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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
20 賢王国ラーグネシア
210/267

20−12



 そういう訳で、端的に言おう。


 証言台に立った時、どうやら私は沈黙の状態異常を受けたらしい。

 一通りの陳述を聞き、私は無罪です!と声を出そうとした時に、完全に喉がかれていて脂汗がどっと出た。

 黙秘は肯定とみなします、とか暴利過ぎるでしょ!!と怒ってみても、何故か声がかれてしまった私はどうすることもできずに。


 罪人を死刑に処する———。


 そんな非情な判決を、マジか!私、死刑か!!と、愕然として見送った。

 うわぁ、これで処刑台とか死刑執行の関係者とか、謎の故障や謎の病に見舞われたりしまくって、ベルさんの呪い説とか歴史に刻まれてしまったり…?

 そんな馬鹿な妄想を、特殊スキルを思って描いた。

 これから起こるだろう未来に、ちょっとだけ気が重くなり。どーするの、これ…と思った不満でイシュを振り返ろうとした所。


 こう、きらきら〜っと光が降って、天井からぬっと飛び出す美しい女性の片手が、傍聴席の後ろにいらした王女様的なお人から、光の球をすす〜っと掬い取って行ったのだ。


 その光景は筆舌しがたく…たぶん、かぐや姫的な。望月を十ばかりほど集めたような輝きで、もののふの心から争おうとする気持ちが消えた、は、まさにそんな状況だっただろう、と。

 法廷に居た全ての人が呆然とそれを見送った後、悲鳴を上げた王女様とか、侍女っぽい人の悲鳴とか。

 なんだ、どうした、と法廷は畏怖の感じで動きを止めた。


 その扉が放たれたのは、幾許もしない後である。

 非常に偉い、という人物が真っ先に目に入り、呆然とする我々を置き、素早く王女へ救いをやった。

 この審議の関係者には後ほど詳しく話を聞く、と女性はきつい口調で語り、そこに立たされた女性を含む傍聴席の皆さまは用意させた客室に少し控えていて下さい、と有無をいわせぬ強さをもって言い切ったのだ。

 そこに立たされた女性、もとい、無実の罪のベルリナさんは、開け放たれた扉から颯爽と入った兵士に拘束具を外されて、何となく気味が悪いほど丁寧な案内で、傍聴席に控えてくれた皆さんの居る客室へ、押し込まれるよう入れられた。


 や〜、なんだか大変な事になってしまいましたね〜〜( ̄∇ ̄*)ゞ


 恥ずかしくて照れながら口を開いた私の“声”に、真面目に気の毒な表情(かお)をしたソロルくんがやってきて、状態異常回復魔法をさらっとかけてくれた後。


「や〜、なんだか大変な事になってしまいましたね〜〜」


 私は努めてのほほんと、言いたかった事を言ってみる。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——どうしよう、反応薄い…(・・;)


