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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
4 フェツルム坑道
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4−5



 “洞窟系”のダンジョンは基本的に薄暗い。

 そしてそれには2つのタイプがあって、人工的にできたもの——いわゆる“坑道”なんかも含まれる。厳密に言うならばそれを洞窟とは呼ばないのかもしれないが、土や岩の中の空間でモンスターが出るならば“洞窟系”と一緒くたにされている。

 そもそもダンジョンと言うものは、階層を持つ洞窟なんかを指し示すような気がするが、この世界における“ダンジョン”はモンスターの出現・徘徊頻度の高い、建物もしくは土地を指して使われる。

 話を戻し、2つあるタイプの洞窟系、もう一つのタイプとは、まんま自然物になる。

 前者の場合、元々は宝石や鉱物、その他の特殊な石を求めて掘り進められた坑道なので、等間隔に何かしらの光源が置いてある。

 そして後者は、風穴(ふうけつ)や鍾乳洞などを思い浮かべてもらえばいい。自然の営みの中に生まれた産物で、そう深さは無いが、珍しいモンスターが徘徊していたりする。もちろん光源などは置かれていないので、魔法か道具で辺りを照らしながらでないと前進するのも難しい。蛇足になるが、現在までに発見されている洞窟系ダンジョンの存在比率は、人工物が7の自然物が3である。


 山間の村フウの近くに確認されている洞窟は人工タイプで、入り口が山の中腹にある下方進行型のダンジョンだ。

 村を発つ前に村娘が語った通り、入り口から一層下ったところからモンスターの徘徊が始まった。入り口近くで留守番をすることになった彼女に気取(けど)られぬように進入するため少し時間をかけたので、勇者様はさらに下の層まで進んでいると踏んでいる。

 ちなみに今回、パーシー(魔獣)は村娘の近くに置いてきた。なんとなく、彼女が思い余って勇者様の後を追ってくるような気がしてしまい……もしそうなった場合、陰に潜んで彼女の援護をするように、と言い含めておいたのだ。

 出発前に口約束を交わしているが、いくら自己責任であるといっても娘が傷物になって帰ってきたなんて話になったら揉めるのは目に見えている。この世界には回復魔法があるのだが、傷跡が残ってしまうということが普通に起きるのだ。

 約束を安易に交わす者ほど、何か起きたら態度を一変させるもの。経験的に分かっているから、勇者様はそれらの人を嫌悪する。もちろんそんなこと、態度には絶対出さない——というか出ない?——が。それに元々、彼は人が苦手なのだろう。まだ苦手で済んでいるのに、娘のことで村人と揉めるようなことになったら、うっかり嫌いに発展してしまうかもしれないと……。そんな不安が心の奥でくすぶって、何となく見逃せないこの状況、だったりするのである。


——それに、まっすぐぶつかるあの娘(こ)の態度は嫌いじゃないし。


 同じ好きなら正々堂々、正面きって競い合うのが正しい姿なのだと思う。だから、陰でコソコソ動いている某国のお姫様方は、正直あまり好きではない。なんて。力任せに出ばられれば一般人の私にはなす術無しと言えるので、この意見には間違いなくやっかみが混じっているのだろう。

 というのも実は……まぁ、よくある話だが。私の愛する勇者様は、なんと貴族階級の出なのである。そりゃ、あれだけ立派な名前ならね…と。その事実を知った時、なぜ初めに気付かなかったのかと愕然としたものだ。ここで、家柄を狙ったつもりは毛頭ない、と声を大にして言いたい所だが。そうしたところであまり意味をなさないだろう。よってこの話には極力触れないようにしている。

 幸いなのは、勇者と呼ばれる人達が基本的にどの権力にも属さない——つまり、国は出自による彼らの所有を主張してはならない、という協定が大陸内で結ばれていることか。

 ただし、ちょっと厄介なのは。

 彼が“職”をとるうちは、国家権力の及ばぬ独立した存在として扱われることになるのだが、彼が“家”をとるならば、あとは想像する通り。

 平民、しかも元は孤児という低め身分の私には、難易度高めな設定だ。

 一応の希望としては、彼の国が貴族と平民間の婚姻を容認していることで。それでも厳しい現実は、彼が一人息子であるということか。


——私は嫁になれるかな…?


