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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
17 ルーデル第三研究所
170/267

17−2



 水の都にて依頼を受けた東の勇者一行は、二日でそれを終了すると三日目に休息を入れ、その翌日に街の武器屋に赴くと、一振りの得物を受け取った。その店の店員は早朝に訪れた豪華なパーティに目を白黒させながら、“前日の注文”と“勇者の名前”を聞いて、ようやく合点がいったという。昨日の…!という驚きの声を漏らしながらも出来た得物を差し出すと、勇者は残りのお金を置いてあっさりと街を出た。

 どうやらそれに付き添ったらしい領主の家族ご一行。見送り、と称された大行列は、年に一度の“水祭り”より気合いが入っていたという。

 出会いが出会いだけあって、個人的には「うーん…」だが、水の精霊の化身と言われる一人娘のお姫様。そんな彼女がヴェールも被らず降りて来たぞ!と、街の人達は沸き立った。やれ我先に一目見ん、と、おいちゃん達が押し寄せて、彼女の護衛の人達がもみくちゃにされていたという。

 中でも、東の勇者様と並んで立つお姿は、美しい童話の一齣のようだった…とか。即席とは思えない凝った旋律と詩(うた)を聞き、感心した私の方はその他大勢の通行人と吟遊詩人へコインを投げた。

 街の入り口の西の門にて、お別れの抱擁をしに飛び出したお姫様。次は仕事ではない時に街を訪れて下さいね、と可愛らしい笑顔を振り撒き、町中の男達の目を虜にしていたが…。

 いつもと変わらぬ鉄仮面を張り付けた彼を見ていたら、もうちょっとこう、柔らかさとか出してあげてもいいんじゃないの?と。複雑な心境ながら、少し彼女を哀れに思う。

 実は先に出て街道沿いの木陰に潜む予定だったが、うっかり寝坊をしてしまい…先の現場を目撃する運びになった。勇者パーティが見えなくなって、ようやく門の周辺がまばらになった頃合いに、そそくさと街を出ようとしたところ。基本、出る人には寛容な街の門の番人さんに、何故か進路を阻まれた。

 身分証を、と言われた通り、冒険者ギルドのカードを見せたら、少し話が聞きたいと部屋の方へ引っ張られ。担当が来るまで待つようにとか言われたら、あれ?これって嫌がらせ?な放置プレーを押し付けられる。

 まぁ、似たような事とかが過去に数回あったため、仕方ないかと気落ちしながら小窓の外を眺めていたら。ふらりとそこへやって来た顔見知りな役人さん。またしてもギョッとこちらを見たら、慌ただしく駆け戻り…。次には怒鳴り声を振り撒き、私を捕らえた役人さんを引きづりながらやって来た。

 「上から指示が…!」や「従っただけ!」な言葉を零す役人さんに、そのお人は高圧的に「んな馬鹿な話、あるかよ!」と。「どう考えても冤罪だ」とか「いい加減、目ぇ覚ませ」とか。散々怒りを振り撒いた後、全く真逆の態度を取って私の方に頭を下げた。


「悪かったな、嬢ちゃん」


 と、必要書類を片付けながら心底申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べるので、何だかよくわかりませんけど誤解が解けて良かったです、と。訳知り風を装ってテンプレートを答えておいた。

 また変に捕まると面倒だからと言う事で、直々にその人に門の外まで送ってもらい、わざわざどうも、なお礼を言えば。「まぁ、何だ…気をつけろよ」と、歯切れ悪そうに返された。

