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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
4 フェツルム坑道
32/267

4−4



 明くる日の早朝。

 村の入り口が見える物陰に陣取った私の視線の先で、見慣れたパーティメンバーと、彼らを見送りに現れたらしい数人の村人が揉めだした。始めは小さい声だったのでよく聞き取れなかったが、段々と声量が増して行き、ついにはハッキリと聞いた声があたりに響く。


「ですから、私もお供します!」


 そう言って勢いよく歩み出たのは、例の村長の一人娘である。鳶色(とびいろ)の髪を結い上げて動きやすさを重視した服装に身を包み、背中には矢を収めた筒と木製の弓をしょっている。


「大丈夫です!自分の身は自分で守れます!それに道案内が居た方が絶対良いと思うんです!」

「それでも…」


 言いかけた深い声を遮るように、村長夫妻が娘に続いて歩み出る。


「どうか、私たちからもお願いします。これでも村一番の弓の使い手なのです。決して勇者様のお邪魔になるようなことはさせませんので…」

「お父さん…お母さん…」


 うるうるとした瞳で自分の親を見つめているだろう娘の姿に、よくあるよなぁこういうイベント…と思いつつ話の展開を見守ると。


「遊びに行く訳ではないんだ。運が悪ければ命を落とすことになる。そう軽々しく…」

「はい。それは充分わかっています」

「私どもも、承知しております」


 踏みとどまらせようと発せられた言葉を遮って、期待を隠しながら神妙な顔をして頷く娘と、あっさりと了承してしまう娘の両親。勇者様は言いかけた口を閉じ、ただただ視線と沈黙を彼らに返す。

 そんな様子を離れた場所から眺めつつ、いつもはほとんど動きを見せないその顔を盛大にしかめただろう——とはいえ、普通に見たら僅かな変化でしかないのだが——ことを予感してこちらのほうが汗をかく。ある意味、大事な娘の命さえ軽く扱う気配を含んだ彼らのセリフは、まさに今、彼の地雷を踏んだのだ。

 あちら側からしてみればレベルの高い勇者パーティに預けるならば、何が起きても娘は無事だと確信しての“承知”なのだと思うけど…。アクシデントが起きた時、その娘の存在がどれほどパーティの枷となるのか、彼らはわかっていないのだろう。今までも何度か目にした事があったので、彼がこういうシチュエーションを嫌うのはよく知っていた。

 だがここで、その感情を無言で飲むのが勇者様。

 どうあっても連れて行かざるを得ない状況であることを悟った後は、可能な限りの情報を手に入れる。


「洞窟のモンスターレベルは分かっているか?」

「地下一階層からの出現で、20台からです。深くなるほどレベルが上がり、これまでの記録上、ダンジョン・ボスは40台前半だと予想されています」

「山道でのエンカウントは?」

「フィールドと同じ頻度ですが、まれにレベル30台の自然発生のゴーレムにぶつかります」

「貴女のレベルは?」

「28です」


 返った言葉を租借して、わずかに間を置いた後、再び口が開かれる。


「洞窟の入り口までだ。そこから先は連れて行けない」

「勇者様!!」


 ぱあっと喜色を浮かべた娘から視線を外し、パーティメンバーを振り返る。ただそれだけで彼らの間にいつもの会話が成り立ったのだが……彼女がそれを知る事は、永遠にないだろう。

 そういう訳で、村でのイベントを終えた彼らは一時的に村娘をメンバーに加えると、ようやく裏山にあるダンジョンへと出発した。

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