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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
17 ルーデル第三研究所
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17−5



 いかにもな塀を抜け、当時の最新施設風を装った外観は、廃れ具合を纏っていても充分近代的だった。

 それに違和感を覚えつつ、勇者様の後を追う。

 まさに遺物が眠っていそうな雰囲気のあるダンジョンだけど、得られるのは“獣の牙”とか“純泥(じゅんでい)”とか“火の種”で、ファンタジーなRPGの初期ダンジョンな様相だ。これで所内のモンスター・レベルが30〜40なので、見た目に対するこの落差…と、ちょっとガッカリしてしまう。

 それでも先へ進んで行けば、さすがに禁忌かもしれない…と思う見た目のモンスターがじわじわと増えてきて。これはダンジョン化とかしても、何ら不思議は無いよなぁ…と。

 実は施設等に起きうるダンジョン化のプロセスは、未だに解明されていないのだけど。まぁ、自然物のダンジョン化も分かってないのが多いので、そこだけに限る話ではもちろん無いのだけれども。この時代だと、より支持されてる推測というやつが“神の怒りをかった”とか、“神に見放された”系である。

 とりわけ、この研究所系は積もり積もった命の嘆きが摂理の糸を脅かし、怒った調和の神さまがダンジョン化させた…とか。それっぽいあらすじで説明されていたりする。

 その説明を全て信じる訳ではないが、研究所内を闊歩するモンスターの姿を見れば、そう思われても仕方ないと思えるような様相だ。

 お姉さんのレベルがどれほどなのか不明だけれど、一度も得物を手にする事無く中ボスフロアを越していた。それについては誰も何も一言も言わなかったので、暗黙の了解で庇護対象な配置に決まったってやつかな?と。

 それにしたって隣を歩く聖職者な少年が、若干…よりも多い感じで隙あらば距離を取ろうとするので、おいおい少年、ちゃんとお姉さん守らなきゃダメでしょう!と。後ろから伺う私は幾度となく心で語る。

 そうしているうち「ちょっと休憩しませんか?」と。

 陰気な空気が薄い庭を見て、思いついたというようにパーティに言ったので。

 彼女の線の細さを思い、疲れたのかもしれないな、とか。

 勇者様は思ったのかもしれない。

 そうだな、と了承すると、視線の先のフロアへと率先して足を踏み入れた。




「ホッとするわ、この感じ」


 所内の一室、花と緑の庭先をイメージしたと思われる実験室に腰を下ろして、お姉さんはポツリと言った。

 ガラス張りっぽいその外で、私は小首を傾げたが。あぁ、そういや調合師…と思い出して納得し。そっち系の人達は薬草とか薬花とか、育てるのが好きな人もいるもんなぁ、と。ソロルの森も“森”だしね、緑色とかがいいのかも、と。思いを馳せて水を取り出し、そのまま一口飲み込んだ。

 外のガラスに反射する勇者様を伺って、今日も今日とてカッコイイ…としみじみと思っていれば。


「そういえば、フロレスタ殿の研究室に似ているでござるなぁ」


 と、苦笑しながらレプスさんが補足するように呟いた。

 お姉さんは嫌味無く「ふふ…」と笑んで、そうですね、と。

 囁いたらば、昔語りをし始める。


「シーウェは体が弱くって…」


 この子は生まれた時から体が弱く、よく風邪をひいては悪化させ、下手をするとひと月以上寝込むような子だったのだ、と。語り始めはそんな調子で。


「私達の両親は、シーウェがまだ幼い頃に流行病で亡くなりまして…。今思えば早くから、子供心に家族を失う恐怖心というものを、すぐ近くに感じていたのかもしれないですね」


 里に居た唯一の薬師さんも、両親と同じ流行病で死んでしまって。近くでの薬の当てが、無くなってしまったのです。

 そう語るフロレスタさんは過去を偲び目を伏せて、それが今の職業を選んだきっかけなんですよ、と。

 それを物陰越しに聞き、ジンとなった目元のあたりをちょっとゴシゴシやりつつも。本気でめちゃくちゃいい人や〜!と再認識する私。

 パーティのメンバーもどうやらジーンとしたようで、そうなんだね、とか、そうでござったか、と。労るような、暖かい空気がじんわりと場に浸みる。


——おい少年!そんなお姉ちゃん、悪魔とか言ったらダメだろう!!


 まだじわじわ目に浮かぶ水っぽいのを堪えつつ、そんなエルフの弟君に喝を入れながら視線をやれば。

 どこかから取り出した辞典っぽい書物を掴み、青ざめた顔でカタカタ震える、昏い顔の彼が居て。


——………ん?


 何だ?この落差…と。

 誰も気付いていないらしい、不思議な空気をそっと伺い。

 そんな微妙な違和感に、涙がちょびっと引っ込んだのだが。


「シュシュさま、それに手を触れてはいけません」


 と。

 お姉さんが小型の空調室から生えた、カビっぽい植物に触れようとしたシュシュちゃんを、徐に嗜めたので。

 またしても私の意識はそっちに引っ張られていき、そこから派生しただろう彼等に対する考察を、何となくスルーしてしまったのである。

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