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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
20 賢王国ラーグネシア
200/267

20−2



 とまぁ、そんな感じで。簡単にここまでの経緯を話しておくと…。

 リグリッドでの仕事を終えて、帝国領・イルファスラへと続く街道に消えた彼等は、途中で私を軽く撒いたら、その先の領都の辺りにごく自然に現れた。何でも、以前挑戦していた“失意の森”の方へと、数日間、素材集めに出ていたそうだ。

 リューイ少年の護衛の時間は、そうして目隠しされるのか…と。確かに滅多に挑む者のない高レベルダンジョンは、格好の隠れ蓑になるもんなぁ、と。怪しい甲冑を脱ぎ捨てた素の勇者様を遠目に伺い、やっぱり今日もカッコイイ…(*´∇`*)と私はどっぷり妄想へ。

 あの後、どんな話がされたか私は窺い知らないけれど、今のところ孤児院へと戻る素振りを見せない彼は、あの子を引き取りに戻らずに済む話し合いができたのか———、そうポジティブに考える。

 彼等は失意の森でしか手に入れられない素材を売って、偽装を補強した後にイルファスラ領都を発った。次は何の仕事かな〜?と、いつも通りの距離で付いてく能天気な私を従え、一週間ほど経った辺りで歩先をそちらの国へと向けた。

 行き先はラーグネシア。帝国領・イルファスラ、リグリッドの端っこと、その他4つの王国と境を共にする国で、数代続いた賢王の治世によって、近年は賢王国…と呼び習われる一国だ。

 確か、今はうら若き女王陛下の統治下にあり、その方の妹殿下が大陸中に知れ渡る“絶世の美女”なのである。

 何故かヨナさんのお口から黒い噂が飛び出してたが、一般論を語ってみると、それは素晴らしいお姫様だという事だ。

 たまに設けられる公務では、貴賎を問わず手を取られると国民に大評判で、その微笑みは至上の美。女神の深い加護を受けお生まれになったあの姫は、さすが心根も素晴らしい。姫殿下はラーグネシアの一国のみに留まらず、最早この大陸の宝である、と近隣諸国の王族に言わしめさせた程である。

 ヨナさん談ではそちらの姫も勇者様狙い…と言うが、一国の姫様となると庶民はそうそう目通りできず、更に私みたいな追っかけオンリー生活者には、長蛇の列に並ぶとか無理をしてでも目通ろうという気概もなければ興味も無い。

 いや、興味が無い、と言ってしまうのは恐らく正しくはないけれど、好きな人が同じらしい、なライバル要素だけが有るという程度だろうか。程度、で済ませてしまってはある意味不敬と取られ兼ねぬが、それこそ東の勇者のファンは大陸中にたくさんいるし、本気で結婚したいなぁとか考えている女性となると、他の国の王侯貴族はもちろんの事、やはりそれなりの人数が居るのだろうから。ラーグネシアのお姫様だけを特別扱いできない、訳だ。

 だからあくまで噂しか耳に入って来ないのだけど、キトラさんの奥様談、地位に権力にお金に美貌、性格まで良しときたなら、全て揃った素敵女性の仲間といえる。

 しかし、ここまで賞賛の言葉を並べてみても、いまいちその認識にピンと来るものが無い訳は…。強力な恋敵…と、いえばそうなのだろうけど、遠い互いの身分差なのか、何なのか。ラーグネシアのお姫様を——多少誇大解釈してみて——大陸中が持て囃す中、逆に私の直感はヨナさん寄り…といいますか。近づかない方がいい気がする…≧(´▽`)≦と、若干沸いていますので。

 核心は何なのか自分でもよく理解できぬまま、私はそういう決意を抱き、勇者パーティを追う足を国境の前で止めたのだ。


 それからほどなく、イルファスラの端の町にて泊まると決めた宿屋に現れたのは例の彼。


「久しぶり。ここで足を止めたのは良い判断だったと思うよ。さすがベル」


 と。

 そう語ったイシュルカさんは颯爽と隣の席を取り。


「急いで来たからお腹空いたな…もう昼食は取ってある?」


 そう言いながら二人分、この辺の名物であるポットパイもどきを注文し、恐ろしい早さで胃に収めると「転送端末(エクスチェンジャー)のメンテナンスをしたいから、ちょっと鞄ごと貸してくれない?」そんな要求を口にした。

 この時の私というのは、イシュの食事の早さとか、取りあえず目が点で。そんな食べ方、体壊すよ…?と心配気味に見ているだけで。


 まぁ、こうして実際に“コト”が起こった後に、初めて気付く真意な訳だが。




 流石、彼の特殊スキルは半端ない価値だな…と。寄り添ってくれるモフモフさまをゆったりと撫でながら、自分が所持する貴重品揃いの鞄さまの行方を思う。


 端的に言ってしまうと。

 なんか嫌な予感がするからラーグネシアに入るのはやめとこう…とか、単純に考えていたベルリナさんは。

 お隣のイルファスラの国境付近の町の宿にて、再会した幼なじみとの昼食中に。

 突如、詰めかけた武装集団に問答無用で引っ立てられて。

 拘置所っぽい雰囲気の物々しい建物に、よくわからぬまま押し込められた…と。

 こういう訳なのだった。


 拘束されて早3日。午前中にはイシュが訪れ「鞄はちゃんと預かってるよ。安心して」と囁きながら、やや声量を高めに取って「コーラステニアのルーセイル家に、知らせを飛ばしたから」と。

