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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
19 クローデル峠
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閑話 こんな無理ゲーとは聞いてない…(;へ:)



 この世界、遥か昔に描かれた世界地図を見る限り、自分が暮らした“地球”より、少し海が広そうだな…と。そんな漠然とした感想を、セピア色に染められた主要な大陸三つに加え、油に浮いたドーナツのような円状のデコボコ大地を遠目に眺めて抱いた私。

 そこは一つの大陸の、神国と呼ばれる国の王、教皇さまの居住区にある、賓客用の一室なのだった。




 私がここへ喚び出されてから、およそ二ヶ月が経っていた。

 ひと月目は発音しにくい“デイデュードリア”という国で、それこそ始めの一週間は謝罪ばかりを受けていて…。

 割に早い段階で「まぁ、仕方ないか」とか。教皇様の思いつきにて召喚されたという境遇を、何となく受け入れてしまえた私は…。元々ファンタジーが大好きで、魔法とか、異世界トリップだとか、出会った美形な男子達とか。心きらめく境遇に、もしかして置かれているのかしら?と。もう二度と会えないのだろう、オタクな兄との最後の会話を、それとなくリフレインしてみたり。

 でもまぁ、今なら、お約束っぽく「そんな時代もありました」と。

 言い切れてしまう私というのが存在してたりするんですけど…。


 要するに。


 教皇様の“思いつき”とか訳のわからない理由によって、召喚された異界の“勇者”は…。祈りとか教えによって纏められる教国に、それほど武の需要も無ければ、性別も女性であって。

 まるきり、扱いに困る…みたいな、反応を取られたら。

 変に客観視できてしまえるリアルなこの年齢に、居座る程の強い度胸も生まれもっていなければ。


 旅に出てもいいですか…?


 と。

 当て所無いソレであるものの、そう言うしかなかった話。

 持て余し気味の神国側はこれ幸いと喜んで、そこそこ腕が立つような美男子達を付けてくれたが…。


「あぁ…リュミー。お前はいつも美しいのだな…」

「そんなっ…!ネ、ネイだって…きょ、今日も素敵…だよ?」


 耳に届いた雑音に。

 見渡す平野に腰を下ろして、ひたすら俯き水を含むも。


「ねーねー、ルー。オレと一緒にひとっ走り…あっちの林でイチャつこうぜぃ♪」

「………」


 あっちもこっちも薄桃展開。

 唯一のオアシス…!に、なりきれないもうお一人は。


「………」


 ルー、ことルーディースさんとはまた違った方向に、波の無い沈黙をひたすら纏うだけである。

 そもそもこの“勇者パーティ”、初めに声をかけただけ…という現沈黙の大司教、まるっきりとばっちり感半端ないエルレイムさんを筆頭に、戦官とかいう職業のリュミエル、ネイシェルの翼種の双子、同じく戦官のルーディースさんに、何故か文官…で、先駆者役の狐の獣人ヒューロスさん、と。私の特化が“攻撃系の精霊魔法”なものだから、なかなか手堅い陣形で上手く機能してる…ハズ。

 前の世界じゃゲームもそこそこ、実兄の影響でおよそ女子らしからぬ楽しみを持つ私だったが、乙女ゲーになじめなかった性格が問題なのか。こんな無理ゲー、お手上げである。

 ファンタジー小説だって大好きだった。十代後半などは精霊とか天使ネタとか、ほんとにほんとに好きだった。

 のだが…。

 いくら精霊の力を貸してもらえる杖だから、って。可愛らしさの欠片もない先端ムンクな木の棒だって、百歩譲って借り受けるけど…。視界にチラチラ混入してくる、見た目天使な戦官二人が、四六時中、場所を選ばずイチャついていたのなら。昔抱いた憧れという美しい幻想は、瞬時に醒めるというものだ。

 今となっては文官様は、種族“人”のルーディースさんに付いて来たかっただけかなぁ…?と。子供っぽい理由であれど実行した大人を見遣り、ただ溜め息しか出て来ない。もちろんこちらも時、場所、選ばず、ずっと“お誘い”調子であった。直接的な誘い文句は暫く聞きたくない。実はルーさんもざっくり見ると、嫌悪してはなさそうなので…尚、たちが悪い、というやつだ。


——六人パーティ中二組が、ピンク色ってどうなのよ!?


