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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
21 トゥルリス・ポーダ
216/267

21−5



「美鈴さん!そっちをお願いします!」

「任せて!えぇとっ、鎌鼬(カマイタチ)!?」


 痛んでいない廃墟の廊下…古めかしいけど近未来…そんな相反するデザインを随所に散らしたダンジョン内で、私達は突き当たりを曲がった場所でエンカウントし、さっそくこちらに飛びかかって来た大きなネズミ…ビッグ・ラットをなんとなく決まった“かたち”で迎え撃つ。

 壁にしては脆弱だけど、一応、物理攻撃担当で。先陣を切る私の後ろに魔法使いな美鈴ちゃん。何回か噛まれるうちに狙いが何処か分かってきたので、私は胸の高さで薙いで一度ネズミを離脱させ、離れた所をフォークでグサグサやる戦略を立ててみた。そのうちに慣れていき、今ではだいたい二、三度、狙いを定めた辺りで、勝てる程になっていた。

 対する美鈴ちゃんの精霊魔法は便利なんだか不便なんだか。実際に見せて貰ったスーテータス・カードには、【水精霊の魔法 10】【火精霊の魔法 10】などと、表記されていたのだが。「水精霊の魔法!」とか叫んでも効果は現れず。結局、その後の試行錯誤で分かった事といったなら、【水精霊の魔法】表記の“それ”は発動名じゃなく、どうやら彼女のイメージ言語で魔法が発動してくるという…。

 詳しくは分からないけど、杖はその媒介で、その辺に溶け込んでいる精霊さん達と、美鈴ちゃんのイメージを繋ぐ役割、みたいな風だ。故に彼女は前の世界で遊んだゲームを思い出し、その中のキャラクター等が覚えていった“魔法名”などを、イメージと言霊にして発する事にしたらしい。まぁそれで、元々あったステータス・カードの魔法名が、【風精霊の魔法 10】から【カマイタチ 10】などと表記の変化を見せたのは、ちょっとしたミステリーだったと思う。


「あ、っ、蛍火(ホタルビ)!———ベルちゃん、大丈夫!?」


 うっかり思考の海などに片足を突っ込んでいたために、背後から迫ってきていたビッグ・ラットを見落とした。

 が、そこはさすが勇者様。あっさりと炎の魔法で消し炭にしてくれる。


「はぁ。ざっとこんなもんかな?」

「そうですね、助けて貰ってありがとうございます」

「んーん、いいの。気にしないで。私もだいぶ魔法の使い方とか慣れてきたから」

「それは良かった。ところで美鈴さん、どのくらいレベルが上がってますか?」


 実は我々、ざっとした練習を兼ねた2階フロアから、既に4階に到達していて、モンスターのレベルも少し上がり始めた辺りにいる。

 この世界ではレベルアップ時に体力・魔力のステータスが、総量で伸びた分にしてその前の比率分、上昇するような似非回復が起きるのだ。故にレベル1だった美鈴ちゃんの体力・魔力は、消費されるも順調に増えて回復されている。


「えっとね、今のでレベル5になったみたい。残ってる体力は88で、魔力は130だよ」

「なるほど。……私は体力12に、魔力はそのまま56です」


 おかしいなー。私てば、すでに回復薬4本は飲んだんだけど……orz

 いやぁ、すごいね、勇者って!と私は心で空笑い、美鈴ちゃんの伸びの良さに果てしない羨望を抱いたり。


「順調にレベルアップしていてとても良い感じですけど、結構歩きましたし、素材の売り方も教えたいので。今日は5階をマッピングしたら帰ろうと思うのですが」

「うん、それでいいと思う。なんか、使わない筋肉使って筋肉痛とかなりそうだし…こう見えて、私、歳だから」


 と、ははっと笑う元・娘さまは、明るく言う割に視線の奥が慎重だ。

 彼女の保護者さんが戻ってくるまで、見積もってあと2日ほどはあるだろう。明日は早足で1〜5階、その後5階から10階部分を踏破する段取りで、明後日はその先の10〜15に挑んでいこう。上手くすれば明日には15、明後日には20近くまで彼女のレベルを上げられる筈。充分私は働いた。前の世界の義理も果たせる。

 そんな事を考えながら一度はモンスター・ルームに当たり、お互いがっつり魔力を削ってなんとかクリア。美鈴ちゃんはレベルアップで似非回復が発動し、5階部分のマッピングもあと少しだったので、我々は目標を踏んで無難に階を戻って行った。

 その間、二組のパーティに出くわしたのだが、オーラが既に中堅で、戦っていたのはほぼ一人。必死に戦い降りて来た自分達が“初心者”過ぎて、1階に戻るまでのアイテムは足りているか?とか、逆に心配され過ぎて二人で苦笑を漏らしたり。あまり無茶はするなよ、と二組のおじさんに言い残されて、心配をかけてすみません、と二人でそのまま頭を下げた。


