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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
22 時の揺り籠
227/267

22−4



 その時。


「———っ、ベル!!」


 と名前を呼んで、不意に乱入してきたお人………。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「うぇえ!?ゆっ、勇者様!?」


 と、錯乱したこの立ち位置は。

 お腹の辺りに回された手と、伸ばした腕を取られた構図。


——さっ…さすが、高レベル勇者様…!!一瞬で入り口から距離を詰めてきた…!!!


 そして、はぁっ、と耳元で零された溜め息は、大きいですね!溜め息でかい!!なゾワゾワ感を引き起こし。


「だめだ。これには、絶対に。絶対に、触れてはだめだ」


 と、真摯に口から零れた声に、カチッと固まり、聞き返す。


「あっ、あのっ…爆発とかっ?もしかしてしちゃいます…!?」


 だからダメなの?そういう事なの??ていうか、その前に。近い近い近い近い近い近い近いぃぃい…!!!と。


——後ろからの抱擁感とか、半端ないヤツですね!!!?


 と。混乱の極みに達したこちらの汗を感じたか。

 ふっ、と力が緩まって。


「………これは、時の波。時波(じは)、というものだ。捕らわれたら、戻れなくなる…俺の、……」

「えっ…と、時波…?ですか??( ゜゜;)」

「……そうだ。これは、まだ小さい。だから、大丈夫かもしれないが…嵐は唐突に起きると聞いた」

「えぇと…あ、嵐?」

「時波嵐、だ」


——うぅん?えーと??……時波嵐(じはあらし)???


 お初でーす、その単語…と。一瞬ポカンとしながらも。

 私をすっぽり覆ってしまえる長身を屈めた人が、どことなく震えて見えてきて…。


「だっ…大丈夫、大丈夫です。ほら…」


 言いながら添える手は、未だにお腹を抱き寄せているその人の手の上に。


——……一体、何を恐れてるんです?


 そんな無言の問いかけ一つ。

 そおっと体を反転させて、黒髪に隠れた瞳を追えば…どこか焦燥を滲ませた目が、気まずそうに左に逸れる。

 それからほんの少しだけ、気恥ずかしそうな空気が滲み。あっ、そうっ、そうですね!だって私たち近いもね!?と、距離を意識した私もそこで、貰い照れをしたのであった。


——えぇと…じゃあ、取り敢えず……。


 拒絶にならないスピードでゆっくり動きを取ったなら、指先から肘までの距離、人ひとり分の開きが出来て。それでも近いといえば近いが、お互いに客観視。少し頭が冷えたらしいクライスさんは小さい声で。


「昔、あれに巻き込まれ、戻れなくなった人が居る……」


 と。

 苦い空気を滲ませてポツリとこちらに語ったのである。


——それはどんな関係の人…?


 一瞬、ぽかんとなった私が、反射で問いの音を出す前。

 クライスさんは向いた体をフイな感じで反転させて、入り口で待つ精霊さんに何かの意思を伝えたらしい。時球をたくさん抱えた鳥がひらりと舞って、時球時計(スフィア・グラス)に回収してきたものを加える、ガラス玉がぶつかるような高い音が響き渡った。

 その間、クライスさんはふらりと時計に近づいて。

 ふと見上げた闇に滴る、光の雫の気配を感じ。


「あの、それって……」 どんな人———?


 改めて問おうと開いた口は、不自然にならない程度にそのまま音を失った。

 今は立ち位置を逆にした人、時計に近い場所に居るクライスさんが振り返り、逆光で薄ぼんやりと穏やかな顔をしている人に。


——あ。なんか、すみません。


 最初に心で謝罪を一つ。

 キン、と響いた雫の音に、大きな一歩を踏み出して。


 この時の私の視線は、時球時計(スフィア・グラス)の天辺よりも高くにあった。

 次の一歩でクライスさんの右側に無言で立つと。

 チラ、とそのまま。見上げたままの視線の先を移動して。

 困ったような苦笑を一つ。

 呆気に取られたその人を、力一杯、押し出して。


 キ、キン、キ、キ、キキ、キンッ。

 と、今までになく降り注ぐそれに、ふと視線を戻したら。


 駆け上がるウインドチャイムとパチリと弾ける時の波。

 パチ、バチバチッと急速に膨れ上がった、嵐の種を眼前に。


——やっぱり、なんか、ごめんなさい。


 思いながら封を千切った“風”の魔法の魔封小瓶。

 時波が膨れる光景を見て、何かを悟ったクライスさんが足に力を入れる気配に、ドン!という爆風をそちらの方に開放し…。

 ゴオッと荒れた取り巻く気体と、バチバチ弾ける時の波、は、離れた場所まで押し出され体勢を崩した彼の、少し遠い視界の中で———。




 突如、大きな嵐となって、私の体を飲み込んだ。





*.・*.・*.・*.・*.・*


——クライスさんが居なくなったら、ちょっとマズいと思うんですよ…。


 そんな間の抜けたセリフをぽつり。

 少しした後、ブワッと四方に散り消えた風圧に、そっと目を開けながら。

 振り子が揺れる、前の世界の古い古い大時計。

 そんな時計を連想させる重い音の響く世界は…。


 キラキラとした文字盤がまるで星空を思わせる、天一面を埋め尽くす、時の世界なのだった。

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