 あぶれてしまったエルレイムさんは、初っ端から安定の我関せずを貫いていて。逆にそれが行き過ぎていて、小心者の勇者な私はうっかり声も掛けられない。


——あっ。これって、私が真の腐女子じゃないのが悪いんだ!……orz


 そう。大事な事だからハッキリ言わせてもらうと。

 このパーティ、勇者で女な私以外は 全 員 美 男 子 設定だ。

 人の目なんか気せずに、絡み合いまくる天使な双子。

 ほんとは誘いに乗りたそうなのに、無理な沈黙で逆に意識する堅物人族と押せ押せ獣人。

 救いかな…?と思っていたけど、実はそうでもなさそうな大司教様といったなら、こういう人を無欠超人と言うのだろうな…な異次元さ。もはや声をかける事さえ、ままならない展開だ。

 モンスターを前にしたなら、しっかり機能はする、けれど。

 取りあえず守っときゃいいんだろ?的な雰囲気が全開で、全く力を振るうことなく毎度終了する戦闘。

 え?私って、意味あるの??

 てか、これじゃずっと成長できな…orz


 美形男子に囲まれて、あ、もしかしたら誰か一人と、結婚できたりするのかも…?と。

 勇者なんて物騒なもの、寿退社できるかも…?と。

 思わず期待しちゃった的な過去の自分を揺さぶりたい。


 四十路に片足突っ込んじゃった痛めの勇者の周りの男子は、どう見た所で年増女など初めから眼中に無い。

 いや、そもそも“女”など、彼等の目には映らないのかも。

 これじゃ意識するのはおろか、面子が私でゴメンナサイ…だ。

 ほんと、何でこうなった。

 ソフトでほのぼのな同性愛は、これでも好きな方なのよ…?漫画だって何冊か買った事もあるんだし。

 でもこんなに情熱的な絡みを実際目にしてしまえば…R18じゃないけれど、ぎゃあ!と叫びたくもなる。

 彼等の絡みの一端を見て、いちいち頬を染める程うら若い年でもなければ、達観できてしまうほど中身は大人じゃない。精々、素知らぬ振りを続ける大司教様を見習って、知らない!見てない!関係無い!と念仏を唱えるだけである。

 だけどほんの少しだけ。


——こんなことなら友人に乙女ゲー攻略の手ほどきをして貰うのだった…。


 とか。思わなかった事も無い。

 スタートが同性愛者な乙女ゲー…とか、たぶん無いだろうけど。

 愛の力で性的嗜好を逆転させる、って。何となく無理ゲーの類いだものね…。

 そもそも取りつく島もなければ、わぁ!皆、私より年下なのね!?若い男子に囲まれるなんて、なんてハッピーなのかしら♪

 とか。

 理想は落ち着いた年上です!な、私は到底思えそうにない。

 これで旅費とか旅費とか旅費とか、賄ってもらっているうちは。向こうの世界で自立したキャリア(?)ウーマンだった私は、誇れるものとか何も無さ過ぎて自信喪失状態である。

 心のどこかじゃ、今からでも…!と。仲良くできたら…と思うけど。

 リアルを見れば「不可能じゃね?」な光景が依然広がり。


 憎たらしいほど晴天の、穏やかな草原で。恨みがましく思うのは。

 逆ハールートとほざいた兄の、兄っぽい事してやるぜ!な最後に見せたドヤ顔である。


——ほんと。何でこうなった。こんな無理ゲー、聞いてない…。


 私こと、間宮美鈴、不祥独身、36歳。

 異世界トリップのキツい現実を、噛み締める日々なのでした。

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