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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
19 クローデル峠
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19−5



 この大陸は今のところ概ね平和と言って良い。

 まぁ、もちろん下々の民草には解らない、王家や国家間のいざこざは多少あるのだろうが、取りあえず私の物心が付いた頃には、戦争をしている地域はこの大陸から無くなっていた。

 それでも、そんな不穏な文字が近しく感じられるのが、今現在身を置いている“帝国”という大国である。この国は文化の異なるいくつかの小国を時の皇帝様が力づくで纏め上げた、な経緯があるため…帝国全土に効力を持つ帝国法なる法律も、もしかしたならそんな辺りが中央との軋轢となって、ああした力の弱い組織にしわよせがいくのかな…と。

 ただ、こうしてぼちぼち歩き、勇者様の後を追いかけている観光客な立場からして、どことなくこの領土は景気があまりよろしくない、な感想を抱き出していた。

 前日にお世話になった孤児院のあるあの町も、宿の値段や食事の値段が少しばかり高かった。外を歩く人の姿もどことなく寂しげで、極限とまではいかずともその一歩手前まで資金を切り詰め生活しているようだった。

 裕福さで言ったなら、国土の狭いアルワナの方が下だと思うのだけど、領地も広く、気候もそこそこ、人の流れも悪くない、な恵まれたこの位置で、生活難になるのは逆に無理があると思える。

 それでも急いで後を追いつつ、街道の両脇に広がった畑の実り具合とか。気にかけながら進んでいれば。特に今年が不作という風でもなくて、じゃあどうして生活難?な素朴な疑問が浮いてくる。

 そこへ、そういや勇者様、近々領主が代わるとか…言ってたような気がするなぁ、と。ははぁ、さては現領主様、不当な税でもかけちゃって領民を苦しめちゃったのか、と。

 これは中央の皇帝様の“公義の眼(め)”なる特殊スキルを思い切り侮ったクチだろう…と、御愁傷様、な文字を読む。

 皇帝様のお住まいになる帝都においては超有名な、現皇帝が所持するらしい政治的千里眼。彼が不正と思う事ならどんな些細な書類も“写る”、私的にはある意味呪い…な中々へヴィーな眼(まなこ)の話。

 ちょっと若気の至りもあって昔こそっと忍んだ折りに、長髪で目が眩むほど——レックスさんとはまた違った方向に——美丈夫なその人が、隣に立つお付きの人に「眠る時くらい癒されたい…」とぼやいていたのを思い出し。あぁ…うん、お疲れさま…(-_-;) と、思いながら帰った記憶。

 いやぁ、実は絶対回避(このスキル)、対人なら数人同時に躱せる程度、な実験は、昔そこでやってきました、な今明かされるやんちゃな話。ついでに今まで使用してきた高価な希少石類は、そのころ帝都の街なかで運良く拾ったアイテムだ。


——懐かしいな〜。帝都の皇誕祭(こうたんさい)。


 お祭りの規模も大きいし、警備の方にも力が入って、夜中だと言うのに安心・安全。そして何より一人歩きでも思いの外楽しめたのだ。

 帝都滞在が無かったら、今の私の見聞はハッキリ言って半分以下に留まっていた事だろう。それだけの多くのものを帝都では学ばせて貰い、惜しみなく出資してくれたコーラステニアのお貴族様には、感謝してもしきれない想いというのが存在している。万が一あの家に何かがあれば、イシュ共々、持てる知識と財力でお助け致す!な心境だ。

 まぁ、そもそもご当主さまはぼんやりに見せかけて、なかなかやり手のようだったので…お家存続の危機とかは無さそうな雰囲気だけど。折に触れては、ご恩は忘れていませんよ!と。強く思う真面目な私。


——さぁて、現領主さまの評判は如何ほどのものなのでしょうかね?


 孤児院の町を発って1日、私は次なる街に着き、追いつけないな…な現実に久しぶりに騎獣を用いた公共の乗り物を使用した。

 さらに1日をかけること、領都へ着けば。丁度上からお触れがあって、領主が代わる、な文面に都民はにわかに浮き足立った。

 予想とは異なるその雰囲気に、私は一人「あれ??」となり。

 てっきり、経済政策が悪く、不平不満が渦巻いていて、新しい領主さまが歓待されると思いきや。お酒多めの食事屋でギリギリ粘って話を聞けば、どうやら新しい領主様、不正を働き下克上された前領主様の子供らしい。前領主様の悪政は年嵩の者には有名で、この領地が今でも貧しい暮らしを強いられている根源というやつが、つまりその人物にあるらしい。

 そこをなんとか盛り返し、そこそこの生活を保っているのが現領主様の手腕だそうで…およそ、新しい領主様は好意的に見られていない。


「これだから中央は…」

「何を見てそんな通達ができるのだ」

「領地が帝国にある限り、ここはいつまで経っても苦しいばかりだ」


 そんな風に人々は言い、遠くの地の皇帝様に思い思い憤る。

 うーん、空気、悪いなぁ…と、少しばかり心配になり。

 どこから漏れた話になるのか、新しい領主殿は東のカルーサに居るらしい、と。えらく腕の立つ護衛が上から付けられたみたいだぞ、と雑踏の中にそれを聞く。

 その護衛が“東の勇者パーティ”だとは未だ明言されてなく、あれだけ目立つ人達が分からない訳ないものね、と。おそらく何らかの細工というのが間に入っているのだと…そんな風に解釈すれば。


 翌日、領都のギルドにてリグリッド内の地図を辿ると、そこから東に位置しているカルーサなる村を拾って、騎獣を用いた彼等のことなら既にそこは発ってるだろう、と領都へ続く二本の道を「どっちかなぁ…?」と考える。

 一つは、モンスター・フィールドを横切らない峠道。もう一つはいくつかのそのフィールドを、掠めたり、跨ぐ道。

 どちらも危険があると思えば危険であるようでいて、あの勇者パーティよ?と思えば楽勝のような経路だ。

 でもきっと、勇者様なら、最悪魔力が切れたとしても、下手なモンスターにぶつからない道の方を選ぶ気がして…。わざわざクローデル峠を越えて来た理由というのも、予行演習的な作意が含まれてたんじゃないのかなぁ、と。


 私は「こっち」と道を決めると、そそくさとギルドを後にする。

 そして、素人でも扱いやすい一人乗り用の大人しい騎獣を、借り受けに行ったのだ。

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