20−1
『ご主人、ここで何をしている』
「えぇと、正直、私もそこは、よくわかっていないんですケドも…」
『壊すか?』
「うえぇっ!?いや、それはもう少し待ってみましょうか…!」
からりとした石床に冷たさは感じるけれど、この時期、気候はまだ温かく、夜もさほど冷え込まない。
頑丈そうな格子の向こうに不意に現れたパーシーくんは、ぱさり、ぱさりと尾を打って実につまらなそうである。
ちょうど真向かいの牢に入った強面のおじさんは、どこからともなく現れたお犬さまの姿を見留め、凭(もた)れた壁から「…そんなばかな」と、ズルっと体を滑らせた。
「あのー…ところでパシーヴァさん、こっち側に来られたりとか…」
凌げる温度と思っていても、肌寒いのは否めない。
——お犬さまの体温を少し分けて貰えるならば、ちょっとラッキーかもしれない。
そんな風に思って言えば、愚問だな、とでも言うように。「ふん」と鼻息を吐きながら太い金属の格子をすり抜け、彼はこちらにやってきた。
正面の奥の方では「…うそだろ」という声が掠れて、思い切り両目を擦る動きが暗に感じられるが…。
*.・*わぁ、毛玉さんモッフモフ♪安心するわー…この毛並み*.・*
と。
やっぱりなんだかんだと言って、結局、心細かったのか…と。
魔獣さまの毛並みを掻いてフと息を吐いてしまった私。
名前をベルリナ・ラコットという、ごく普通の18歳。
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あ。いえ。
獄中から失礼します。
念のため語っておけば、誰かに怪我をさせたとか、法を破った訳でもない…です。
どんな理由か定かじゃないが、実際こうして捕まったりとか。結構進んだ文明じゃん?とか思っていればこうだから。
でもまぁ、この時代の権力者サマ。場所によってはマジ横暴…なのを忘れきってた私も悪い。
そんな感じで、複雑な心境ながら事態を受け入れちゃった私は、結構前からよくある感じの異世界転生者。体年齢(とし)の割にお利口なのは、過去の記憶があるから…です☆