表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
21 トゥルリス・ポーダ
221/267

21−10



 東の勇者パーティの最高到達階層は83階だった、という情報が冒険者ギルドに掲示されたのは、その日の夕方の事だった。そこで広範囲にわたるフロアを巻き込んだ“大規模戦闘”が起こる可能性の示唆がなされて、くれぐれも注意するように、とのギルドからの通知があった。

 ざわざわ沸いた掲示の中には、あの戦闘に参加した強者の名前が記され、知られる事を遠慮した私とイシュと美鈴ちゃんだけ、その名前の羅列の中からそっと存在を消してもらった。


 精霊王を召喚する媒体となった後、しばらく意識を飛ばしていた美鈴ちゃんだったのだけど、帰りの紋章前でぼんやり意識を戻したら、イシュにお姫さま抱っこされているのに気付いて飛び起きた。戦闘参加のレベルアップで体力・魔力は問題ないが、精神的な疲れとか、持久力的な疲れとか。それなりにあるだろうに、イシュが差し伸べる手を拒み、ふらふらしながら帰路につく。

 フィールくんのパーティは、一時、クリュースタちゃんの聖気不足でオロオロと慌てるも、偶然私が持ち合わせていた“聖石”からの変換で、事なきを得て落ち着いた。

 ついでにエルさんにも大きめの魔石を渡したが、パシーヴァにでもくれてやれ、労ってやれ、と遠慮され…魔石食べる?とジャーキーよろしく魔獣さまに差し出した。パーシーくんはその場でしばらく魔石をポリポリ齧り、飲み下したら尻尾を振り振り「ではな」と言って消えていく。

 地味に働いてくれていたイグニスさんも、ちょっとボク疲れたかも☆とサヨナラを告げて消えていく。

 そこで少々一悶着あり、竜王さまがインするイベント…もとい、フィールくんへの愛の告白劇があり…。


「余の群青に純白を混ぜたこの色味…其方は美しいな」


 と呟いたその後に。


「……爺、どうやら余は男色だったらしい」


 な、ものすごい衝撃と。


「なに、案ずる事はない。稚児が欲しくば授けてやる。転換式がどこかにあったな。余ほどの王ならば、それもまた可能である」


 と。

 あ、性転換のアイテムはそちらの国にありましたか、な。

 深い…何かの呪いの視線を、少年のいる方向からちょっと感じてみたりした。

 もちろん、すかさず。


『させぬ!』

「させない!!」

「させません!!!」


 と、入ったが。

 複雑な話になりそうだったし、揉め事はそちらで頼む…と。

 彼のパーティを後ろに残し、我々は塔を後にした。

 1階に辿り着き、美鈴ちゃんの保護者な彼はイシュに何事か提案されて、一度仲間との連絡を付けに町の中に消えていく。

 レックスさんも「じゃあ、またな」と微笑を讃えて去って行き…。

 東の勇者パーティは、一路、ギルドの扉をくぐり、およそ一時間ほど経って、一人、また一人、と散っていく。

 ベル殿、お疲れさまでござった、と若いレプスさんに労われ。大変だったな、今日はよく休むんだぞ、とライスさんに声を掛けられ。お互い頑張ったな、とソロルくんが素っ気無く言い、また明日…とシュシュちゃんが無表情で去って行く。

 最後にそっと出て来た人を、ん?どこ行くの??と後をつけ。

 足早に町(ポーダ)を出て行く勇者様を追いかける。


 近場に広がる草原を抜け、木立を分けて足を進める彼の速度に撒かれるも。

 森も深く、日が落ちて、足元が頼りなくなる頃に。

 ぱっと開けた泉の奥の深いだろう滝壺に、どこか足場に乗っているのか半身を沈めたクライスさんが、ザアッと落ちる滝に打たれてこちらに背を向けているのを、見つけてカサッと草を踏む。


——後ろ姿がどこか辛そう…。


 どうやら前の世界にあった精神統一の修行じゃなくて…。


——いや、修行なのかなぁ?何かに必死に耐えている??


 と。

 どう考えても冷たいだろう、頭からずぶ濡れな姿を、もしかしたら来ちゃいけなかったのかな?と、何となく気まずい気持ちで…。そのままじっと木陰から彼の姿を眺めていたら。

 ふと、こちらに気付いてしまったか。

 ゆらり、と向き直る、クライスさんの双眸と…。


——……あ。まずかったかな…?


 目が、合ってしまった———、と。

 なんとなくその場の空気で、私は声を飲み込んだのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