18−5
明くる日の朝。
控えめながらよく通る、花火の音にて目覚めた私。
今日は体育の日だっけ?と寝ぼけ眼で思ったら、開きっぱなしの出窓の先に可愛い花火の魔法が見えた。
世界は違えどそうした趣向に誰かは辿り着くようで、割と国の祭事には打ち上げられたりする花火。ぼんやり、帝都の皇誕祭にはもちろん及ばないけれど、こじんまりとした愛らしさが際立った花火だなぁ、と。明るい時間にちゃんと見られる“魔法の不思議”を心に思う。
前日、宿の一階で歓談している声を拾って、お偉いさんの挨拶のちに花火が上がってお祭り開始、と。ライスさんの話とはちょっとだけ違ったが、そんな雰囲気を掴んでいたので、私のコレは寝坊の部類…と頭を振る振る考えた。
まぁ実は、お昼付近にゆっくり参加、と思っていたので計画通りなのだけど。花を持つなら白ワンピとか、やっぱり映えるかもしれない、と。ここはテンプレを参考に、麦わらチックな帽子だろう。そう、本日のコーディネートをざっと計算してみせる。
コーラステニアでお世話になったお貴族様の息子さんから、それぞれ貰ったひと揃いの服飾を引っぱり出して。まだ着れると思うんですが…と、鏡に合わせて見てみたら、少しウエストに余裕ができて胸の辺りがきつかった。
「………」
——うぉおおおおお、よっっっしゃぁあああああぁああ!!!
と、心の中で叫んだが。
まぁ、女子なら誰だってこの変化なら歓喜するさ、と。
ワンピースはもちろんのこと、麦わら風の帽子さま&麦わら素材風の靴さまを完全装備で見てみたら。おっ、やっぱり良家の子女に見えちゃったりするよな〜〜〜♪と、私の心は浮き立った。
薄化粧で整えたなら、愛らしい娘(こ)がそこに居り。ミラクルチェンジ☆な決めポーズのち、君は一体何してる…?な、気恥ずかしさが湧いてきて。
——……さぁ、お花を摘みに行こ〜!
と、静かな部屋を後にする。
そうして外に出てみれば、前日以上の賑わいで。混雑する民家の間を人をぬって進んで行けば、遠目に見える広場にて花を抱えた女子達が群がっている姿が見えた。
私の勇者様アンテナもそっちの方に立っていたので、あの群れの中心とかに彼のお方はいらっしゃる…つまりこれは、近道な広場を通らずに、遠回りして丘を目指した方が良い、と。サッと判断した私は人の気配が薄い方へと道を逸れて行ったのだ。
そして、前日のキープアウトが解き放たれた柵の前にて、女将さんから頂いた参加チケットを切ってもらうと。行ってらっしゃい、な爽やか笑顔をイケメンくんに頂いて、「行ってきます…」と、つい、はにかんで私は言葉を返した後に、ゆったり丘を目指して歩む。
途中、キャッキャと戯れ合いながら駆け下りてくる女子らを見遣り、そんな彼女等に握られた規格外の切り花に。
——んっ??(゜△゜;)
と思って振り向けば。
やはりそこに握られた切り花は大きくて、しかも前の世界におけるシロツメクサな造形で。
——人の身長(せ)より大きい花、って……あり得るのかこの世界……。
私は顔を丘に戻して、ひとり心でごちてみた。
その後、頂上へ向かう途中にすれ違う女子達は、いずれも様々な色に染まったツメクサさんを抱いていて。
——しかも!パステルカラーなのよね!!
ファンタジー、マジパネェ!!!と。この世の潜在能力に、ひとり戦(おのの)いてみたりした。
いや、実際にパステルなツメクサさんを抱く子達とか、茎の長さの対比からして、めちゃくちゃ可愛く見えるんだけど。え?あれを好きな男子にプレゼントとかするのよね??……いや、結構恥ずかしいです…自分が乙女に見えちゃいます…orzと。
何となく、公開処刑に近いものを感じるわ…と、勇者様の前に立つ自分の姿を想像し、うわぁあああ!!ヾ(;゜曲゜)ノと思いきりその空想をかき消した。
そんな感じでなんやかんやと頭を悩ませつつ歩き、ようやく丘の頂上に辿り着いてみて見れば。
「うわー……すごい…!!」
と漏れた声、のち。
——いちめんのクローバー畑ですっ!!!
と。
視界に広がる圧巻に極限まで目を見張り、思わずその場に立ち尽くす私がそこに居たりする。前の世界じゃ考えられない長い長〜い花茎に見合う結構な大きさの、青々とした三つ葉の群れに。
——えっ。つまりこの光景は、私に対する挑戦か…!?
と。
そう思ったベルリナさんは、武者震いにみまわれて。
——探す!絶対見つけ出す!!幸せを呼ぶ四つ葉ちゃん!!!
と。
たぶん、違った方向に、持てる闘志を滾らせた。