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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
21 トゥルリス・ポーダ
215/267

21−4



 さすが前の世界の娘さま———。

 環境への順応面では僅かに差が出るが、似たような性格のため、買い出しはすぐに終わった。

 最後にお互い小用を終えて、水やらドライフルーツやらをダンジョン前で確認すると、そのまま人の列に混じって自分達の順番を待つ。時刻は昼食の時間まであと一時間という頃で、人の並びもそれなりといった風である。

 本日の私の装備は、皮の帽子に皮の胸当て、鉄の篭手に皮の靴。美鈴ちゃんはヘルメット他、こちらと全く同じ装備だ。レベル1の階、つまり二階から挑戦するのが丸わかりにて、経験層の冒険者らに生暖かい視線を貰う。

 ポーダの斜塔は冒険者の業界内では“新興ダンジョン”であり、挑戦者の力量を階数で示してくれるとあってか、主に中堅層に人気があるようだ。初心者が挑んではいけない訳ではないけれど、我々のように少し心が太い人種じゃないと、取っ付きにくい面もある。故の生暖か〜い視線ではあるが、性別が双方ともに女とあってか、あからさまな揶揄いもなく順番がやってきた。


「はい、次の人」


 控えるギルド職員に呼ばれてそちらに歩いていけば、何やら発券機らしき場所にて、切符が二枚発券される。


「初挑戦で合ってるよね」


 と、疑問も無しに問い掛けられて、はいそうです、と答えたら、それぞれ一枚手渡され。


「これは10階ごとに到達階の記録ができて、次に挑戦する時に、低レベルの階層をスキップできる鍵だから。これを使えば10階おきなら一瞬で此処に戻って来れる。あのレリーフがある場所が鍵の行使場所になっていて、モンスターの湧きが無いセーフティ・エリアになる。再発行にならないよう、紛失だけは気をつけて」


 そんな説明がついてくる。

 ワン・モア・プリ…!と思ったが、後ろに控える慣れた様子の冒険者らの姿を見れば、行けば解る、使えば解る、まぁそんな所なのだろう。どうやらダンジョンに付随する“鍵”の発券機らしい部分は、そのままダンジョンの壁の一部に張り付いているようなので…ここは“そういう性格”なのだと、ある程度は研究されて、便利だから使おうか、と。そんな流れになったのだろう。

 職員さんの「はい、次の人」の掛け声を聞きながら、私達はふと視線を重ね、入り口に近づいた。

 巻貝の紋章が刻まれた扉の前で、今さっき貰った鍵を前の世界の自動化ゲートよろしくかざしてみれば、青白い光が回路のように端々へ向けて拡散し、ゴゴゴ…な効果音にて扉が開かれる。

 照らし合わせる鍵認証はどちらか一人でいいらしく、自動改札を知る我々はおっかなびっくり踏み出したのだが、バーが飛び出す事もなくあっさり初階へ通された。


「あっ、美鈴さん。武器、武器」


 と、切符をしまい踏み出す彼女へ慌てて声を掛けながら、私の方もウケを狙って色物武器を取り出した。


「って、ベルちゃん、それって…」


 間髪入れず突っ込んで来た娘さま。

 素晴らしい反射能力☆と彼女の事を誉め称え、私は手にした特殊装備を「良いでしょ、これ♪」と持ち上げる。


「一度使ってみたかったんです」

「なにそれ、すっごく可愛いフォーク…!」


 でしょでしょ、良いでしょ。赤い宝石がいかにも“お茶会”のデザインでしょう?と。ムフフと笑んで銀装飾の可愛いフォークを振り下ろし。


「殴ったり刺したりできるんですよ☆」


 と、約1メートル、質量2kgの“アティアのフォーク”のお披露目をする。

 見た目も名前も可愛いコレだが、イシュの鑑定・鑑識からして、効果の類いは付いていない、どっちかというと飾り物の色物武器だという事だ。

 対する彼女の武器はどんなだ?と、視線で促すこちらに気付き、思い出して取り出すそれに。


「えっ…何ですか、そのムンク…」


 と。


——うぉおおっ!!ヤバい!思わずムンクって言っちゃった!!!( ̄Д ̄;)


 焦りまくった私だが。

 若干抜けてる性格の美鈴ちゃんはスルーして。


「ほんとだよね、なんでこんなの…あはは、ははっ」


 と空笑う。


「これでも精霊の力とか貸して貰える杖らしいよ?」


 と、安全帽子を頭に乗せて、木のこぶに怨霊を宿す先端ムンクをかざす彼女は、異彩感Maxだ。

 思わず。


——それってほんとに魔法使い用の杖なんですか?うっそ、まじでー…?ははっ。ドンマイ☆


 と。密かに内心に呟くくらい。

 いまの美鈴ちゃんの姿は、悲しいかな。場末の演劇場などで方向性を迷宮入りした、売れない劇団員、そのものである。

 ここまでの酷評はきっとアレ…前の世界で家族だったせい、だ。まぁ、見ようによってはマニア受けするのかも…と、三十過ぎの元・娘を見、親に似て童顔だなぁ…と続いて心をしんみりさせた。


「では気を取り直して、行きましょうか」


 と、目の前に広がるフロアは、石煉瓦に松明が灯る地下施設風の様相である。


「主なモンスターは大きなネズミ、それから紫色の蝙蝠と青色のスライムらしいです。たまにストーン・スネーク…石で出来た蛇が出るようなので、噛まれないように気をつけましょう。ところで、どんな属性の魔法を持ってます?」

「えっと、四大元素の初級魔法…?なのかなぁ??」

「消費魔力と詠唱時間はどのくらいになるかわかります?」

「詠唱時間はわからないけど、消費魔力は10って出てる」

「それなら、様子を見るために一つずつ試し打ちしてみましょう。複数と当たったときは二人で殴っていく感じで、一匹だけ残してから余裕をみて試しましょう。たぶん、レベルも低いとこなので、二、三発殴っていけば余裕で勝てると思いますから」

「わかった。じゃあ、そんな感じで。えっと…ベルちゃん、よろしくね」


 そこでニコッと笑った彼女は前日吐露した不満も消えて、純粋にこちらの世界を楽しもうという気概をみせた。まぁ、前の世界でも兄と一緒にRPGゲームをしていたようなので、元々こういうファンタジーは好きな方なのだろう。

 相変わらず珍妙な、杖の先端の“叫び”の窪み…目口に指をズボズボ入れて「この固さならモンスターを殴っても、たぶん壊れないよねぇ…」と呟いている美鈴氏は、傍目に見てもやる気充分。

 そんなこんなで我々はモンスターが湧く2階へと、さくさく歩いて行ったのだ。

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