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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
22 時の揺り籠
230/267

22−7



「ベルリナさん…どうして此処に…」


 うん、まず君、誰だい?と。

 恐怖の出会いから一転、ポカンと見上げるこちらの様子に、相手も困った雰囲気で。

 五秒後、ようやくそれに気付いて、慌ててフードの端を引く。

 ぱさっと広がる黒髪に、へにゃっと垂れた黒耳は、瞳の蒼さも重なって、いつかどこかで見た様相。


「ウル・ラギです。レプス・ウル・ラギ……一昨日、会いましたよね…?」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 と。


「えぇえええっ!?ウルラギくん!!?」


 いや…私の知る彼は、まだ齢が十程度……。

 対する自称ウルラギくんは…もしかしなくとも二十代………。


「えっ、でっか!そんなにでかいの!?ウルラギくん、出世したねえ!!」


 こんなイミフなセリフを受けて、彼もちょっとハッとする。


「そうか…これが十年前の……ベルリナさん、まだ十代ですか?」

「う!?うんうん、当たり前だよ!!」

「……あまり、変わってないですね。これじゃあ、心配される訳だ…」


 と。何か思い当たった事に、苦笑のような顔をして。


「いやいやいや、てか、ウルラギくん!どーしたの!?その大鎌とかさ!?」

「あ…はい、コレですか?」

「そうそう!なんで物理武器!?」

「えぇと…あの後、辞めたんですよ。魔法使いになるのを辞めて…今は、グランスルスで兵士をしています。この武器、扱い難いんですが、昔の名残で杖に近い感覚がありますし…月属性が付いてますので」


 はぁ、なるほど、そういう訳なの。

 一瞬、納得しそうになるが。


「えっ!?魔法使い、辞めたの!?」


 と。


「なななな、なんで、兵士になんか?しかも、グランスルスなの??」


 と。

 一回りセリフを追って。


「てか、今!じゅ、十年、とかね!十年、なんて言いましたっ!?」


 と、散々なパニック模様。


——えぇぇ!?もう十年なんて経ってしまったの!?いや、予想より少ないけれど!!いやいや、それでも十年ですよ!?は、早い!!!


 ピー、で、パー、で、ヒョロヒョロ聞こえる、FAXの通信音が脳裏に鳴り響き。

 言い切った後、表上は硬直しているこちらの顔に。


「……あぁ。なるほど。そういうこと、だったんですね」


 と、ウルラギくんはそちらで勝手に何かを納得し。


「大時計は向こうですか?」


 掛けられた問いに首をコクコク。


「時計を探さなければ…」


 ふと暗い空を見上げた、ウルラギくんのセリフを聞いて。

 置いてけぼりの私を見下ろし、大人になった彼が言う。


「ここには“自分の時計”が必ず一つあるそうです。自分を象徴するような、絵柄が描いてある時計」


「例えばオレなら“月の時計”。月の絵柄がある時計です。何故なら月の祝福を、神々より頂いてます」


「そういう象徴を刻んだ時計を、この空に散った中から探し出して下さい」


「そして、時計の針が三つ、全て重なった時、大時計の針を伝って、中央に居て下さい。それが“時の神域”からの、帰還方法です———」


 ヒコ、と動いた黒耳に、懐かしさを感じながらも。


「え…と、ウルラギくん。それ、誰に聞いたの……?」


 と。

 元・少年は耳を垂れ、複雑な顔をする。

 一瞬、言うのを迷ったようだが、意を決して息を吸い。


「貴女です」


「もし迷ったら、そうやって帰ればいい、と。一昨日、会った時———未来の貴女に聞きました」


 この時の私の顔は、一体どんな表情(かお)だったのか。


「あの時は、何を言われているのか、よく分かっていませんでしたが…。あの、すみません。オレ、先に行きます。アーシュリーが…心配、してると悪いので……」


 言われたセリフに一拍置いて。


「う、うん。大丈夫、帰り方教えて貰ったし。うん、ちょっと混乱してるけど、もう一人、教えてあげなきゃいけない人がいるから」


 どうぞどうぞ、お先にどうぞ。

 うん、アーシュリーちゃん、待たせちゃダメだね。

 ……うん?アーシュリーちゃん??待たせてきたの???


 ぺこっ、と黒耳でお辞儀して、駆け出したウルラギくんに。

 ふと、そんな問いかけを内心でしてみせて。


 それから先の分岐点まで、ふらふらと夢心地。

 ジルさんを待つ間、思考の海をぐーるぐる。

 未来の姿のウルラギくん、未来の私に教えて貰った“神域”からの帰還方法。

 これで彼は帰れる訳で…ついでに私も帰れる訳で…。

 このループ(?)を維持するために、私、将来、頃合いを見て…“方法”を彼に伝えなければ、なのよね?と。

 自分が知らない場所で起こった、未来との不思議なご縁。

 大人の姿のウルラギくんとすれ違えた領域は、確かに神域なのだろう、と一枚岩の通路を見遣り。


——未来の私に救われる…なんだか、不思議で、不思議な気持ち……。


 ほどなくジルさんと合流し、この身に起きた出来事とかを、ドキドキしながら伝えてみれば。


「ふむ…となると、俺の象徴は“剣”だろうな」


 な、セリフが返り。


「えっ、分かっちゃうんですか!?」


 と、驚き質問してみれば。


「おう。師匠には一度も勝った事、無ぇんだが。これでも剣士の世界じゃ有名な、剣聖・スバルの一番弟子なんだ。コレ一本で生きてきた、つっても過言じゃねーからよ」


 と。ヒョイ、と目線に持ち上げられた、変哲の無いロングソードに。

 そんなドラマ(?)があったんですね…!と、思わず両手で拍手を贈り。


「じゃあ、私の“象徴”って、何なんでしょうかね…?」


 転生者だから、輪廻転生で、巡る歯車の模様とか?

