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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
21 トゥルリス・ポーダ
217/267

21−6



「あれっ?イシュルカくん??」

「おはようございます、美鈴さん。今日は宜しくお願いします」

「えっ?はっ??あ、おはようございます!えと、よろしく、です」

「えぇ」


 前日、結局、私の隣に部屋を取った美鈴ちゃんは、これまた前日と同じように宿屋で朝食を取った後、ふらりと現れた幼なじみにギョっとして、慌てたように席を立つリアクションをとっていた。

 染み付いた日本人気質か、しっかり挨拶を返した後に、よければどうぞと席を譲った彼女の姿に微笑んで。


「女性に席を譲られる訳には…」


 尤もな事を口にしながら、イシュは手慣れたエスコートにて、元の席へと誘った。

 すとん、と腰を下ろした彼女は何が何だか理解に至らず、暫しポカンとしていたが。あれ?今、普通に腰とか抱かれなかった??と、頭の回路が動き始めたら、真っ赤になってパクパクやってそのまま静かに俯いた。

 こっちの方も経験無しか…と、イシュは嘲る色を出し、だからいじめてやるなと言っておろうに…と、軽く非難を込めて見遣れば、美鈴ちゃんに見えない所でひょいと肩でおどけてみせる。

 実は昨日、こういう流れで、今日は一緒にダンジョンに挑む事になったんですよ、と。軽い説明を聞かせれば、気を取り直した美鈴ちゃんは「なるほど」と納得し、よろしくお願いします、と再び頭を下げた。

 そんなこんなで宿屋を三人で後にしたなら、今度はこちら側への思いがけない遭遇劇。

 何の気も無しにダンジョンの方へ三人で歩いていたら。


「マミヤさま!!」


 と怒り調子に現れた聖職者。


「うわ、大司教さま…」


 などと、ついつい顔が引きつったのは、ご愛嬌、と言ってあげたいが彼は許す気はないらしく。


「こんな所で一体何をしておいでなのですか!見ず知らずの人間に付いて行くなど…貴女さまは基本的な危機管理がなっていないようですね…!」


 怒気は益々ふくれるばかり。

 パッと見でも分かるほど、いかにも位の高そうな司教さまの服を着て、権杖(けんじょう)を握る拳にはこれ以上にない力が加えられているようである。濃藍(こいあい)の長髪はサラリと纏められ、怒髪天であるものの、品位を維持する美丈夫だ。


「あのー…美鈴さん、こちらの方は…」


 助け舟にて、急に現れた聖職者の身元を尋ねてみたところ。

 それなりに親しくなったらしい、な我々の空気を感じ取ってか、彼は一瞬怒りを収め。


「エルレイムと申します。マミヤさまの回りのお世話をさせて頂く身であります」


 と、うっすらと頭を下げた。

 はぁ、なこちらの生返事など軽くスルーする域で、さぁ行きますよ!と不機嫌にリードを取るのだが。


「あのっ…私、行きません!」


 と、強く出た美鈴ちゃん。

 エルレイム氏は一瞬「は?」と動きを止めて彼女を見遣り、何事かを口に乗せようと動いた瞬間。


「今日は“ポーダの斜塔”に友達と挑戦しに行くんです!だから邪魔しないでくださいね!!」


 な第二撃をくらうのだった。


「だっ、大体、貴方がたが、いつもあっさり戦闘を終わらせたりするのが悪いんです!おかげで私、今まで全くレベル上げができなかったんですよ!?自由のある時くらい、有意義な時間というのを過ごさせて欲しいですっ」


——あの、美鈴ちゃん…最後の方とか、若干お願いが入ってるから…ヾ(- -;)


 折角の啖呵な空気がなんか懇願になってない…?

