17−8
——あれ。銃器ってあんなに軽く“引け”るもんだったっけ…?
真っ白になる頭の隅で、ぼんやり思う私の疑問。
緑のエルフ、華奢な体躯の“調合師”職の彼女を思い。
彼女の腕に収まった、余りにも不釣り合いな大型のライフルに。
発射された後なのに、その場から微動だにしてなさそうな、脅威の気配を感じ取る。
——え。ファンタジー…?いや、でも。え。
銃器って、ほら、撃った後とか、反動があるって言いますよねぇ…??
え?つまり何ですか。彼女、それをものともしないで立ってるって事ですのん?
そういうのってファンタジー仕様なの??
それとも彼女、ああ見えて、ガチムチマッチョな体なの…?
って、いやいやいや。
その前に、此処、銃器があるの……( ̄△ ̄;)
——いや、違うな。あれ、ほら、遺物。大きさは違いますけども、イシュのソレ等と同じじゃないの。
どっちかというとイシュの銃器は、対多数な巨大兵器で。
だから、たぶん、その類いだ、と。
——エルフ美人が銃器とか……。
いいの?そんな、絵的に、いいの??
と、私の頭は片言並みに短くセリフを打ち付けて。
ギギギギャアアアァア!!!
と、今までにない断末魔を上げたソレ等に、不意に意識を戻された。
見れば、ボスを取り囲むウネさん達が変色し、ミイラのように萎びれる、ちょっとした地獄絵図がある。
図ったように「シーン…」となったボス戦フロアの面々は、しばし驚愕したものの。いち早く“回復”しようと動いたボスを見定めて、動ける者が一打を放つ。
今までの流れならここでウネ等が復活したが。
変色して枯れ果てた彼女達が立つ事は、どうやら無かったようである。
「ふふ。ごめんなさいね。アレ、除草剤入りなのよ」
美しいのに冷笑してるとハッキリこちらに悟らせる、微笑を湛えたその人に、私の背中はご正直にも冷えた汗を滴らせ。
その間、ウネの肉壁が復活しないと悟ったボスは、怒りの咆哮(こえ)を響かせた。
そんな最中におっとりと。
「勇者様、そろそろ私、お手伝いしてもいいかしら?」
と。
彼女は優しく問い掛けて。
戸惑いを孕む逡巡の後、彼は一つ頷いた。
見た目、上半身とはいえど人の姿をとるソレが、獣のような咆哮をあげた事にも驚いたけど。怒りのままに立ち上がる四足歩行の胴の端、正しく下半身と認識されるその場所が地面を割って持ち上がる。そんな「うわぁ…」な展開に、ドン引きした私の頬が相当深く引きつった。
八方向に沈んでいたらしいアンフィスバエナなボスの触手は、動物といえばまさしくコレ!な凶悪な生殖器。絵面にしたらまず間違いなくモザイク・トーンが貼られます、な猥褻ブツの陳列だ。一体、コレを造った人は、何に憧れていたんだろう…??と、冷静に疑い尽くして仕方ないほど、だろうと思う。
まさか、ソレでウネさんたちを復活させてたんですか…?と。まぁ、種っちゃタネだもなぁ…と、下世話な事を思いつつ。
とはいえ、例の物体が“何か”を知らない風である、清らかな視線のままのシュシュちゃんをチラ見して。
同じく、僅かな動揺もないフロレスタさんをチラ見する。
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——あ。ダメだ。知ってるのって私だけ……みたいです…orz
いっ、いや、アレは!生物の繁殖に必要な物体(モノ)であるからしてね…!!
純粋に、学術的には、別に卑猥じゃないって言うか…!!!
と。
内心の動揺が甚だしい私の脳は、必死になって言い繕うが。
ふと、視線を上げた先、勇者パーティの男性陣が、微妙な顔で立ち尽くすのに遅まきながら気付いたら。
——……でっ…ですよね〜〜〜…。
な同情心が湧いてきて。
いつの間にか羞恥に染まった頬の辺りも、幾分赤みが引いてきた。
再び「シーン…」となった気配も、次には微塵も後を引かずに。ブツの先から遅延を起こす状態異常系の体液とかが噴射されたりする光景を無言で流し。
アルラウネさんが居なくなり、真っ向勝負、な戦いに変化していく空気の隅で。
エルフ文字が光る虚空に大型銃器を収めた人が、次いで、二丁の小型銃器を引っ張り出すのを横目で見遣る。
「射程内ね」
と微笑みながら華麗に魔弾を放つ姿は、前の世界のアニメのように一際ステキに見えるのだけど。
真っ黒な双頭から連なる魔弾の着弾点が、何となく仲間内から避けられている風である、卑猥な触手…だったりとかで。
グオォォオ!!と叫ぶボスを見、うっ…となって目を逸らす。
その後、雰囲気で感じ取ったが、ウネウネ動く八本の触手に対し、どうやら美人な姐さんは分け隔てなく発砲したらしい。
だらん、と横たわる、触手だったモノを遠目に。
程なく、覗いたコアの部分を勇者様等がかち割った。
やっとボス戦終了だゼ!な少し和らいだ空気の中で。
お決まりのようなポーズで、銃口をフッとやった彼女に。
——うぉぉおいっ!!森の民ぃぃいぃ!!!?
と、私はようやく想いを叫び。
慈愛の天使なお姉さんを、悪魔、と言った彼の気持ちが、少し解った気がする…と。
一瞬、無慈悲な女神に見えた…な感想を懐に。
七本目の触手から体液を絞り出す、調合師な彼女の背中を、ぼんやりと見送った。
※ご正直:おそらく、そんな言い方はしない…と思われます。