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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
23 小都市リセルティア
237/267

23−4



 そんなこんなで我々は、冒険者ギルドを後にして、横並びのまま目と鼻の先の東の門へ行き、翌日のフェスタの設営を何となく眺めて過ごすのだった。

 最初の舞台になりそうな門の外の街道の、横に広がる平原にさり気なく目を配べながら、各々が思う所を眺めたり確認したり。よくよく見れば我々の他にも観光がてらの冒険者職、数グループが、明日のフェスタはどんな感じかと同じように下見をしているようだった。事前情報は大事ですよね、とそっと心で頷いて、次は街の方へ行こう、なクライスさんの誘いを受ける。

 ここで少しだけこの小都市の形状を説明すると、リセルティアは他の多くの都市部のように、主要な街道を街の東西南門に配置する形をしている。特徴としてあげるとしたら、他の都市より北に出張った楕円に近い卵形を取っている事、なのだろうか。南門から一直線に北へと進路を取れば、古代国家の一員らしくも道は入り組んだ形になるが、こちらも他の都市部のように領主の家に行き当たる。

 東西南の街道はそのまま街の内部では大通りとなっていて、T字路の交差点には他国の街にも見られるような憩いの噴水広場が広がり、往来の無機質をだいぶ緩和してくれている。依頼主であるオルティオくんと待ち合わせをした、まさにその場所。そこから東の通りに沿って暫く歩いて行くと、門からの距離およそ100メートルに冒険者ギルドの支部がある。

 この時代、国にもよるが都市の殆どが城郭都市で、街全体を城壁で取り囲む形をしている。そしてファンタジー世界らしくも城壁の高さが半端ない。たぶん、魔法で積み上げたのかな——?そんな単純な考察になるが、リセルティアの城壁も中々立派なものである。

 どこの街でも基本的に城壁伝いに通りがあって、大抵の場合、門から入って城壁伝いの通りを跨ぎ、1、2軒目に陣取っている“冒険者ギルド”であるのだ。街や町や村ごとに建物の規模は違えど、該当ギルドに属する者には入りやすい場所にある。

 只今こちらを通過中、という訳だ。

 そこから東の大通りに沿い街の中央に向かって行くと、スルーしてきた多くの店舗が再び我らを迎えてくれる。武器・防具屋に薬屋さん、魔道具寄りのアクセサリー店、ファストフードを含むお店に、冒険者用の衣類店。小規模とはいえ街なので、それはもういろんなお店がお客を得ようと犇めいている。

 私が肩から下げている使い込んだブランドバッグは、大量収納はもちろんのことデザインにも配慮した有名なお店の物で、小ネタになるがいつぞやのレックスさんの黒い鞄と、銘(ロゴ)を同じくしていたりする。自慢という訳ではないが、こちらは王都というような国最大の都市でもないと店舗を出してないような“ブランド店”の銘(ロゴ)である。普通の都市ではまず殆どお目に出来ない商品で、もちろんこの大通りで見かけられる代物ではない。前の世界の“ブランドもの”とも感覚はだいぶ違うのだけど、それなりにレアな商品なのだと思って貰えれば十分だ。

 話を戻し、少し前にクライスさんが欲しがった、見た目を変えるアイテム系をおそらく売っているだろう店。ダンジョンに挑む為のものではない、およそ命の危機などに関与しないだろう商品——嗜好品…と言っていいのか不明だが、個人の好みで使用するファンタジックな商品——は、薬屋さんとはまた違う魔法薬店にも売っている。が、魔法薬は薬の切れ目をコントロールできないものが多いので、魔道具チョイスだったのだろうと思うに至る。前の世界の創作物でよく用いられていたような、指輪だったり腕輪だったり、そうした簡易な装飾品で、髪や肌色を変えられるのだ。

 魔道具による色の変化はファッション感覚に近いものがあり、おしゃれ好きな一般人も気軽に楽しんでいたりする。そうした意味で魔道具店は客層の広い業界(せかい)といえるが、生まれついてカラフルな色を纏うような世界の住人…まぁ、需要は推して知るべし、といった所であろうかと。使用している人もそれなりにいるだろうけど、だからといって目立つとかあり得ないレベルだし、アイドル職のない時代、そもそも見た目の流行り廃りが存在する筈もない。余り見かけるものでもない、な私の感覚だ。

 一応、大事な所を話しておくと、髪、肌、瞳の色を一定時間変えるアイテム、これらの商売は薬や道具に限らずにそれぞれの国で許可されている。が、まるっきり見た目を変えるアイテム、骨格や目鼻の配置、種族の特徴までもを変化させるアイテムは、普通、どこの国でも取引を禁止されている。犯罪に使用される可能性が高いため、売った方も買った方も処罰の対象である。

 とまぁ、こんな感じに長くなってしまったが、そうした雑事を考えながらしばらく歩いて行けば、お目当ての魔道具店の看板が見えてくる。そろそろ自然に感じられつつ…なクライスさんの素の姿。ここまでも、もちろん往来の住人、通行人共に彼の存在を総スルーである。ジロジロ見られる事もなく普通にお店のドアを開ければ、いらっしゃいませ!な愛らしい声が普通に響いて消えて行く。レジに立つ売り子のお姉さんからのチラッと視線も、あぁ、カップルで来店か、くらいの空気で。


——……全く、これっぽっちも、カップルじゃありませんけどね…!?