「なんか…意外と良い人、多いね」

「良い人、だけとは言えませんけどね。まぁ、今日は当たりの日、なんでしょうかねぇ」


 無事に1階に降りて来て、交わす言葉はそんな所だ。

 そのまま斜塔の職員さんにちらっと一礼をして、町に戻った私達はさっそく素材を売りに出た。

 商業区画へ歩いて行って、どの店に売ろうか、と。

 お店の目安を教えようと、キョロキョロしていた私の肩を叩いてきたのは例の彼。


「良ければ買い取ってあげようか?」

「あれっ、イシュ。どーしたんです?」

「あのね、昨日、会いたいって話をしたのはそっちでしょ。それに、初日に買い叩かれたら少し可哀想だなと思ってね」


 そういやそうか、でも優しいな!と、作り笑顔の幼なじみを見。


「えぇえええ!?も、もしかして、ベルちゃんの彼!?」


 と言う彼女。


「いえ?ただの幼なじ…」

「と見せかけて!?なになに??ほんとは好きだったりとかしちゃうんじゃないの!?二人とも!!?」

「いや、だから」

「きゃー、素敵!!いいな、いいなぁ!若いっていいなぁ!!おばさんってば胸キュンしちゃう!」

「えぇと、ちょっとお話を…」

「はぁ。私もこんな素敵な彼氏が欲しいなぁ…!!!」


 と。

 そこでようやくハッと気付いた、イシュの後ろのゴゴゴな暗雲。


——や、やばいっ…!!イシュはこの手で揶揄われるのが、一番嫌いだ…!


 私は慌てて両手を振り振り、美鈴ちゃんの帰還を願う。

 そのうち、無言のイシュの様子に彼女の方も気付いたようで。


「あはは。そんなに怒らないでよ。お名前は何ていうの?」


 と。少し取り繕った風ではあるが、「私は美鈴って言うんだよ、よろしくね〜」な余裕な態度だ。

 私は背中の冷たい汗に、ギ、ギ、ギ、とそちらに向いて。


「えぇ、分かって頂ければいいんです。怒ってなどいませんよ?」


 という、真っ黒オーラ全開のイシュルカさんに釘付けられるも、何も見ちゃいなかった!!と気を取り直して視線を外す。


——何!?この二人って、相性悪いの!?


 と。果てしない黒が滲んだ作り笑顔で敬語を続ける、幼なじみのそんな姿に冷や汗を流しまくるも、当の美鈴ちゃんはと言えばさして気にする風もなく、何故か上がったハイテンションでズレた会話を続けていなさる。

 二人はどこで出会ったの!?やら、銀髪…すごいね!銀髪だぁ…!!やら。いえ、それは灰色です。輝き要素がありませんから…な、私の内心のツッコミ、スルーで美鈴ちゃんはブツブツ零し。イシュは怒濤の彼女の問いを笑顔でだいぶスルーして、そのうち面倒になったのだろう。一緒に食事でも如何です?と独り言を終了させて、娘さん、めちゃくちゃ面倒だね(^^)と、一瞥の中に込めてきた。

 食事、と聞いて気を取り直した美鈴ちゃんはハッとして、あ、そうだね、そんな時間…と。ようやく気持ちを落ち着かせ、思い出した懐具合に「安い所でお願いします…」とハイテンションからの急降下。そんな姿を見せた相手に、器用に片眉を上げたイシュ氏は、こちらに不思議な顔をした。

 幼なじみのお友達なので、そんな理由をでっち上げ、結局この日はイシュルカさんの奢りで満漢全席だった。どうやら前の世界にて“男性に食事をおごってもらう”経験のない美鈴氏は、初体験で恥ずかしいやらちょっぴり嬉しいやらで、妙に紅潮した顔をして「美味しい、美味しい」と連呼した。

 素直に喜んでいることをそのうち理解したイシュルカさんは、最後の方には満足そうにいつもの調子に戻ってきていて、うっかりこぼした“19歳”に美鈴氏が硬直するまで、二人はそれなりに打ち解けた風だった。


「ど、ど、どうしよう!?ベルちゃん、私ってば、十代の子に…!!」


 高そうな料理をおごらせちゃった…!!と愕然と語る美鈴氏を、遠くの方でイシュルカさんが肩を震わせ笑っていた…とは。言わない方がいいんだろうな、と胸の内に秘めておく。


「大丈夫です、彼は商人。既に途方もない額を稼いでいるお方です」


 と。いわゆる“社長”ってやつだよ、と言ってあげたいがそこもアウトだ。


「え…本当に、大丈夫?」


 と、か細い声で絞る彼女に、問題無い、と再度語って。

 素知らぬフリで会計を済ませたイシュはこちらにやってきて、続けて入ったカフェ的な店で「今日の収穫物を出せ」と。

 食事をおごってもらった上に、素材まで買い取ってくれる男子に、美鈴ちゃんはやっぱり申し訳ない顔をして。泊まる所が無かったら僕が手配しましょうか?という、イシュの止めの一撃にて「だっ、だ、大丈夫、です」と。魂を口から出した。


「あまりいじめないであげて下さい…」

「軽いコミュニケーションでしょ。面倒くさいタイプかと思ったけど、弄ると面白いね」


 とは、美鈴ちゃんが席を立って二人きりになった会話で、だ。


「そうそう、東の勇者パーティは、ついに80階層に到達したそうだよ。一週間もしない間にそこまで登れるなんて、大陸一のレベルを刻むパーティだけあると、噂が広がり始めてるみたいだね」

「へぇ…さすが、勇者さま。すごいですねぇ」

「ほんとだよ。だけど、例の位持ちの冒険者。こっちは単身で50階層を突っ切った、って、また別の所で噂になってるみたいだよ」

「え?もしかして…レックスさん?」


 そうそう、その人、とイシュは呟き、私が「レックスさんもポーダに来てたんだ…」と内心ビックリしていると、ふと思い立つように。


「明日、僕も行こうかな」


 と。

 藤色の瞳を持った幼なじみはこちらにぽつり。窓の外に聳える塔に遠く視線を投げながら、そんな言葉を零してみたのである。

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