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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
22 時の揺り籠
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22−2



 実はあの後…えぇと、ポーダの斜塔(トゥルリス・ポーダ)でボス戦をして、森に入ったクライスさんを追いかけて行った後、ちょっとした泉の前で乙女イベントがあった訳だが…。そこで微妙に漂っていた二人の近距離感は、宿に戻って朝を迎えれば——やはり——何事も無くなっていた。

 それからの接触が無かった訳ではないけれど…。まぁ、いつもの真面目に戻ったクライスさんが、ちらっと「昨日は悪かった…」と固い声で語ったくらい。一晩経って、あのとき手を出そうとしていた女子とかが、地味系凡女である事をハッキリ思い出したが如く、それはそれは苦い顔をして謝罪の言葉を口にした。……チラッと初めだけ目が合って、その後、逸らされたままだったのが、微妙に心にキタのはここだけの秘密である。

 そんな嫌そうにしなくたって…と、そそくさと仲間の方に戻ったその人の後ろ姿を見遣り。何気なく横を向き、お店のガラスに映った顔に、何となく二度目のガクリ…。やっぱ平凡な顔だよな、全く無い訳じゃないけど巨乳でもないし、しかも中身は老婆のレベル…と、やさぐれながら追いかけた。

 そうして、そのうちいつも通りに開き直ったベルリナさんは、東の勇者パーティが選ぶ街道をそのまま下り、ほどなくステラティアという王国の国境を跨ぐ。


 古代都市国家などと綴られる王国・ステラティアは、星落ちの塔という高レベルダンジョンや、時を司る神を祀った歴史が語られる“時の揺り籠(クーネール・テンプス)”、別名、時の神殿と呼ばれるダンジョンを抱く国である。

 さすが“古代”と名のつく国家、国境を越えて初めの村に着いた所から、古代情緒溢れる人々の服装と、古いしきたりを守る姿に自然と目を奪われる。

 王都に通じる街道一つ、取ってみても味がある。しっかり張られた石畳は所々にモザイクが入り、他の国では簡易に済ます小規模の河川にも、芸術要素満載の石橋が掛けてあるのだ。

 大陸歴の基準となった神国も古き国として一般的には有名なのだが、それにしたってこの国は…この国も古かろう…と。見るだけでそう思わせる先人の遺産というのが、随所に散りばめられている。特に村人に色濃く見える独特の衣装や飾りは、前の世界の「おとぎの国」より「おとぎの国」のようである。

 そんな“雰囲気の良い”村や町を抜け、勇者パーティがやってきたのは、先ほど述べた有名な“時”を冠するダンジョンである。


 時の揺り籠(クーネール・テンプス)は、時の神・クロノゼクスィードを祀ったとされる歴史ある中レベルダンジョンだ。出現するモンスターのレベルからして、30〜40台の中堅層向けである。ただしこのダンジョンは祀った神の特殊性の他、少々異色な小仕事(クエスト)があり…。


「今回は時球(クロノスフィア)を、時球時計(スフィア・グラス)に足し加えるのが目的だ」


 と、ダンジョンの入り口で、クライスさんによって語られた通り。

 ダンジョン内の時計盤から時球と呼ばれる“球”を取り出し、それを集めて時球時計——砂時計を模した巨大装置…?——に足し加える、というクエストが設置されているのである。

 砂時計と言えば真ん中の細いくびれを通り、一定の間隔で上から下へ砂が流れるあの感じだが、時球時計もそんな感じで時球が零れる仕組みらしい。上の器に足していき、下の器に流れた後は、ファンタジー世界らしくも、薄くなって消えていく。消えた時球はダンジョン内の時計盤に補填され、また取り出されて時計に足され…そんな風にダンジョン内を循環しているそうだ。

 仮に、上の器の時球が減って一つも無くなれば、当然上下の反転が起き、ただし、これが起きてしまうと世界に未知の変性を生ず。このダンジョンの守り人——元は冒険者ギルドとは全く異なる組織らしいが——は言い伝えられてきた“未知の変性”を起こさせぬため、遥か昔より時球を集め時球時計に充ててきた。が、いつの頃からか冒険者と呼ばれる者達が、仕事として請け負う時代になると、一線を退いて言い伝えのみを伝承していく組織へと、徐々に変化していったらしい。

 そんな背景を持つダンジョン、通称“時の神殿”、こちらもクアドアのポーダの斜塔の煽りを受けたクチらしく、ここ半年ほどダンジョンに挑む中堅層の激減により、上の器の時球(クロノスフィア)が減って危ない状況らしい。


「このダンジョンのモンスターレベルは30から40台だが……」


 クライスさんはパーティのメンバーを前にして、一度そこでセリフを途絶え。


「……時の波…時波(じは)には、各々気をつけてくれ」


 と。いつもの無表情顔を歪めて、苦く言葉を呟いた。

 

——はて。ジハ、とは何だろう…?(・_・ )


 時の波だから、時波、かなぁ?とか。適当に字をあててみて。

 ジハ、ジハ、ジーハ、気をつけよ〜♪と。脳内Mステしてたなら。

 東の勇者メンバーは割と気楽に、そして当の勇者様はどこか緊張の面持ちで、“時の揺り籠”の入り口である鳥居(?)をくぐって踏み込んだ。


——あっ、遅れちゃいけない。


 と、こそこそ後をつけていき。

 私はこれまで挑戦してきたダンジョンに感じたファンタジーっぷりを、軽く塗り替える勢いの「時の神殿」の異色さを、ゾワッと体感する事になる…のだ。

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