 なんとなく不安になって、いつものポジティブがなりを潜める。


——勇者様のためにできることって、実はなかったりするもんなぁ……


 特殊スキルには恵まれたものの、体力魔力共々、地の底を這っている。同じレベル15でも、他の人はもっとパラメータの伸びがいい。

 冒険者ギルドでは加入の際に知力が高いと驚かれたことがあったけど、この世界が余りにもファンタジー過ぎたので、生きるために…受け入れるためにと、がむしゃらに知識を集めた結果に過ぎないのだし。

 前の世界の話のように、始めから美少女で俺TUEEな状態ならば、余裕でお供が出来たのだろうけど。


——まぁ考えても仕方ない。今まで通りでいいじゃない。ちょっとづつ近付こう戦法でいいじゃない。どうせ他にやりたいこともないんだし。これはこれで楽しいし!


 どんなに思い悩んだところで結局私にできるのは、彼を追いかけることくらいなのである。そしてちょっと困っていたら、ほんの少し手伝わせてもらうことくらい。あとは大きなお世話というやつだけど、命の危機を無理矢理回避させてもらうくらい、か。


——…ん?なんか、3つもあるな。できること。こっちの都合ばかりだけれど。あれ?思ったより私って、やればできる子なのかしら!?


 なんとなくポジティブ再燃。


 開き直ればこちらのもので、気合いを戻し再び移動を開始する。

 相変わらず薄暗い空間を、遠くに見える光源を頼りに邁進していく。徘徊音や体色にもよるが、慣れてしまえばモンスターの位置をつかむのは意外と容易い。あとはなるべく見つからないように進めば良い。どうしても避けられなかったエンカウントは、加護石を用いてモンスターを足止め→逃走でやり過ごし、どんどん下へと降りて行く。

 見た目にも強そうなモンスターが現れる階層に着いた時、そろそろボスの居る場所だと直感が告げてきたので、慎重に先を急いだ。

 怪しい窪地を避けた先でふと顔を上げたとき、折れた通路の奥の方から漏れる光を発見する。その光量からレプスさんの魔法の光(フォト・スフィア)だと察した私は、そろりそろりと近づいて、ボス戦が繰り広げられているとおぼしき大空洞をそっとのぞいた。




「右!!」


 いつも、のほほんとした調子のライスさんが、鋭い声を発している。

 その言葉を受けた勇者様が大剣でボスの右側を薙いだ時、枯れ草色の体液がパッと辺りに散らばった。


「ソロル!」

「resisto somnus(レシスト・ソムヌス)!」


 名を呼ばれるのとほぼ同時に、エルフの少年が勇者様に対して補助魔法のようなものを発現させる。

 それを目の端に留めながら。


——うわー。ソロルくんてば、ほんとに聖職者様っぽい。


 などと感心していると、ぽつり、と小さい声が耳に届く。


「降れ…」


 声の主を探して辺りを見回せば、後方に控えたレプスさんとソロルくんの間に立った金髪ポニテの美少女が、今まさに弓を引かんと緑光を放つ矢に手をかけていた。


——おぉー!ベリルちゃん、なんだかカッコイイ☆


 そのまま上方に放たれた魔法の矢は、空洞の天井付近で溶けるように波紋を作ると、花のような幾何学模様を浮かび上がらせる。綺麗だなぁ…なんて見とれていると、次にはえげつないとしか言いようのない攻撃——矢?による上空からの連続打撃——がひっきりなしに降り注ぐ。

 前衛の2人は退避しており無傷だが、植物系とおぼしきボスは、体のあちこちに開いた穴から先ほども見た枯れ草色の体液を滴らせる結果となった。

 とそこへ。休憩なんて与えませんな雰囲気で、タイミング良くレプスさんが声を張り上げる。


「ブレイズでござる!」


 シャランラー☆な白い星の煌めきが過ぎた後、足下から爆発するように立ち上った炎がボスの体を包み、焦がしていった。

 この世界には、前の世界のゲーム設定でよくあったように「植物系の敵→とりあえず炎系魔法で攻撃」という定石が存在している。だから、火だるまになるボスを見つめながら誰もがその選択を正しいと認識していた。

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