 若干焦った私はちらり、奥の席を盗み見て。


——できれば椅子に座りたい。


 と、さり気なく足を出した時。


「だからうちの子になりなさい、って言ったのに!!」


 横から強烈なタックル…もとい、女性の強い抱擁を受けて。


「うぐっ」


 と肺の空気が出たのは、ご愛嬌というやつだ。


「貴女が殺されてしまうかもって、思ったら…!全く生きた心地がしなかったのよ!!」

「グレースはベルリナちゃんを一等大事に育てたつもりだったから。僕も本当に心配したよ。体の方は大丈夫なの?」


 と、突っ込んで来た奥方のフォローをしたのはご当主様だ。


「あの様相だとベルの裁判は無かった事になりそうだ」

「そう断じるのは早い気もするが…女神が乱入してきた事実は相当尾を引きそうだしな」

「ベル…無事で良かった」


 と、口々に言って頭を撫でるルーセイル家のご子息さまは、笑みに若干疲れが滲むも、安堵した声音であった。


「一時はどうなる事かと思いましたが」


 と。

 嘘つけいっ!と内心反論、お仕事モードなイシュルカさんに、ちらりと視線を向けてみて。


「良かったな」


 と深く囁く超絶なイケメンに、三兄弟の視線がキンと張りつめるような気配が滲む。


「何とかなりそうで、本当に良かったでござる」

「まさかベルが法廷に立つとは思ってもみなかったもなぁ」

「これでも飲んで落ち着きなよ」

「…これも食べて」


 と声を掛けられ。

 奥のテーブルに並べておかれた軽食と飲み物に、そうだ、きっと疲れている筈、やっと気付いた彼等の動きは思いがけず早かった。

 あれよあれよと椅子に押されて、テーブルごとででんっと、食事が私に供されて。

 これもたべてね、あれもいいわよ、これなんかどうかしら。

 奥方さまに勧められるまま、あれもこれもと詰め込んだ。

 確かにお腹はすいている…と思いながら口を動かし、そういや勇者なクライスさんとか、どの辺に居るのかな?と。

 部屋の中の気配を探り、ようやく認識したけれど。


——……なんか、遠い…。


 そんな事実に気付いてしまったベルリナさんは、もぐもぐしながら「遠いよ〜…」と頭の後ろで嘆いてみたり。 

 そのうち、お城のお偉いさんぽい矍鑠とした老人に、陛下がお呼びです、と一人つまみあげられて…いや、実に丁寧な召喚だったのだけど。知り合いが居る部屋から一人で連れ出されたりすると、若干不安になるっていうか、そういう複雑な乙女心で。

 連れられたのは、たぶん私用で使われる域の、王の謁見の間なのだろう。

 そんな場所にてマンツーマンにて、「妹が…」と謝罪を受けた。

 聞けば、この短時間に、いろいろ隠れた事実というのが浮かび上がってきたそうで。全てを正しく把握するには、しばらく時間がかかりそうだ、という話。

 中でも謂れの無い罪を着せられた貴女には、何よりも先に謝罪したい、と女王様は頭を下げて。

 こんな謝罪では貴女の怒りは収まらないかもしれない、けれど国の王としてしかるべき場所で頭を下げる…そうした事は懸念が多くどうにも実現できそうにない、せめてあの子の姉として謝らせて欲しい、と聞けば。


——なんだ、立派な王様じゃないか。噂通りで良かった良かった。


 ホッとした私はそこで、謝罪を受ける、と返したのである。

 望むなら賠償金も…と金目の話も滲んだが、身の潔白だけ明らかにしてくれればそれでいい、と。その事は当然、というしっかりとした言の葉を聞き、こちらとしては納得をしてその部屋を辞退した。

 謁見を終えて客間に着く前、ちょっと手洗いに寄りたい…と。先導してくれていた兵士さんに話をつけて、あとは道がわかるから大丈夫です、とお別れを。

 無事、小用を終えた廊下で、まず鉢合わせたのは青年だ。

 どこにでも居そうな面立ちの居住まいの静かな彼は、スと私の正面に柱の陰から現れて。


「無実が証明されそうで、ようございましたね」


 と。感情が読みにくい、眼鏡の奥の双眸で語り。


「私も面倒な仕事をせずに済みそうで助かりました」


 そう呟いて、すれ違う。

 すれ違い様。


「……帝都は遠いですからね」


 と、言われてハッと振り向けば。

 手品のように姿を消した、うろ覚えの青年の気配。


——えっ、帝都…??なぜ帝都……???


 狼狽えながら頭に思うが、沸き上がる謎の答えは、たぶん私じゃ解けそうにない…と。あっさりそれを放棄する。

 奇妙な出会いにとぼとぼと客間に向かう手前にて。


「ベル」


 と再び声を掛けられ、ふとそちらに振り向けば。


「あ、勇者様」


——全く気配が無かったデスよ…。


「どうしました?」


 なテンプレ会話。


「…その、今回の事は」

「勇者様!それ、気のせいです!」

「だが…」

「誰にでも起こり得た事なんです。私が特別だった訳じゃない、ので!」


 頼む!そんなに落ち込むな!!ヾ(´〜`; )

 私の語彙はしょぼいのだ!これ以上複雑な話にされると、剥がれちゃいけない皮とかが剥がれてきちゃうから!!


