18−2
水の都を発った後、南北に長いアルワナ国をひたすら北上していった東の勇者パーティは、フィールドに不意に現れた私のなじみの薬屋さんにてソロル少年のお姉さんを拾った後に、ダンジョンを一つクリアした。
思い込みかもしれないが、エルフのくせに銃器を扱うぶっ飛んだ姐さんは、慈愛の天使と見せかけてかなりアレな人だった。でも銃器も立派な飛び道具…?弓とあんまり変わらないかも…?と最終的に至ったら。ありかもな〜、と思いを馳せる視線の先の薬屋さんで、お姉さんは無事ソロルの森にお帰りに。
その後、いくつかの村や町を抜け、勇者パーティはいつも通りに進行方向に現れたとある村を伺った。
一晩だけの宿のつもりが村民からの歓迎を受け、ちょっと引くかな…?な村長さんの渾身の泣き落としの末に、プラス1日の滞在を勇者な彼は許したらしい。
それというのも明日にある“花祭り”のためらしく、勇者が祭りに参加したとか、ものすごい宣伝になるぞ!!と。後生ですお願いします村おこしを手伝って!!!とか、そんな内容だったのかな?と、泣き落としの内容等を勝手に想像してみたり。
村の割に活気がある、とか。宿もあって入りやすい、とか。
すんなり寝所を獲得できてちょっと浮かれていたけれど。
なるほど、女将さんが語った通り、お祭りのために来たっぽい観光客が多いなぁ、と。二階へ続く階段のちょっとした踊り場付近で、見渡せる1階フロアのざわめきをチラリと見遣る。
——それにしても、何故だろう。
どうして男女のカップルばかりが目についてしまうのか…?(- -;)と。
割り当てられた部屋へ入ると、開きっぱなしの窓を伺い、ちょっぴりやさぐれ口調でもって窓の外を見下ろした。
村の割には広い敷地にとりあえず感心し、ついでとばかりにつかみ取る備え付けの案内図を見て、「へ〜、広場があるのか」と。ぽつりな感じで呟いたなら。
何やらそちらの方角に音源めいた音を聞き、この時間から賑やかならば前夜祭とかあるのかな?と。ちょっと気持ちを持ち上げる。
まぁ、愛しの勇者様とか、ここでも女性に囲まれてるよ絶対に!とは思うけど。いつもよりは人の垣根も低いというかまばらというか。遠目よりは近い感じで見えたりもするかもなぁ、と。街場より肉厚的なハーレムの現場を見るか、それでも好きを貫いて寄ってくべきか…と、心の中で計りにかける。
そのうち、どうせお腹もすくもんなぁ、と。1に出店を期待して、2に勇者様に期待して、と都合良く順位をつけて、私は宿屋を飛び出したのだ。
ぶらぶらと歩いていれば、暖かい気候もあるのか、村の家々は美しく。そこかしこに生活の潤いが見て取れた。
村内に敷き詰められた石畳も立派なもので、観光地としてやっていく!という村民の気概が見える。
村の人ってそう簡単に話にノらないものだけど…と。超が付くほど真面目な勇者を泣き落としたと語られる、村長さんの手腕というのを、改めて凄い…と思ったり。
そうして村の広場に着けば小ぶりながらもステージがあり、近場の町から呼んだとおぼしき演奏家な人達が、カントリーな音楽をゆったり演奏中だった。
右を向けば屋台が出ていて、左を向けば机や椅子が。中央の空間は夜の踊り場用なのか、足を取られないように薄いラグが敷いてある。
そんな中、演奏に耳を傾けながら軽食を取っている人達は、服装やらイントネーションやらから、どうやら町場の人達だ。かと言って村の人達も端に固まるでもなしに自然と混ざっているために、おぉ凄い!歩き易い!と私の気持ちが持ち上がる。このくらいの混雑度なら歩くのも苦にならないし、上手い具合に混ざっているなら人の目も気にしなくて済みそうだ。
——と、言う事で。
さっそく屋台で何か買おう!と、私はそれに近づいた。
「いらっしゃい!」
と、声掛けられてふとそちらを見てみれば、たぶん、この村でイケメンな部類に入る若人が。「こんにちは」と返しつつ、横をちらっと見てみれば、同じテントに可愛い系の女子店員も立っている。後ろに並ぶ人の気配に、そちらはそちらで「いらっしゃいませ」と、丁寧な声掛けをして。なるほど、女子には男子の売り子、男子には女子の売り子で対応をしてるのね、と。抜かりないなぁ、な感心でもってメニュー表に目を通す。
前の世界の塩焼きそばな麺料理を注文したら、程なくそれを手渡され。「よければあちらに花蜜酒のご用意がありますよ」と、指差された方向に視線をやれば、今まさに樽の中からそれを注いでいる人が。
「楽しんで行って下さいね」
とか、止めな感じで微笑まれたら。
——…あれ?まさか、今、私って……色目的なのを使われてるの??(゜△゜;)
と。思っちゃっても仕方が無いと思えてしまうといいますか。
ぽかーんなアホ面をさらしつつ、「はぁ」な返事でそちらに行けば。
またまたお酒の入った樽の前にて、若人な兄さんにやたら親切にされちゃう私…。
——……こっ、これが!噂のモテ期ってやつですか!?
とか勘違いを醸しつつ、も少し静かな場所を探してトボトボと移動をすると。
その道すがら、町から来たとおぼしき女子が、まさに現在進行形で村の未婚男子の群れにチヤホヤされる現場を見遣り…。
——あぁ!なるほど!!
と腑に落ちる。
身の回り品が小綺麗な町場の女子の皆さんを、あわよくば嫁に貰おうという戦略なんですね!と。
あの子は面立ちも整ってるから格好の獲物なのだろう。訛りの無かった私も、一応、首尾範囲内なのだろう。万が一があるかもしれないからと、唾をつけられてる段階なのね———そう思えば納得だ。
とはいえ、若いメンズから親切にされるとか。下心有りでもそういうものの経験の無い私のハートは、なんだかそわそわしてしまう。私程度がこんなのを経験しちゃっていいのかな〜…と、申し訳ないような気分に浸り、でも一生に一度くらいは浮ついちゃってもいいのかも…?と。町娘の役得かな!と、そういう事にしておいて。
只今モテ期を疑似体験!と内心に看板を下げ、尚もふらふら村内を散策していると。立派な木立の根元にて、見知った色が目に入り…。
美しい青の敷物に偃月刀を横たえて、手入れ道具を広げて座る青銀の髪のライスさん。今日も御髪の垂直具合が立派です!とか見ていたら。ふと、私の視線に感付いたその人が。
「やぁ、ベル」
と、優しい口調で、こちらの方に手を挙げたのだ。