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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
17 ルーデル第三研究所
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17−7



 フロア中央に鎮座している触手系のボスさまは、戦闘が始まってすぐとあってか、涼しい顔で微笑んでいた。

 ルーデル第三研究所のダンジョン・ボスは、第一、第二に引き続き【ダンジョンのボス一覧】な書物にちろっと描いてあったが。それだけじゃ分からない情報があるんだな、と。

 完全に“微笑んで”居る、モンスターな美丈夫を見る。

 ああいうのってアンフィスバエナ?尻尾は蛇の頭だけれど、双頭の怪物っていう点からすると、それに近い生き物かもな。そんな風に分析し。前の世界の息子な彼がハマったゲームを脳裏に思い、居た居た、ああいうモンスター、と一人で納得してみせる。

 人間の上半身と四足歩行な巨大な胴、伸びた尻尾が蛇の頭で、どうやら触手の部分というのはまだ仕舞われているらしい。そしてボスを守るように配置されたウネさん達が、八体ほど彼の周りで根っこを伸ばしているようだ。

 少年はそのアルラウネの一体に目をつけられて、ひたすら枝の切っ先で貫くようにいじられていた。

 ボスの見た目は男性体だし、アルラウネのお姉さん等は巨大なバラに上半身を融合させた風なので。ぱっと見、侍っているように見えてしまうのだけれども。シュシュちゃんの魔矢が飛ぶ度に、手空きのウネが身で庇うので…やっぱりハーレムなのかなぁ…?と、少しげんなりしてしまう。

 そのうち、キャアア!!な声を響かせ、ウネの一体が薙ぎ払われて。おっ、勇者様、根元から断つ戦法に変えたんですね(・ω・)bと、物陰から無言のグッジョブ。

 さぁてあと七体か〜、とお気楽に思っていると。ここへきて何もしていなかったボスなアンフィスバエナ男子が、それまでとは違う方向でうっとりと微笑んだ。


——なんだろう。モンスターのくせに、壮絶なフェロモンが滲んで見える……。


 何やら凄く負けた気がして、どことなく凹んでいると。

 ボッ、という重い音の後、刈り取られたウネさんがみるみる茂り花開かせて…。

 ぱっと開いたバラの中から、同じ姿の女性が艶やかに起き上がる。


——おっ…おぉお…。そうか、根っこが残ってたから…。


 私はそんな光景を至極真面目に考察し。

 次いで、ウサ耳のおじいさんが炎系の攻撃魔法を全体に浴びせかけるのを、ぼんやりと目で追った。

 キ、キャアアアア!!な声が響いて、八体ともに燃え尽きたのだが、彼女等が庇ったらしいボスは殆ど無傷なままで。またしても壮絶な微笑を顔に浮かべると、ボボボボボッ、な爆発音でウネさん達が生い茂る。

 ボスを倒すか、あるいは一定の体力を削るまで、取り巻きが復活するタイプかぁ…と。面倒くさいなぁ。時間が掛かる…。な、私の気落ちを余所にして、彼等はその作業を三度ほど行った。

 ウネさんが炎上し、一時的に生身の壁が消失する間を見計らい、前衛+シュシュちゃんが攻撃を仕掛けるという、そんなスタイルに落ち着いた頃。


——ですよねぇ。こちとら、もとより連携技は日常的に磨いてるって話ですもの。


 面倒だと落ちた気分を持ち上げながら、うんうん頷き納得し、時間はかかるが勝利は間近!さすが勇者パーティです!と安心しながら見ていたら。

 私みたいに端っこにいたソロルくんのお姉さんへと、ウネさんの遠距離弾——やや大きい棘攻撃——が届いたらしい。


「フロレスタ殿!」


 な叫び声のち、それを察した勇者なお方が、サッと視線を飛ばすという様子が見て取れた。

 そしてアルラウネさん達がフロレスタさんも“攻撃対象”認識したら、あいつ実は弱いんじゃね?な思想共有があったのか。ニヤリと笑い、集中的に砲火する気配が走る。

 他メンバーが彼女等の射程に割り込む姿が面白いのか、お姉さんに的を絞ったウネさん達は代わる代わるに棘を振り抜き、またそれを弾きに動く勇者パーティを翻弄し。弱点有りと認識された彼等の布陣が少々揺れた。

 とはいえ、誰が適任か、とか。フロレスタさんへの棘攻撃を一番上手く弾く仲間を、彼等は意識の端々で早々に見繕ったなら。揺れた布陣を再構成し、再び“勝ち”への動きに移る。

 偃月刀を一回転させ、十数弾の棘を逸らしてフロレスタさんを守った人は、次のウネさんの攻撃を見て体の向きを瞬時に変えた。それを目で追い、敵方の攻撃の延長線、パーティの庇護対象の彼女を見れば。


 タイミングが良かった…というやつだろうか。

 後で思えば悪かった、とも言えそうなその瞬間。

 ふと、どうやら棘が掠ったらしい、頬の辺りに手を添えて。


 ふふ、と。


 ほんの一瞬、冷たい微笑を浮かべたように見えたのだけど。

 その直後。

 直感で。

 あぁ、この人、ヤバい人……———。

 と。

 私の手足が凍った直後。

 徐に乗った眼鏡を、ク、と指で押し上げたなら。


「っ!姉ちゃん!!仲間は避けて撃てぇええっ!!!」


 な、悲痛なまでの絶叫と。

 緑光なのにどこまでも禍々しいと感じる陣が…。

 エルフの古語が巨大に広がる魔法陣の最中にあって、妖艶な微笑みを顔に張り付けた美貌の女(ひと)が…。


——………え。あれって、ゲパード?だっけ…??


 と。

 前の世界の銃器を思う、私の視界いっぱいで。

 本当に、徐に。

 軽く“構え”に姿勢を取ると。


 ふふ。


 と、冷たい笑みで。

 引き金を引く姿が見えた———。

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