 そんな私のツッコミに、雰囲気でイシュが笑いをこらえ。

 またしても一瞬何を言われたのか理解できなかったらしい、エルレイムさんはその場で暫し沈黙するも、ややして気を取り直したら「そういう意志があるのなら」と。


「分かりました。では私もお供させて頂きます」


 言いながら、こちらの方に体を向き直し。


「………えっ。はっ?…なんで……??」


 と語った美鈴ちゃんを差し置いて。


「大司教をやっております。回復などが専門です。失礼ですが、貴方がたは…」

「一応、冒険者やってます」

「商人です。少しなら戦えます」

「あ、目標は10階です。昨日は5階までマップを埋めて、美鈴さんはレベル7まで成長しています」

「そうですか。マミヤさまがお世話になりました。10階程度であれば私のレベルでも充足です。どうぞよろしくお願いします」


 と、こちらと話をまとめにかかる。

 まぁ、ぶっちゃけパーティ内に回復役が居るのなら、回復薬を使わずに済みコストもリスクも低減できる。

 思いがけず保護者さんが早めに帰ってきたが、これなら10階とはいわず20階くらい行けるだろうし、もちろん戦力的にも楽勝だろう。

 よしよしと思う私の横で、美鈴ちゃんはあたふたしていたが。自分以外が揃いも揃ってそんな話で纏まったので、ついに口を挟むのを諦めた雰囲気で、大人しく付いて来る事にしたらしい。

 いや、主力は貴女よ、と。残念ステータスな冒険者、ただし特殊スキル付き。と、得体の知れない商人ひとり、だが今回は“算盤”を出すつもりはないらしい…。とくりゃ、攻撃系の魔法使い&回復役の大司教こそ、主戦力になって然るべき。変な所で落ち込んで、俯いてる場合じゃないわよ。ほらほら、シャキッと歩いた歩いた。そんな言葉を心で掛ける。

 そのダンジョンの道すがら。


「大司教さまは、クアドア国の…?」


 と、さり気なさを装って問い掛けた私の声に。


「いえ。中央の出身です」


 と返してくれたエルレイムさん。

 各国の城下町にはまず間違いなく“神殿”があり、信仰が厚い所では町や村にもある“教会”。大陸中に神の教えを広めていたりする、只今もっとも権力のある信仰の総本山は、言わずもがなの神国・デイデュードリアなのである。

 もちろん各国の神殿に大司教さまは存在するが、出身が“中央”といったなら、それ即ち神の国。


——えっ。デイデュードリアなの??(・・;)


 思った不思議のその顔で、ふとイシュの方を見遣れば、得心した澄まし顔をされ。


——えっ。デイデュードリアなの。


 と。

 美鈴ちゃんを召喚したのは何と驚き神の国…!———存外早く、私は大本を割り出してしまったらしい。

 まぁ、そこで黙るのも変な話の流れであって、その後もしばらく他愛ない会話を続け、列に並んで順番待ちと、そこいらに落っこちていた鍵を拾って、ちょっとした混雑ぶりに職員さんに落とし物を渡すチャンスがなかったり、とか。

 ま、落とし物は腐りはしないし、帰りでいいかー、なんていう。軽い考えはすぐに忘れて、ダンジョン内に踏み込んだなら、互いに装備を改めて。前日と同じ、皮の胸当てや“安全第一”を被る彼女に、そっと後ろでイシュルカさんが。


「君たち親子は…どうして、なかなか…」


 そんな話を少しだけ、ぶつぶつ語っていたりした。

 他方、真面目な聖職者殿は、私が手にした色物武器に当惑を浮かべてみせて。


「大丈夫です。これでも私、レベルは15ほどあります☆」


 と。自信満々に語ってみれば、それに乗っかったイシュルカさんが。


「これでも商人なので、アイテム類は潤沢です」


 と。

 続いて語ってイイ笑顔をその人へと浮かべてみせた。

 巨大なフォーク装備の私、安全第一を被った彼女、明らかに飾り物っぽいレイピア装備の商人、と。

 一度回りを見渡して、彼はコホッと咳払いをし、気を取り直すとイシュルカさんへ。


「…失礼ですが、貴方のレベルは如何ほどなのでしょう?———私はレベル43です」


 そう静かに問いかけた、超・真面目なエルレイムさん。

 そこは私も気になったので、期待してそちらを見ると。


「申し訳ありません。“企業秘密”というやつで、お教えすることはできません。これでも私、そこそこ名の知れた商会の会長なので」


 さらっと向こうの言葉を混ぜて、しれっと相手にそう語る。

 何か気付くか?と美鈴氏を見れば、「えっ、カイチョウ…?かいちょうって、会長のこと??」という、一本ズレた方向に驚いているだけだったので。


——うん、この子、安定のボケだ。……それはそれで心配だけど…( ´△`;)


