18−4
村の割には広いなぁ、とか感心してみても、そこはやはり村なので。夕日に近づく光を背後に丘を探してふらふらすれば、存外早く村の外れの柵の辺りが見えてくる。
チラホラ見える人影は、村の人より町の人のが幾分か多そうだ。それを伺い、柵を伺い、丘ってこっちじゃなさそうだ、と。今度は柵に従って時計回りで足を進める。
家々の陰の死角のとこで、何組かのカップルを見て。うわぁ、若い、初々しい…な感想を横目に流し。通りの端で集う女子等が、私は誰々に渡そうかな、とか、私はなんとかの方かなぁ、とか。品評会っぽい事前の話し合いにより、ライバル女子へと牽制を繰り広げる図を見遣る。
どこの世界も一緒かぁ〜と、苦笑しつつも頷いて。でもやっぱり勇者様かな?なポツリ発言が上がった後に、だよね!?やっぱり!?そこ行っちゃう!?な黄色い声がドッと上がって、近くを歩く私の肩がビクッな感じで跳ね上がる。
じゃあさ、皆で一緒行こうよ!と、リーダー格の女子が言い。すると、本命が居る女子だって、それが一番波風が立たないかもな、と。思ってしまった風な間の後、いいかも!それなら渡せる気がする!一度で良いから近くに寄ってみたいと思ってた!と。じゃあ約束ね!な“お約束”のち、背後で解散していく気配。
——……これは、明日、大変だ。
と思ってしまった私は一人、ライバル多め…と心にメモる。
なるべく人が少ない時に渡したい気もするが…。いや、そこは、会話の確率を上げるためと言うよりは…ライバルな女子からの「お前もか」的な嫉妬の声を少なくしたいと言いますか…と。そりゃあ好きな人の近くが良いが、そういうドロドロ感情とかはあまり浴びたくない…な本心。全くもって乙女心は複雑だ…と、気持ち頭を抱えて歩く。
そのうち、丘へ向かう坂が視界の先に見えてきて、なるほど丘は村の西…と頭の中にメモをする。
その方向に近づけば、キープアウトな紐があり。今日はもう入れないのね、また明日の楽しみか〜と、私は宿の方角へ体の向きを変えて行く。
ここへきて急速に夜に近づく村の広場は、前夜祭のためっぽい火が順次灯されだしていて、今夜は賑やかなのだろう事を周りの人が教えてくれる。
音源も段々と歌に移行しつつあり、村人や旅人が順にステージに上がっては、有名な歌謡曲(うた)を口ずさみ、それを聞いた演奏家達が陽気に音をのせていく。
追加で机が並べられた様子が見える一角に勇者パーティの面子を見遣り、まさにお酒を注がれているクールな顔のクライスさんと、気のせいか、一瞬視線が交差したような錯覚が。
でもやっぱり気のせいかしら、と私はすぐに視線を逸らし、宿で体でも拭こう、とか。思いながら歩き出す。
——あのお姉さん、勇者様をお酒で潰す気満々だったが…。
あらゆる場所でそうなのだろう、雰囲気を夢想しながら。
——でも結局、ザルなのよね。
と、そのうち首を傾げるだろう、周りの女子を遠くに思う。
いやしかし。勇者様って実際にどのくらいまで飲めるのだろう、と考えて。
酔った所とか見てみたいな、と。
クスッと“無理だ”と笑ったら。
——勇者様にあげるなら…あの精霊さんみたいな色の…綺麗な青い花がいいかなぁ。
なんて、頭の中の話題を変えて。
丘の上の花事情とか全く分からぬ私の頭は、その日、結構遅くまで色とりどりの花々が咲き乱れていたり…した。