「面会とかにも来てくださって、すごく心強かったです!私を弁護してくれる書類とか、出して貰ったそうですし…えぇと、その…お手数をおかけしました、というか…本当にありがとうございました…!」


 と。

 くらえ!話の有耶無耶化!

 そんな心地で頭を下げて。


——流れろ!流れろ!!この話っ。


 と、祈ってみたりもするけれど。

 さすがに今回は勇者様でも、流せる話じゃないらしく…。

 一応、「………いや」な“書類とかは気にするな”的な否定の言葉は出るものの、間違いなく非は自分にあって、お前は被害者だろ、的な。たぶんほとんど自責の念だが、重苦しいオーラが滲み……。

 両者、いかんともしがたい情に、暫し互いに沈黙をして………。


 まぁ、それでも大人だったのは、さすが“彼”という事だろう。


 胸の内では凄いモヤモヤが立ちこめているのだが、いくら待っても被害者である私からの非難が無いので。

 自分を責めきる事もできずに、仕方なく。

 そのまま飲み込む事にした、らしい。 

 気まずい沈黙が漂う中で、最後に彼は息を吐き。


「………二度と、起きないようにする」


 と、私の頭上に呟いた。

 え?二度と??二度目も何も…こんなことはそうそう起きないでしょうよ———、なんて。未だに頭を下げたまま漠然と思っていれば、勇者様が踵を返してそちらに戻って行く気配。

 慌てて顔を上げると共に足を動かし後ろを行けば、一度、ちら、とこちらを伺う全く読めない無表情。

 無言で廊下の角を曲がって、それまで控えていた客室のドアの前に着いたなら。

 ドアノブを持った勇者な人が、視界から右に避け…。

 え?先に入らないの?と思った視線でそちらを見れば、暗に「どうぞ」と言われたような、やはり読めない無表情。

 そのままドアを引かれて射した、窓の向こうの光の筋に。


——あっ!?これってレディーファースト??


 ハッとするのも束の間に。


——えっ、もしかして、私がレディー???まさかのレディーな扱いなの!?


 と。

 思い至ったら早かった。

 全身の熱が、こう、一気に、顔の辺りに集まって来て。

 ドアが開いた、で、視線がほとんどこっちに向いていたのだが、そんなことはお構いなしに一気に赤面する私。

 はく、と口は開いたのだけど、何の音も出せずに照れて。


「あ、あの、あ、あり、ありが、とう、ござ、います…」


 と。ようやく掠れた声が出たけど、情けなさったら半端なかった。

 しかも、公言しているとはいえ、想い人とのその対応に、向けられた視線の生温かった事と言ったら!

 穴があったら入りたい!!とは、まさにこんな状況で言う!と。

 サササとイシュの近くに逃げれば。


「ドア、開けてもらっただけでしょ」


 至極冷静なツッコミが。


「だぁっ!?だっ!ドアですよっ!?」


 無いでしょ!?無いよ!?今まで無かった!!———前世でも、たぶん無かったよ!!!ヾ((;゜Д゜))ノ


「……ここに居る人達の階級じゃ“普通”の事だよ?この“普通さ”は、むしろ挨拶以下だと思う。全く照れるところじゃないね」

「なんて恐ろしい世界に住んでるんですか、皆様は。……って、違いますよ!そこじゃなくてね!?こう、憧れの人にドアとか引いて貰ったら、うわぁああ、ってなるでしょう!?いや、なるんですよ!普通、なるの!!……って、みんな、こっち見ないでぇええ!!」


 ちょっとした混乱に。

 居たたまれずにソファーの背凭れの死角に逃げて、ふるふる緊張していたら。

 シーンとなったその空間に、よく通る一声が。


「なぁ、ベル」


 と、皮切りに真面目な声を出したのは、ルーセイル家の嫡男であるアークザイン兄さまで。


「コーラステニアに帰って来ないか」


 続いた硬い声音には、疑問符が付く余地もなかった。

 ソファーの後ろでしゃがみ込み、照れボルテージを下げる私は、何故その話題??と不思議に思い。


「懲りただろう……今回のような事態が、二度と起きぬとも限らない」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——うん?