 いかにも身内で必死です、と声音(こわね)だけに滲ませて、後ろに控える番兵さんに聞かせるように語ってみせた。

 え?マジで連絡したの??———驚きながら視線で問えば、ニッコリ笑った悪戯顔が肯定を告げてくる。


「ご当主さまも、ご子息さまも、それはもう心配されて。すぐに行く、と手紙にはしたためられてたよ」


 そういう訳で心強いやら、逆に恐ろしい気がしてくるやら。


「だから気を強く持っててね。きっとここから出してあげるよ」


 語った彼の声音のあたりは依然必死な様相だったが、こちらを向いたニヤニヤ顔は今後の展開を見通して、笑い出すのを堪えている雰囲気だったのだ。それなりの年数を連れ添った私には、実に理解しやすい含み顔。わぁ、期待してます…と心の中でカラッと言って、「……ヨロシクオネガイシマス」と絞り出したリアル声。

 ご親切に、真向かいの牢に入ったおじさんは。


「お嬢ちゃん、希望なんてもの、持つんじゃねーぞ。この国でここに入れられた奴は大抵、問答無用で断罪される。……例えそれが冤罪だったとしても、だな。何処の貴族に目を付けられたか知らないが、あんた、運が無かったな」


 と。その辺の事情とやらを教えてくれたりしてくれて。

 その後、二、三会話をしてみて多少分かったこの環境。

 イグネシア監獄といえばこの国では有名で、もっぱら重犯罪を犯した者が入れられる。ここに入れられた時点をもって裁審官(さいしんかん)の印象悪く、殆ど死刑が言い渡されて、稀に無期懲役。裁判が開かれる事に意味はあるのか?という、極刑確定者の束の間の宿であるらしい。

 数代前の国王さまが民の権利を表現しようとそれはもう尽力し、前の世界でいう所である裁判制を作ったが。有力貴族のいくつかは独自にそこにパイプをつくり、そう多くはないけれど、少なくもない頻度でもって“気に入らない存在”を押し込むようになったらしい。

 とはいえ、そう易々と貴族の自由にできる訳もなく。

 それでも“重罪”まではいえない程度とか、全くの冤罪などで押し込まれてしまった者は。よっぽど国の上位貴族の機嫌を損ねてしまった…と。まぁ、誰も口にしないが暗に思うという事だ。


「賢い女王だ…と聞いていたんだが」


 実際こうして突っ込まれると認識が変わってくるぜ。お偉い貴族の横暴を簡単に見過ごしちまう。所詮、誰かの傀儡のただの小娘なんだろう。

 と、吐き捨てるように語った人は。

 うわぁ…不敬よ…?( ´△`;)と口を噤んだ私にポツリと語る感じで、オレは冤罪だ、とかすかに言った。


「あんたもその様子だと…お仲間みたいだな」


 おじさんは皮肉な音を声に含ませて、小娘の括りなのだろう、私を相手にした事を酷く後悔するように、それきり黙ってしまったが。パーシーくんの登場で、今度はまた違った理由で、沈黙を選んだようだった。

 そうして何の音も響かぬ物寂しい獄中で、人肌に温かいお犬さまを抱っこして。

 あ、寝れるかも…と思いつつ、脳裏に想うは勇者様。


——今頃どんな仕事をしてるのかな?


 と、おそらく足を止めて見送る私に気付かないまま、国境を越えたのだろう、あの時の後ろ姿を想い。


——大陸一美人なお姫様か〜。


 まさか惚れたりしないよね…?

 と。

 一目惚れです、といきそうなタイプではないけれど。


——勇者ときたらお姫様……ぶっちゃけ鉄板ですもんね。


 と、やさぐれ口調で思うのだ。

 美人は三日で見飽きるなどと前の世界では言われていたが、いずれ見飽きるものだとしても、どうせなら美人が良かろう。

 カップリングを自然と思うネガティブ降臨で。


——あー、やだやだ。嫉妬は暗い。


 思った所で漸く気付く、おそらく凄く美人な女(ひと)と並び立つクライスさんの…それはもう素晴らしいだろうお似合い具合というやつを、間近で見たくなかったのだな…な、単純なそういう気持ち。

 いやまぁ、正直、ここのお方こそ…陰でコソコソ画策しているお姫様なのかもな…とか。不躾に疑う気持ちがあったのだけど。ちょっと入国は危ないかもな…と、権力者怖い…!と言いつつ。実はそんな事よりも“勇者様が美人を前に恋に落ちたらどうしよう…”とか。どこか心の奥底で、危機感を覚えてたのかもな、と。

 なんか納得…と思ったら、うら寂しい気分になったが。

 彼が選ぶなら仕方ない……と、強引に持ってって。


——何日したら出られるかな?


 と、三日目の檻の中から。

 私は一度空を見上げて、もふもふを搔き撫でながら。

 あー…、だの、うー…だの心で唸り、そちらに思いを馳せてみて。

 美人に惚れない奇跡を信じ、そっと目を閉じたのだ。

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