 私も一本ズレた方角に同じようにボケといた。

 レベル7の勇者な女性、レベル15の冒険者、レベルの不明な商人と、レベル43ある自分。悩ましい部分はあるが、目標は10階程度。それなら何とかなるかと踏んで、保護者殿は頷いた。




 果たして———。


「雨垂れ!」

「こっちの方は片付けましたよ!」

「こっちも三匹終わりました」

「あっ、そっちにもう一匹!土の壁!からの“石針(いしばり)”攻撃!」


 そこで一拍、唱えをおいて。


「万物網羅の命の神よ、そのひと雫で生まれ落つ貴方の子等を、癒しの光で包み賜え…オール・ヒーリング!」


 な、エルレイムさんの全体回復。

 戦闘中、体力の減少を伝える術(すべ)として、エンカウントを数回終えてから、採択された希望挙手。ステータス・カードを見なくとも、個人の状態を把握できるらしい勇者の恩恵(ギフト)を使って欲しいが、なにせ彼女が現時点で一番レベルが低いうえ、最も戦闘に慣れていなくて…充分な安全をとるのなら、一番簡単で、一番分かりやすい“挙手”が妥当なところだろう、と。満場一致で話がついた。

 もっぱら体力が紙である私が手を挙げていたのだが、7階でモンスター・ルームな敵多数部屋に行き当たり、レベルは低いが数で押されて、丁度3人の体力が切れた。

 レベルが43もあるらしい中堅層のエルレイムさんは、後方に余裕で控えてバックアタックのネズミをぐさり。


——ふおぉおおw( ̄△ ̄;)w権威あるはずの権杖を、串刺しの武器にするとは…!


 それって若干罰当たりじゃね??———娘の手前、若人言葉で突っ込んでみるものの。まぁ、こちらの世界というのはそんな世界であるからに…と、気を取り直してネズミをぐさり。意外とイシュのお飾り武器も、使い手の腕があったのか。飾り物…と言ってしまうのは憚られるほどであり、お主なかなかやりおるな、とエルレイムさんの声がしそうだ。

 昔、例の三兄弟に稽古をつけてもらっているのをチラ見した事があるのだが、年齢差とか体格差とか色々壁が厚過ぎて、ボロクソに負け続けたのを知っているだけに…。てっきり、さっさと諦めたかと推測していたが、これは陰ながら努力してたな…と思わせる働きぶり。商人である故にステータスは低いけど、存外、イシュもレベル的には既に中堅層かもしれない。そんな風に思わせるほど、良い動きなのである。

 まぁ、以前の“果ての島”こそレイピアで良かったんじゃない?とか、思わなくもないけれど。あれは後日語ったように、東の勇者パーティへの嫌味も兼ねていたようなので、算盤の選択は、それで良かったのだろう。


「大体、片付きましたね」

「うん、よかった。死ぬかと思った」

「美鈴さんのステータスだと、すでにこの辺の階層ではそう簡単に死なない筈です…」

「え。そうなの?あっ、あれ最後?———切り刻め!鎌鼬っ」


 部屋の隅っこを飛行していた紫色の蝙蝠を、風の魔法でしとめた彼女は逞しく振り向いて。


「終わりましたね」

「そのようですね」


 な、男子達の呟きに。


「は〜、良かった。あの、少しだけ、休憩してもいいですか…?」


 と。妙に遠慮がちな声音で懇願するのであった。

 いやに低姿勢な“勇者様”も、珍しいっちゃ珍しい。この子もレベルが上がってきたら、クライスさんのような仕事を受けるようになるのかな…?と。部屋の端っこでしんみりと美鈴ちゃんを愛でながら、私は手持ちのドライフルーツをちびちび食べて水を飲む。