 と、クライスさんの斜め後ろで、いやいやいや!と内心否定。

 何故に同性のそちらの声は、こうも分かりやすいのか。ちょっと放心しつつ…で進む、髪色などを変えるコーナー。ピアスやイヤーカフスなど耳に付ける系の他、首輪、腕輪、指輪のタイプ。デザインも繊細系からパンク系といろいろあって、只のアクセサリーとしてもイケてるような可愛いような。付けているのを隠したい…な需要に対しては、目立ちません!な手書きPOPでピンキーリングが推されていたりと、なんとなくこのコーナーは女子向けの雰囲気だ。

 まぁ、見た目を変えるとか、単純に女子の方が好きそうだしね…と。

 ぼんやり見上げる棚の前にて、クライスさんはしかし臆さず、じっと並んだ商品を品定めしているようだった。ごく自然に、男性向けの一角にあるシンプルリングを、手に取って指にはめ。頭頂部からしっとりと色味を変えた黒髪は。


「おぉー、すごい!キラキラしてますっ」


 どの角度からどう見ても、サラサラ、ツヤツヤな金髪に。

 うん、と一つ頷いて、隣のコーナーに移動して。似たようなシンプルリングのアイカラー変化アイテムで、瞬き一つ、青味を湛えたクライスさんの双眸は。


「おぉー、すごい!碧眼ですね!」


 と讃えられるべき美しさ。

 いまいち私のテンションが分かりづらい感じがするが、お店ではしゃげる良識内で大絶賛をしている所だ。

 そう、まるで、その姿。


「勇者様みたいです…!(*´∇`*)」


 つるっと滑ったこの口に、クライスさんは一瞬硬直。

 すぐに気付いて「はっ…(;゜ロ゜)」となる、私の顔を見て苦笑。

 顔は全く似ていないが…と続けられたセリフの中身は。


「養父(ちち)がまさにこうだった」


 な、複雑気味な呟きだ。


「これでは目立ち過ぎるか…」


 と、鏡を見遣り語る姿に、違和感無く似合っているが、確かにこれは目立つかも…と。


「じゃあ、茶色とかどうですか?」


 なんて軽く提案してみるも、何故か珍しく嫌そうに、「それはできない」と吐き捨てる。


——え、何か嫌な記憶でも…?(・・;)


 一瞬、目が点になるけど。

 流した視線の先に輝くピンクゴールドの指輪に気付き、スと伸ばされた指が拾って付け替えがなされたら。

 黒に戻りつつあった頭部が優しい桃色(ピンク)に塗りつぶされて、少し考えたクライスさんは次に瞳を緑に変えた。


「……お、思い切りましたね」


 と。

 桃色の髪に翡翠の瞳、そんな姿の彼を見て。

 思わず内心。


——これではまるで……ギャルゲーの攻略キャラか、乙女ゲーのヒロインか…という色味じゃないですか…orz


 と。


——しかし…この見た目なら。名前はきっと“夢見草・桜(ゆめみぐさ・さくら)”さんに違いない。あ、男子でも“桜くん”…うん、なかなかいけておる。いっそ、そういうキャラ変で生きてみてはどうだろう?ギガを越えたテラ進化的なノリとかで。いける。いけるよ、クライスさん!


 そもそも何が悪いというと、桃色フローラル&シャランラー.**☆な超・変化を見せたって、元がいいから似合っちゃうというファンタジー仕様な“彼”が、ねぇ。何度もいうけど、マジ、パネェんです。普通にイケメン入ってますし。しかも桃色…桃色ですよ!?いつものビターな雰囲気保存で、見た目だけめっちゃ春めいている!なにそのギャップ!!金髪時とは違った理由で逆に目立つよ!?そんな姿で睨まれたって全然怖くないんですからっ!…ないんですからっ!……ない…けど、さすがにこれでは華やか過ぎて、人の目を引き過ぎる…かな。


——クライスさん。どうやら貴方の顔面偏差値からして、髪色が華やかになってしまうと、せっかく絞ったスキルの効果が激減ですよ…。


 当の本人は私がそれきり口を噤んでしまうものだから、視線だけで「どうなんだ?」と感想を求めてきている。

 ……ここはハッキリ言うべきだろうか。

 おそらく、言うべきだ。

 貴方は黒髪でいる状態が一番目立ちません、と。

 しかし…そんなこと言ってしまったら、あらぬ誤解をされまいか…?こいつ結局、黒髪の俺が一番好きなんだな、と。つい先ほどそんな素振りを見せてしまったし…。その通りだけど、変な誤解は…誤解は…誤解はぁぁあ!!(ノ≧ロ)ノ