 それ繋がりで、車輪系とか?


——……ダメだ、しっくり来ないです。


 と。

 うぅ〜ん…これは…なかなかシビア……orz

 自分、って何だろう???な、堂々巡りの大問題。

 ジルさんは宣言通り、闇に浮かんだ数多の中から剣の模様の時計を探し。あれか?と零した次のシーンには、流れ星っぽく手中に降りる、クロス・ソードの文字盤が。

 手に入っても付き合ってくれるジルさんの親切ぶりに、早く帰らなくていいんですか…?と、恐る恐る問い掛けたなら。


「今更だろ。それに、モンスターが湧かない場所でも、お嬢ちゃん一人、残してく訳にはいかねぇよ」


 と。いつか聞いたような言葉がこの身に返り。…あ、なんかデジャヴです、と。久しぶりに浮かんだ笑みは、素敵おじさまに拾われて。


「実は、知り合いの少年勇者に、似たようなセリフを言われた事がありましてね」


 と、何気なく吐露すれば。

 ほう、勇者なぁ、どこの勇者だ?と、ジルさんも興味津々。


「最近、有名になったんですよ。確か【北の森】出身の、フィール、なんとか、なんとか、くん」

「ふーん…知らねぇな。そういやお嬢ちゃん、さっき、クライスが勇者だどうのと…」

「あっ、はい。そうでした。私、此処に来る前に時球時計(スフィア・グラス)の部屋に居たんです。クライスさん…えと【東の勇者様】が、昔、時波の嵐で帰れなくなった人が居る、って。たぶん私もそれに巻き込まれて此処に来た感じがしたので…それで、もしかして、戻れなくなった人って、ジルさんの事かな?と」

「はぁん…なるほど。クライスが、ねぇ。…今や“勇者様”って訳か」

「やっぱり、お知り合いですか?」

「まぁ、浅からぬ縁だなぁ」


 そこで一拍。


「で、お嬢ちゃんはクライスと、どんな仲になる訳だ?」


 一時加入のパーティ仲間か?にしては弱そうだけど…なぁ。とか。

 ボグッと刺さるカウンター的な一撃が飛んで来て。

 サッと逸らした視線の流れを、チラリ戻しては「ん?」という笑顔。

 あ、この人、騙せない。と降伏しながらも、一応、恥を忍んでモジモジと。


「じっ。実は…追っかけ、です。住んでた街で一目惚れしまして…三年半…以上かな、経っちゃいましたねぇ…。その流れで、このダンジョンに踏み込みまして…それで、あの、何となく、良くない気配がしたものですから……。つい、こう、タックルかまして、風魔法で追い撃ちかけて…時の本流に飲み込まれた〜って感じでしょうかね。う〜ん…怒ってるだろうなぁ。クライスさん、こういうの嫌うもなぁ…。あ〜…やっぱ、さすがにこれは…嫌われちゃいますかねぇ…?」


 口をひらけばつらつらと…笑顔のジルさんに促され。

 自分で言うのもなんだけど…結構、酷い事して来たな!と。客観視してはorzして。

 ズーン、と背中に闇を背負った落ち込み加減のこちらを見遣り、呆れ顔のジルさんは、溜め息まじりに一言を。


「クライスが怒るとしたら、本気、ってことだろ」


 と。

 あいつ結構、ドライなんだぜ?———苦笑と共に零れた音。


「でもクライスさん、真面目ですから。私じゃなくても怒るというか…」

「はっ…あいつが?真面目、だって??」


 と、クックッ笑いに変化するのを、なんとなくモヤモヤしながら見送れば。


「まぁ、いいや。置いとこう。で、クライスとはどんな馴れ初めだ?」

「えっ、いやいや。馴れ初めどころか…」

「お嬢ちゃん、名前で呼んでるじゃねーか。しかも、さん、だろ。クライス“さん”。貴族女性じゃあるまいし…上っ面しか見てない娘は、大体、様とか付けて呼ぶんだ。十分親しい間柄だろ」

「…えっ」

「なんだ?」

「え……私達、そんなに親しい間柄…です?」


 言われた事に、ちょっと呆然。

 何でこっちに聞くんだよ…?と、呆れ顔をされながら。

 でも、つい最近、彼の態度がまたしても冷たくなりましたよ…?と。


「あいつ何か気にしてるんじゃないのか?こっちが吃驚するぐらい昔からドライな奴なんだ。誰とも交わらない。女性なら尚更な。それぐらい明確な壁がある。俺からしたらクライスが“怒りを表現する”だとか、また、と相手に言わしめるほどの態度の変化を見せるとかだな。あり得ない事態だと思う訳」


 つまり、と彼は再びニヤリ。


「お嬢ちゃん、実は脈あり、なんじゃねぇ?」

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