 神国の大司教さま、戦官さまのレベルは高い。それだけの人選を受けて国を出て来たのだろうから。およそ7割のメンバーが性格的に問題ありでも、腕が立つなら大丈夫か、と。それでもどうか危ない仕事はなるべく受けてくれるな、と。願ってしまう心の部分は、やはり以前の世界のものか———。

 そんな複雑な心境のままフロアをどんどん進んで行けば、8階へ上る階段の、頂上付近で声がして。


「貴女ね!!少しくらい働いたらどうなのよ!?」

「…相変わらず姦しい方ですね。ですから申し上げましたでしょう?私の魔法は、このような狭い場所には不向きというものなのです。———暫く雑魚フロアのようですわ、フィールは休んでいて下さいまし」

「いや、あの…あの、さぁ。雑魚フロアなら、むしろ俺が戦った方がいいような気がするんだけど…さ。ほら、その、魔力とか、勿体ないから、ね?」

『案ずるな。このくらいで尽きるほど我の器は小さくない。魚殿はコントロールに自信がないようだがな』

「……ふっ、さ、さかな…!(笑)」

「…育ちの悪さが口に出ておりますよ。これだから品位の欠片も無い粗野な魔種と翼種など」

「いや、だから、あの、仲良く…」


 ・

 ・

 ・ 

 ・

 ・


「あれ、もしかして、フィールくん?(・_・o)」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「っ、誰かと思えば、またお前かよっ!!!」

「………随分な言われようですが、誤解が無いように説明すれば、私、何もしてないですから」

「お前との出会いの後がいっつも波乱だよっ!!もうお前こそ災難の種だと思っていいレベルだと思う!」


 は〜、やれやれ、言いがかりはヤだね|〃´△`)-3

 私はそっと両手で“お手上げ”ジェスチャーを取り、素知らぬ顔でその場を通り過ぎようとしたメンバーに、続いて去ろうとしたのだが。

 ガシッと肩をつかまれて、吐かれた言葉はこんなもの。


「……頼む、あの人達をなんとかしてくれ…!」


 すかさず私は手を払い。


「これだけ綺麗どころを集めておいて、なんて贅沢を言ってるんです。こ〜の〜!幸せ者め☆」


 と明るく笑顔で返したら、うっかり足を止めてしまった美鈴ちゃんの手をひいて、そそくさ退場しにかかる。

 しかし、今日のフィールくん。いつもとちょっと違って粘り。


「分かった。じゃあ、途中まで一緒に行こうぜ☆」


 と、怨念のこもった笑みで語って、私の腕をがっちり掴む。

 お互い笑顔で膠着してたが、事態はそのまま平行線。私は内心「ちぃっ!」と盛大に舌打ちすると、こちらさんがこう言ってるがそんなのもちろん無理ですよね?と、自分のパーティに無言で視線を投げた。

 が。


「僕は良いと思うよ、人数は多いに越した事はない。どうせあと2階ほどだし」

「そっ、そうですね!私も一緒で構いませんよ」

「……えぇ、私も。それにしても、有翼人がこんなところに御出でになるとは…」


 な、あれっ!?いいの??受け入れちゃうの!?(・・;)な、後方からの反攻撃。

 フィールくんの援軍は、こちらの陣地にいたのか…!と。何となく項垂れた私の対岸で、勇者な少年が水を得て息を吹き返すのを、ジトった気持ちで見送った。

 そこへすかさず“フィール”の提案を受け入れない訳ないわよね?と。まさに有翼亜人の少女が、鋭い視線で刺してきて。


「………じゃあ、みなさま、行きましょうか」


 と、孤立無援な感じの私に、気の毒そうに寄り添ってくれた前の世界の娘さま。

 ほら、日本人って協調性を取るからさ…と。

 優しいなぁ…と思う彼女が、やや懐かしく思えてきたのは。

 ちょっとした現実逃避……だったのかもしれない。

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