 言われて一気に熱が下がって、いやいやいや、と。

 そろりとその場に立った私は。


「今回の事は、誰にでも起こり得た事故ですよ?」


 と。


「そりゃあ、多少の“怪我”は負いましたけど…そんなものを恐れていたら(好きな人を追う)旅なんかできませんって」


 と、こてん、と首を傾げて語る。


「それに」


 それに。


「まだまだ知りたい事がありますし…」


 つまり、好きな人の生態だったり生態だったり生態とかね。 


「懲りるなんて…そんな、まだまだ…(//▽//)ゝ」

「………だから、照れるところじゃないね」


 と、最後はそんな有耶無耶感で。

 イシュとのやりとりを見ていたその場の人達は、まだ帰るつもりはない、と。

 そこだけは強く、しっかりと、理解してくれたようだった。


「いつでも帰っていらっしゃい」


 と、奥方様に言われたら、ただただ感謝で頭を下げて。


 ラーグネシアに女神降臨———。

 そんなニュースのゴタゴタに紛れ、当事者達はひっそりと、ラーグネシアを去ったのだった。




 その後ほどなく、神国の“教皇”により、ラーグネシアの姫君が女神の加護を失った、というスキャンダルが発表された。

 女神———、つまり“神”関係は教皇に聞け、という事だろうか。

 情報通なイシュルカさんに言わしめさせたなら、手を出してはいけない者に触れてしまったのが悪い、自業自得だという事なのだが…。

 ラーグネシアの王城に、神と呼ばれる存在が、あれだけ派手に現れたのだ。

 もう少し詳しく説明すると、滅多に無い神の顕現、何故そこへ降臨したのか、という疑問が多く上がったそうで……。

 例の姫君と繋がりの深い女神が降臨したとの事で、姫君は一体どうしているのか、まずはそんな素朴な疑問が諸外国より寄せられた。

 人の口に戸は立てられない、まさにそんな事態だったのだろう。

 倒れたらしいと耳にしたどこかの王族が、姫君の様態を心配し、いち早く教皇へお伺いの手紙を出した。

 神国側はこれ幸いと、すぐに公の文章を出した。それは神の声を聞く教皇の権威を示す、絶好の機会であったのだ。

 そうして公言されてしまった“加護を失う”大スキャンダル。

 噂は“浮き島”のニュースを凌ぎ、大陸中に広まった。

 

 彼の国の姫君は、自身の余りある罪により、女神の加護を失った———。


 とは、教皇の言である。

 加護に付随する魅了の効果が途切れた事に起因するのか、最も近くに居たらしい、そんな人々が真っ先に“彼女の罪”を暴露した。

 口さがない人々は憶測の尾ひれをつけて、大陸のいたるところへその噂を運んだのである。

 ちょっと平民を裁いた程度で、こうして無事に無罪放免、お姉さんから謝罪付きで釈放された訳だし、加護を奪うのはあんまりじゃ…?とは、私の言だ。

 それを聞いたイシュルカさんは私の鞄を取り出しながら、彼女はそれにより“変わったもの”と“変わらないもの”に気付くのだ、と。自業自得、と言いながら、その同じ声音(こわね)でもって、この世には女神に愛されていない者など一人も居ないのだ———と。

 それはもう深い言葉をお吐きになった。


 ちょっとした間違いよね…?など、周りに苦労をかけただけあり、言ってはいけない気もするけれど。

 神のさじ加減、意思のひとひらがこれほど人々を翻弄する、と。

 少しだけこの世界が恐ろしく思えてしまった、私がそこに居たりした。


*.・*.・*.・*.・*.・*


 勇者の嫁になりたくて。

 異世界からの転生者、ベルリナ・ラコット18歳。

 少し心が重いけれども、イシュルカさんの言葉を信じ。いつも通り口数が少ない大好きな人を追いながら。

 あれ?また付いてくるの??とイシュの笑顔に巻かれた私は…。

 その後、思いがけない出会いがあるとは全く知らず、王国・クアドアの大地を踏むのでありました。

読了お疲れさまでした。


割と固い内容の20話目でしたけど、雰囲気でさらっとどうぞ、です。

突き詰めてもあまり良い事がありません(笑)

個人的にテンプレが満載で、とても楽しい回でした(^^)


それでは次へどうぞ、です。

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