 お役人さん、意外と偉い人だったんですね…と。

 詰め所に消えてくその人をぼんやりと見送ると、さぁて気分を入れ替えて勇者様を追おうかな!と。

 これまで通った東へ向かう街道を辿って行けば、北上する道と交わる分岐点の辺りにて、休憩しているその人達の姿を見つけ……。


 あっ、ラッキー☆


 と沸き上がったら、皆、しっかり気付いたらしい。

 勇者パーティぱねぇな!と、木立に隠れて感心してると、ふと顔をこちらに向けたライスさんから爽やかな笑みを投げられた。

 えっ?えっ??と思っていると、彼等は発つ準備を始め…。

 その状況は中々に、あれ?まさか、待っててくれた??———、そんな風に思う程度に意味深な空気だったのだ。


 しかし、そこまで期待しちゃうと、後からの落差がな…。

 何となくこの辺で留まった方がいいよね?と、気を取り直し考えて。

 村をいくつか素通りし、日もいくつか重ねたある日。


 不意にフィールドに現れた“薬屋”の暖簾に気付く。


 あ。あれ、知り合いの店。

 思い立ったベルリナさんは、訝しむ彼等の前で迷わずそちらに足を向け、暖簾を潜って行こうとしたが。


「ちょっと待て」


 と呼び止める、深良い声が背後に刺さり。


「大丈夫です。知り合いの人のお店です」


 と。

 そちらを向いてd(>_・ )ぐっ!な感じで語ってみれば。

 それでも一応心配だから付いて行く、風なセリフを貰い。

 おぉ。はぁ、まぁ、構いませんが。でも何だか…えぇーと…えぇ!?とか。内心微妙に理解を遅らせ、照れを知らないフリとかしたが。


「あ、ああ、あのっ、あのお店!まっ、魔薬とか売ってますから!良かったら何本かお譲りしますしっ…!」


 そんな可愛げの無い話とか、振っていたりしたのである。

 そして話は冒頭に追いついて…。




 両手に二本ずつ小瓶を持った“薬屋”のフォスフォさん。奥から暖簾を潜ってくると、端から順に並べていった売りたい素材を一通り見て、鑑定するため魔薬の瓶を手前の台にちょこんと置いた。


「また珍しい薬草を引っ張って来たねぇ…!」


 と、何やら気分が上がったらしい見た目も若いお人を見ると。


「うー、わ!えっ、コレ何!?扱った事無いんだけど!何の体液集めて来たの??」


 茶色い瓶に詰まった液に、最終的に釘付けになる。


「あ、はい。確か名前をヴァレリアナ…それ、LV80のヴァレリアナの体液です」


 催眠成分が強いので、取り扱いには注意が必要ですよ。加熱とか厳禁です。

 まで、説明を付けたなら。

 ふと隣から。


「あの時の…まさか回収してたのか」


 と、勇者様がポツリと言って。

 ハッとした私はすぐに「すっ、すみません!!」と頭を下げた。

 一応「いや、いい」みたいな許可は普通に貰えた訳なのだけど…勇者様を追う時間つぶしに体液回収してました、とか。ホント、自分の心の太さが丸わかりもいい所だな、と…orz。

 ちょっと凹んだ私を放置で、外見ショタなフォスフォさんとか「ほんと!?そんな高レベルモンスターの体液なの!?」と、見た目にも鮮やかに心の底から喜んだ。


「瓶は!?」

「清潔(クリーン)なものを、です。他には何も入れてません」

「もう一声とか!?」

「あったりします。フォスフォさんの“浄水”と洗浄用のアルコールで瓶の内部を洗浄しました。共洗いも済ませてますから、限りなく純粋な体液です」

「瓶も茶色で遮光用だし!!君って本当に最高だよね!!!」


 いい笑顔とサムズアップでフォスフォさんは高笑いをし、お隣の勇者様とかちょっぴり引いた気配を見せたが、心の広い私はそれを控えめな顔で流してやった。

 分析系な人等にしたら、反応性が乏しい——または全く無い——容器は必須事項だし、混ざり物(コンタミ)も極力控えたい。光は最強の妨害者なので、取りあえず防いでおきたいかな、と。

 昔、彼の仕事場で液クロのカラム羅列を見た時、「あ、この人、単離好き」とピンと来た事があったので。そういう措置をしたのだが。


——まぁ、喜んで頂いて良かったです、という事で。


 努めて微笑に留めておいた。

 事前措置にて相当に気を良くした彼は、ヴァレリアナの体液瓶とその他の薬草で、魔薬一本分のお値段を引いてくれたりしてくれて。勇者様に「何本いります?」とようやく話しかけたなら、できれば3本、な返答があり。残り3本の魔薬の瓶は勇者様が引き取った。

 値段はだいぶ高いけど、希少で必須なものなので。ちょっと寂しくなったらしいパーティの財布を思い、お疲れさまです、と内心に。

 それじゃあ用も済みましたから出ますか〜、と。

 入り口の方向に体を捻った時である。


 チリ、チリン。


 と、聞き慣れたドア開閉の音が響いて。

 外の眩しい光を背後に、何の気も無しに現れた緑の髪の女性に出会う。


——ん?あれは、エルフ耳…。


 と。

 ぼんやり思った私の横では。


「あら」

「その節は」


 な、彼等の会話が開始され。


「まぁ、東の勇者様。こんな場所でお会いできるとは。———私の可愛い弟は、元気にしておりますか?」


 と。

 理解でき過ぎる身内ネタとか、投下されたりしたのであった。

※液クロ:液体クロマトグラフィー。理科(?)の参考書とかに載ってたり…しますかね?おいでませ分析の世界〜(笑


※カラム:液クロに使用する充填材入りの筒。

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