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「クライス殿、トラップが復活したようでござる」
兎耳の魔法使いがそれを伝えると、黒髪の勇者はメンバーを振り返って頷いた。
「後を頼む」
「ちびっ子達は責任を持って守るから。早くベルとフィールのとこ行ってあげて」
「誰がちびっ子だ!こんな低レベルのダンジョンで僕がどうにかなるわけないだろ!!」
「…同感」
いつもと変わらない彼らの姿にクライスは再度頷く。
「行ってくる」
レプスに視線で合図を送り、隠しトラップを発動させる。
遺跡最奥の“祈りの間”で目的のアイテムを収集することができ、気が緩んでいたのだろう。偶発的に作動したトラップに自分を庇うように出てきたフィールとベルリナが巻き込まれ、姿を消しておよそ4時間が経過していた。
早速起動したトラップに乗ると、次には薄暗い部屋の中に居た。
転移のトラップは遺跡系でよくみられるものだが、一般にはモンスターレベル50以上のダンジョンに存在するものだと認識されている。よってレベル30台のエディアナ遺跡にそれが仕掛けられているというのは、どこか腑に落ちない気がしたが……続きがあるなら頷けた。
その場合、出現するモンスターのレベルが高くなっているかもしれないと、何もない部屋の中から木戸の向こうの様子を探るが、モンスターの気配はない。
早急に彼らと合流したいので、エンカウントは極力避けたい。不可能ならば逃走の成功率を上げるため、先手をとっておくべきか。
右手を持ち上げ、手のひらに魔法陣を描く。
『はぁい♪ご主人様。今日はどんなご用かしら?』
すぐに鈴を転がしたような声がして、光り輝く魔法陣から半透明な小人が現れる。小人は腰から上だけを持ちあげて、小首をかしげ、問いかける。
「先制攻撃をセットしたい」
『お易いご用です♪ここは迷宮のようですので、分かれ道では行き先を指定してくださいませね』
そう言って、斥候の小妖精は残る下半身を陣の中から引き上げる。
そして、くるんと一回転し一礼すると、木戸の隙間からさっさと外へ出てしまう。
『さてご主人様。まずは左右、どちらの方へ向かいましょうか?』