19−1
「その、ベル殿…」
「えっ…と、どーしたんです??」
「馬車の中で見つけたんだが…」
「この子の事を、どうにかできないでござろうか」
帝国領に繋がっている険しい峠の曲がり角にて、未だ新しい轍を見つけ。そのまま行方を辿ってみたら、どうやら昨日の大雨で、馬車の一つが崖の方へと落ちて行ってしまったようだ。
そんな絶望的な状況ながら、勇者様とレプスさんとが山肌に散る残骸を念のため確認しに行って、時間を置いて戻った二人は酷く沈痛な顔をしながら、その腕に抱く“声”の包みを、私の方へと差し出した。
声の高さと包みの丸み、心底困った二人の顔に。
——お…おぉ、赤ちゃんか…!
と。貸して下さい、と両手を伸ばす。
聞けば、両親に抱き込まれ守られながら泣いていた、とか。
残念ながら二人の息は既に絶えていたのだが、幸い、この子は傷一つ無く…。
そんな幼子を腕に抱き込み。
*.・*孤児は生きるのが大変ですが、命あっての事ですからね…*.・*
と、しんみり、涙が浮かぶ目元をしばたかせて思った私。
名前をベルリナ・ラコットという、ごく普通の18歳。
・
・
・
・
・
いやぁ、その。歳を取ると涙もろくなる…っていうか。
それこそこういう事故というのは、この世界、割とあるんですけど。
あとはこの子の生きる場が、良いものであれ、と願うくらいで、と。
まずはこの子を泣き止ませねば…と思った私は抱っこでゆらゆら。育児経験?ありますよ。ただし、どーんとおまかせあれ!と胸を張って言いたいけれど…何ぶん記憶が世界の向こう。
そのうち頬が当たった辺りに付いてる胸の脂肪とか、思い当たったものがあるのか、口をぱくぱくし出した赤子。まぁ普通に考えて…抱っこよりご飯よね…?と。えぇと、仮に今、仕込んでも…滲み出るのは10ヶ月後よ…?と。残念な方に逸れたのは…。
元が残念な頭を持った転生女子…だったから?と。思わない訳でもない私です。