22−8
「お嬢ちゃん、実は脈ありなんじゃねぇ?」
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うっ。
えぇぇえっ!!!?それって!本気で!?まじっすか……!!?
「いやいやっ、しかしっ」
「まぁまぁ、いいから。今はお嬢ちゃんの象徴探し、頑張る所な。まずは戻る事に専念しねぇと。くっ付く事もままならねぇだろ」
えぇえええ!?そしてそう来る!?話の流れ!!?
突っ込みたいのはやまやまなのだが、急に真面目な顔をするので。こっちも口をパクパクしながら、なんとか冷静を取り戻す。
「お嬢ちゃん、冒険者なんだよな?」
「はいっ」
「何でそれになろうと思ったか、聞いてもいいか?」
「それはそのっ…先ほども申した通り、クライスさんを追っかけたくて…」
「じゃあ、それまでは何してたんだ?」
「えぇと、幼なじみが立ち上げた商会に、アイデアを売っていたというか…。あとは、あわよくば何かのジャンルで本を編纂したりして、売りに出したりできないものかと、書館通いをしてました」
つうことは、お嬢ちゃんは体より頭を使う方が専門な訳だなぁ。
ジルさんはフゥと唸って、一度、天上の“星”を見る。
「本、本、本、なぁ…」
と、しばらくそれらに目を凝らし。
「あぁ、あるな。ほら、あそこ。見えるか?」
と言い、指をさす。
その指を頼りに見上げ、文字盤に“開かれた書物”を描く時計を発見するが。
「……落ちてきてくれませんね」
「そうみたいだな」
で収束し。
「生まれた家は割と裕福だったか?」
と。
そんな不意の質問に。
「あ、いえ。孤児ってやつです。コーラステニアの外れの街で…あ、そうですね。6歳くらいの時に幼なじみと一緒にですが、領土の見回りにいらした侯爵様さまに拾って頂きました。その後6年ほど養って頂いて…」
「なるほど、だから言葉がやけに丁寧なんだな」
と。
「コーラステニア…コーラステニア…何語かで、珊瑚、という意味だったか…」
確か、領土に海があったな。海に近い街だったか?と。
「あ…えと、殆ど城下で過ごしましたから。見た事がない訳ではないですが、そんなに近い存在じゃありませんでしたね」
と。
「難しいな…何か、こう…重大な出来事とか、今までに無かったか?」
「重大な出来事…と言われましても…。割と平凡に生きているといいますか……」
衝撃的なイベントと言うのなら、どちらかといえば、クライスさんを追っかけた後。街を出てからが多い気が。
そう思ってポツポツと、記憶に上るイベントは…。
「どうした、お嬢ちゃん。何か思い出したのか?…なんか、クライスと起きたみてぇな思い出し方してるようだが」
「はっ、はい!すみませんっ」
「何かのヒントになるかも知れねぇ。言ってみろ」
「と言われましても!!」
失意の森でキスとかしました。
エディアナ遺跡で抱っこが入り、ゴースト・ハウスで二度目の抱っこ。
その後、少しずつ気にしてもらえるようになり、一時、関係が冷え込むも。
英霊の館を攻略した後、仲直り…もとい、初めましてのご挨拶。
名前呼びを許されたという衝撃のイベントと、初めて愛称で呼んでもらったユノマチでの出来事に、ほんのり熱く感じる頬がまた熱を上げてきて。
「なんだ?もしかして、クライスとヤったのか?」
という、横から不意の爆弾が。
ドカン!な頭の噴出と頬の染まり具合を見られ、ほう、な笑みを返されて。
「いっ、いやいやっ、ジルさん何言ってくれるんですか!?ヤってません!!断じて!そのような事は!!」
「じゃあ一歩手前までか?」
「いいいい一歩手前って、一歩手前て何ですか!?無いです!そんなやましい事…は…(;ノノ)」
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「あったんだな?」
な、ニヤッと具合。
………ありました。事故でしたけど、お風呂に入ろうと思っていたので、タオル一枚姿を…ね。
まぁ、そんなの吹っ飛ぶくらい、凄いイベントもつい最近…。
思って、途端に照れがMax。
首筋に触れた感触が生々しく思い出されて、焦ったように首の左を右手でギュッと押さえてしまう。
その行動で何が起きたか悟ってしまったらしい、ジルさん。ぶはっ、と笑いを噴出させて「あいつ、手ぇ早いな!」と。
うわぁあ!バレた!!と尚更焦り、「や、違っ、事故です、事故!」と間髪入れずに突っ込めば。「遠慮すんな、お嬢ちゃん。只の事故で、んな事なるか」と、逆にそう言われてしまって更に頭が沸いたので。
震える手をおもむろに高級銘入り革袋(ブランドバック)に突っ込んで、ち、鎮静剤、鎮静剤、うわ、滑る、掴めない…!もういいや!アレでいいや!!と抜き出したのは風物詩。
カラカラ、カララン。
風流な、夏のアイツを鳴らしてみれば。
一拍、面食らった後に、ジルさんは再び「ぶは」り。
「何でそこでそれなんだよ!?変わり者だって言われるだろう!?」
ひぃひぃ横で笑われて、しかし、こちらは鎮静し。
「こっ、これは!金髪の素敵魔女さまから頂いた、ゴースト除けと鎮静効果を秘めた、グレートなアイテムなんですよ!?」
と。
これのついでに勇者な人を付けてくれた訳ですが…と。再び熱が上がってきそうな頭に向かってカラカラカラカラ。
「そっ、そうか!魔女がわざわざなぁ!……って」
急に真面目な顔をする、ジルさんは不意に天を見た。
えっ、何ですか!?と落差に戦き、声をかけようとした所。
「お嬢ちゃん、名前は確か…」
「はい?ベルリナ・ラコットですが…」
「それだよ!それ!お嬢ちゃん、象徴はそれだろう!!」
よし、時計まで走るぞ!と。
急にガシッと腰を掴まれ、俵抱きの格好に。
——なっ、何故!?
と白くなる頭の中で混乱しながら、もの凄いスピードで駆け抜けて行くおじさまが。
「さっきどっかで見かけたぞ!お嬢ちゃん、たぶん、絵柄はBellだ!!」
仕舞い損ねた風鈴が、不意に揺れて声をあげ。
「お嬢ちゃんは“呼び鈴”なんだ。全く、“好い”名前だなぁ!あんたはたぶん、勇者(俺)を此処から“呼び戻す”ために使われた…!その為に使わされた存在なんだろうよ!!」
と。
一際高く跳ねた岩から、着地で臨むのは“時計”———。
ジルさんは私を担いだままで、あっと言う間に針を渡ると、丸い中央の盤の上へと私をそっと下ろして立たせ。
「あそこだ、お嬢ちゃん。見えるか?Bellだ」
指をさされた先に輝く、鈴を刻んだ“私”の時計———。
クリスマス・リースを思わせるリボンが彩る二つの“ベル”が、その時、私の耳にだけ「リ、リン」と音を響かせて。
きらきらとした光と共に広げた両手に収まった、11時59分の金の懐中時計の針が。
図ったように、ジルさんが持つクロス・ソードの盤の時計と、共に時を進ませて……。
カチリ。
と響いた無音の声に、我々は。
再び渦を巻く大きな光の本流に、どちらからともなく飲み込まれ、元の世界に帰還したのであった———。