18−7
カラフルなボンボンが、時折、風に揺れる丘。三つ葉のクローバーさまが視界いっぱいに広がる中で、私は頂上付近に生えたそれ等の影に、すっぽりと収まっていた。
気分はさながらカエルさん。早く雨でも降らないカナー、とアホな事を考えて、それと同時に緑の海に——あると思いたい——四つ葉を探す。ほら、女性って頭の中がマルチタスクらしいから、と。腰を下ろした敷物に、お菓子やお茶まで広げて思う。
祭りに参加する女子達は、一度は上へ登るのか、この場所で寛いでいる私を不審な目で見遣り、すぐに目当ての“色”を探して各々まばらに散っていく。茎の太さが丁度よく片手で持てるほどなので、好きな高さにナイフを入れてサクッと採取して帰る。
それでも観察して見れば、花を選ぶ目は真剣そのもの、採取した瞬間などは嬉しそうな表情で。あぁ、なんて初々しい…!と他人事(ひとごと)のように私は思う。
こうしてお菓子をつまみつつ、お茶を含んでほっこりすれば。秋のような程よい風が麦わらを撫でていき、そろそろちょっと肌寒いかな?と、パステルカラーに合わせた上着を鞄から取り出した。
ついでに一度、宿に戻って用でも足してこようかな、と。そそくさと丘を下って、再びそこへ戻ったら。広場から聞こえる音がよりいっそう盛り上がり、反比例するように、丘で花を摘む人の気配は殆ど無くなっていた。
それでも私は“見つけてやる”!と、闘志を未だ燃やしたままで。まぁ、最悪、勇者様には渡さなくてもいいかなぁ…とか。それでもファンか!?とドヤされそうだが、ちょっぴりそんな考えも脳裏の端を掠めていった。
そうこうするうちあっという間に太陽は傾いて、緑を照らす光の中に橙色が増した中。
ふと、揺れる三つ葉の群れに、それっぽい姿を見つけ。
徐に浮かせた腰と爪先に力を入れて。
目を逸らさずに、瞬きもせず、脇目も振らずに走り出す。
そんな私の奇行など、誰の目にも止まらずに。
ようやく掴んだ茎の先にて、四枚の葉を確認したら。
つい、もう誰も居ない、な思い込みから、「見つけた!!」とか叫んでいたり。
——あった!ついにやりました!!幸運な四つ葉ちゃんをゲットです!!!
かけた時間に見合う程、充足感は半端無く。
そのまま近場の三つ葉の森へとひと思いにダイブしたなら、丘の上をゴロゴロやってクローバーをなぎ倒し、それでも収束しなかった喜び故に、あはは、あはは、と笑っていたら。
まぁ、お約束な雰囲気で……。
一番見られちゃマズい…!!な人が、ふと地面に転がった私の事を見ていたり。
いや、ちょっとだけ時間を戻してそれを再現してみると…。
不意に掛かった人影に、おやっ?と思って視線を向けて。
半笑いの変顔で、あれ?誰だ??とかボケるけど。
長い足とか、スレンダーさ、とか。逆行で目は見えないけれど、見慣れた感じの黒髪さんが風にたなびく様子とか。
間違いなく勇者様じゃね??と冷静に思ったら、そのままボケるかどうするか…。
そんな感じで固まった後、差し出された手を取って……お互い無言を貫きながら、取りあえず私の方は上半身をあげたのだ。
体を持ち上げ、それと同時に、大きくて温かな手が自然と離れていったなら。色々な恥ずかしさ、が、やっぱりドッと押し寄せて…。
「どっ、どうぞ!これ!!」
と、見つけたばかりの四つ葉を差し出す私の顔は、夕日の赤さも相まったけど、きっと相当、赤かった。
だけど内側の冷静が。
——花じゃなくてすみません!!!
とか。尤もな事を叫ぶので。
——いや、ホントだよ。なんで私は葉っぱの方を好きな人にあげてるの??
と。
おそらくポカンとしただろう、それでもやっぱりクールな顔の勇者様を考えて、微動だにしない気配になんとなく気持ちが萎む。
——や、やっぱ、葉っぱとか…。いっ、いらなかったかな……。
冷静に思い返して、そっと腕を引いたなら。その素晴らしい動体視力で僅かな変化を感じ取り、少し慌てて茎を掴んだ黒髪の勇者様。
一本の茎を二人で持つ、なこっぱずかしい状態に、本気で慌てて手を離したのは私の方だった。
「こんな葉っぱですみませんっ…!!」
と、辛うじてフォローしたのなら。
「———いや、…っ!?」
な、息を飲む音がして。
ん?と思って視線をあげれば……幸運な四つ葉さま、淡い光を放つと共に、勇者様の腕の中、すうっと溶けて消えていく。
——………あぁ!なるほど!!
と合点がいった私の方は、あれだけの女子に貰ったお花をどうするのかと思っていたが…アレはこうして消える仕組みか!と心の中で手を打って。
何故か慌てて懐を探る勇者様を見ていたら。
「……………幸運値(ラック)が…上がった……?」
と。
自身のステータス・カードを引き抜き、苦しげに言う声がして。
「え?」
と、“わからない”顔をしながら、続きを尋ねてみたのなら。
「……“フォー・リーフ・クローバー”。贈った相手の幸運値を20上昇させる効果がある…らしい」
と。
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「にっ、20!!えっ、20もですか!!?ヾ(゜д゜;)」
思わずガバリ!な背景音で、そんなばかな!!と絞り出したら。
勇者様はコクッと頷き。
「……年以上、一度も上がらなかったんだ」
と。
極めて弱い声音でもって、ぽつり、と静かに呟いた。
——えっ、ダメだった…!?
な可能性が掠ったが。
——いやいやいや、そんな訳ない!そんな訳ない!!幸運値が高いのが嫌だっていう人とかさ、絶対に居ないから!!あって困るものじゃないんだし!!むしろ高い方が絶対良い!!ここはほら、えぇっとですね…複雑な…そう!複雑な何かの事情があって…?勇者様もちょーっとばかり放心してるだけ…とかね!!
と、改めて思い直して。
「……え…っと。それはその…お、おめでとうございます…?」
と。
ちょっと不安な心地のままに。
こてん、と首を横向けて、私はそっと伺うように彼の方に囁いた。




