表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
22 時の揺り籠
229/267

22−6



「……残念ですが、出口では無かったようですね」


 精一杯、声にしながら横に立つ人に伝えると。


「残念だが、そうみたいだな」


 と、力無い音がする。

 広大な窪地の“枠”に嵌め込まれた巨大時計は、それなりに圧倒される光景ではあるが。

 こういうのって、正直申せば、ずっと見ていても仕方ない。

 あるいはずっと見ている役をジルさんにやってもらって…と、きょろきょろ視線を飛ばしては、他に道がないのかをそれとなく探しだす。


「あっ、ジルさん!ジルさん、あそこ!木のようなものが生えてる場所が!!あっちにもありますよ!」

「…それがどうした?」

「行ってみましょうよ!何かヒントが書いてあるかもしれませんって!」

「……あの木に、か?」

「えぇ、そうです!」


 なんという当てずっぽうな…と、我ながら思ったが。まぁ、この際、当てずっぽうでも動かぬよりはいいだろう。

 そんな意気が伝わったのか、彼は「ははっ」と笑みを浮かべて。


「そうだな。何もしないより、ずっといい」


 と頷いた。


「あそこの分岐で二手に分かれましょう。ここに来るまで一度もモンスターに遭わなかったので、モンスター・フィールドではないのだと思います。分かれて探した方が効率が良いですし」

「分かった。なら俺は、あの分岐から右に行く。ついでに遠くのマップの方も確認がてら埋めてくる。一応、分岐点で待ち合わせるか」

「了解です!」


 話が大体まとまったなら、私達は歩き出し、結構な傾斜の坂を決めた場所まで戻って行った。

 初めに出会った方向含む、遠めのラインをジルさんが。ぼんやり光る木が見えた、近くのラインを私が受け持ち、待ち合わせ場所に目印とする小物を置くと、では後ほど、と挨拶を。

 行程的にはこちらの三、四倍ほどありそうな彼の踏破ラインだが、どうやら歩幅を合わせていてくれたようなので。本来の速さでいくと、おそらくこちらが少し先に着く、程度。年齢もさることながら、中堅層な雰囲気だもな、と。ぼんやりと考察しながら自分担当の道を行く。

 素材は相変わらず黒い岩のようである、つなぎ目の無い不思議な道を踏みしめ、時折、それぞれの時間を刻む天空の“星”を見る。じっと視線をこらして見れば、文字盤の模様が見えて…。


——あ、あれはモチーフが花、あっちは川かな?


 と。なかなか綺麗なデザインだよな、と感心しながら歩むのだ。

 まるで、命の蝋燭…と。前の世界の噺(はなし)を思い。

 そうこうするうち小広い場所へ。

 ジルさんと出会った所のような、骨と骨の継ぎ目の関節。

 あ、続きはないのか、と。

 そこへ静かに根を下ろす、ぼんやり光る黒い木を見て…。


 背丈は自分と同じほど、盆栽のように味わい深く枝を伸ばした漆黒の木に、近づいてじっくりと一周し。

 不気味というか、いっそ前衛的といいますか…実際に幹が黒い木なんて、本当に不思議な感じ。

 そして枝先に唯一付く実——これが驚きの深紅色でね——を、そっと突(つつ)いてみたところ。


「………やっちまった<( ̄□ ̄;)>」


 と呟くくらい、こう、小気味よく地面に、ね。

 勿体ないから有り難く高級銘入り革袋(ブランドバック)に入れるけど。

 それ以外、何の変哲もない小広い空間で。


——…仕方ない。待ち合わせ場所に戻ろうか。


 成果はあちらの方に期待…!と、丸投げしながらも、とぼとぼ寂しく戻る帰り道。

 体感的に、十五分は過ぎていない気がするが…ジルさんの体験談だと、ちょっとした浦島さんだ。

 次に勇者様に逢えた時…いや、まだ生きてるといいな……。結婚してたとしても、見た目、おじいさんなら諦めがつく…?いやいや、しかし無理だろなぁ……きっと私は解っていても、諦め悪く、逢いたいと願う…。そんな妄想をグルグルと。

 それってすごい妄執だ、と空笑いが浮いてきて。


——妄執のベル…!あ、なんか、小説のタイトルっぽい。


 一人、空想でニヤニヤと。


——白髪まじりの勇者様とか、いっそ魅力がヤバそうだしね!


 そんなジルさんを思い出しては、くそぅ、あのイケメンさんの嫁になるのはどんな娘(こ)だ!?取り敢えず性格が良くないと許さんぞ!!むきー!ぅきー!クライスさんと結婚できるとか!なんて。なんて、羨ましい…!!!

 と、脳内は荒れ模様。


——草葉の陰で白いハンカチを思いきり噛んでやるっ!


 帰還後の目標が一つ立ったあたりにて。


「わっ!?」


 何!?何で風!?と。

 ぶわっと背後から吹いた、生温い風を知る。


 ジルさんと待ち合わせをしている分岐地点まであと少し。

 何だこの強風!?と、振り返り、目に入るのは。




 ボロボロのフードを揺らす、大鎌所持の怖い人———。




「………っ!?」


 えっ、死神さんですか!?

 私の命、刈り取られるの!?(゜゜;)


 反射で思ったこちらの方に、口を開いたその人は。


「……ベルリナさん」


 と、知らぬ声音で、私の名を呼んだのだ———。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