに回ってきてよかったねぇ…無駄な死人を出すとこだったよ」

「あの女、嘘ついたな…」


 萌葱色の髪を揺らしながら、苦い顔を浮かべるソロルくんが会話に入る。


「そうとも言えないかもしれない」


 神妙な声で語る勇者様に対し「え、クライスが女の味方!?」という正直な感想を貼り付けた少年の頭を、後ろから歩み寄ったベリルちゃんが無言で殴る。


「ボスの討伐依頼は、半年ターンだと言っていた。レベル40で復活なら、もしかすると……」

「なるほどでござる。つまり前回、依頼を受けた冒険者がとどめをさし損ねたか」

「討伐を偽った…」


 レプスさんの言葉を継いでぽつりとこぼしたベリルちゃんに、勇者様が一つ頷く。


「そういえば。ギルド嬢も、ここ数ヶ月でクアドアのダンジョンに冒険者が多く流れたって言ってたね…。経験層が潜らなかったら、モンスターの湧きがボス討伐前と変わらないなんて分からないかもしれないな。もともと洞窟系は人気がないし…ここは辺境と言える場所にあるダンジョンだしね」


 そう言って苦笑を浮かべるライスさん。


「それにしても、レベルが上がるボスなんて居るんだ?」


 視界の端で美少女と「なんで殴った?」「…つい」「つい、って何だよ!」「…バカっぽい顔してたから?」「疑問形かよっ!?殴られ損じゃん!」「…(ふるふると首を横に振り、至極真面目な顔で)バカが直った。損じゃない」「…………」という問答を繰り広げていたソロルくんが、気持ちを切り替えようと奮起して大人の話に復活する。


「時間依存で上がるタイプはここが初めてかもしれないでござるが、条件によってレベルが変化するモンスターやボスが出現するダンジョンは他にもあるでござるよ。といっても、どうしてもリスクの方が高くつくでござるから、冒険者には人気がないでござる」

「へー。あ。じゃあもしかして、ここのダンジョン攻略の依頼が半年おきってのは、ボスの体質に加えて中堅レベルの冒険者でも倒せるうちに、っていう意味もあるってこと?」

「あるいはな」


 折った腰を戻しながら、勇者様は話を締めくくるように囁いた。

 それから体を反転し、そのままイケメン顔をこちらに………。


——っ、向けてきたぁぁぁぁっっっ!!!


 心の準備?まだです無理です、な私はサッと身を引き、自分の背中を岩陰に打ち付ける。ものすごく不自然な感じで勇者様の視線から逃げてしまったが、致し方ない事だと思う。

 何故なら、ほんの少し前まで「え?押せ押せ系女子ってウザい?というか最近調子に乗って近づきすぎた?うわ嫌われるの恐っ!初心にかえって控えめ女子を目指そう!!」と心を入れ替えようとしていたのだ。それをパーティ全員が状態異常になって、このままじゃ勇者様死ぬ!?と焦った結果、図々しくも途中参戦しレプスさんにモノ申すようなマネまでしてしまい…そう、完全に“最近のノリ”で彼に接してしまったのだ。

 これが隠れずにいられようか。いや、いられない。

 消せないとわかっていても、さっきのアレを半分無かった事にしてもらえないかと、会った事もないこの世界の神様に強く願いを込める。


——ごめんなさい!心の底からごめんなさい!!もうしまっ……せんとは言えないけど!!ゆ、許して下さい!そして私を嫌わないで!!((;д;))


 両膝を抱えながらしばらくカタカタ震えていると、何事も無かったかのように大空洞を出て行く彼らの気配がした。

 たわいもない会話と足音が遠ざかって行くのに比例するように体を持ち上げ、辺りの様子を伺う。

 お咎め無しな雰囲気に首をかしげながらも、少ししてから私は彼らの後を追い、地上を目指したのだった。

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