「あ…あの、非常に申し上げにくいんですが…。黒髪が一番似あ…じゃなくて!目立たないと思います!!」


——うぉおぉお!!!言い間違えたっ!!!<(T△T)>


 そんな嘆きはつゆ知らず。

 クライスさんは鏡を見直し、「……確かに、そうかもしれないな」と。左の人差し指に通した二本のリングを外して戻し、黒髪に灰の瞳の状態にお戻りに。


——……うん。地味だ。隣の私がホッとするほどの地味イケメン。


「たぶん…きっと、大丈夫だと思うんですけども。万が一入賞でもしたら、トイレとかに逃げてもらってもいいですか?」


 と。

 勇者をつかまえ、失礼を直球で言う私だが。


「他にあてが無い訳でもないんだが…どうにもならなかったなら、そうしよう」


 クライスさんは頷いて、いつもの顔で語るのだった。

 それから店を出た我々は、もういちど噴水広場へ戻り、街の簡単な地図が描かれた看板に目を通す。

 大陸用語で“現在地”と書かれた場所に、犬の像の絵があって、それとなく辺りを物色。噴水広場の端に置かれた黒きお犬様の彫像を見て「ふーん」と納得、地図へと戻す。

 東西を結ぶ通りと南門から延びた通りが、おおまかにT字路として結ぶ区間の道沿いに、有名な店や多様なギルドの支店を示す銘(ロゴ)が並んで、それらが隔てる下半分の二つの土地は、東地区、西地区との区分けがされている。

 南門から北に引かれた大通りが突き当たり、噴水広場からいくらか左右にずれた場所、東西の大通りから北に位置する領主の家へと湾曲して延びる通りは、領主の家にほど近い地区を“貴族地区”として文字を打ち、幾許か庶民が暮らす地区に近い右上部には神殿を示す銘(ロゴ)がある。

 他は役所やちょっとした学術機関、楽士やら芸術家などの記念家屋(メモリアル・ホーム)らしき文字、他の街では滅多にお目にできない、領主の家の周りを囲む広そうな森、などだろうか。


——それから、いかにも“古代国家”な異教の神殿。


 現在、大陸に蔓延している神国の教義と異なる、古代信仰の名残…というか。

 同じ街に二つの神殿があるのは稀で、稀であるがいくつかそういう場所を知っている。神国が掲げる教義は“排他”ではないけれど、まぁ、他を受け入れ過ぎたら統一など図れない。記録などは残さないようにしているだろうが、力ずくで他を廃した土地ももちろんあるだろうし、見えない圧力などをかけた土地もあるだろう。時の風潮に煽られて店を畳んだ古代思想も、相当数あると踏む。が、この街のように根強い何かがあると、住む人も気付かないまま残っていたりもする訳だ。故の、神殿っぽい建物の絵柄の上に、銘(ロゴ)無し表記、となる訳で。気になる人にはすぐ分かる、ここは異教の神殿、だ。

 お互い無言で少しの間その看板を眺めると、いくらフェスタが街ぐるみといえ、貴族地区には入らないだろう、そんな単純な憶測を付け、それでも一応、領主の家へと延びる通りの確認をした。

 庶民が使う通りとは明確な差というやつで、茜色の石畳が敷かれていたり、街灯が立っていたりと様相が華やかだ。貴族地区に入る手前で遠めに確認した限り、この街は上の層へいくほど外観が美しいものへとグレードアップしていくようだった。

 そして、主要な通りから細い通りへ入っていくと、マッピングに苦労するような入り組んだ迷路となって…。急がば回れ…冒険なんてするもんじゃないなぁ、と。何となく私の心を折ってくれた街である。空間認識力の高い男性で良かった…と、路地に踏み込んだ私の行為を怒るでもなくフォローな人に、多大な感謝を抱いたのは心の中の秘密である。勇者め、マジでハイスペックだな!と呆れ果てたのも秘密である。

 と。まぁ、こんな雰囲気で、淡々と作業をした訳だ。

 デートではない。そうではなかった。例え向いでお茶を飲んでも。これは休憩、ただの休憩、デートではないと思うんだ。そんなグルグル思考とかに嵌まったりもしたけれど。

 当人が桃色を認めなかったという点で、今日のはデートじゃなかったんだよ!と宿屋で結論付けた夕刻。

 しかしorzの格好で、今日もめちゃくちゃカッコ良かった…!!と何かに打ち拉がれた感を覚えた私は、いそいそと翌日の準備をするのであった。

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