表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
16 水の都パルシュフェルダ
168/267

閑話 ハーレム三号は人魚様



 ベル、という茶色の女が絶叫しながら駆け出して、それを皮切りにするように場の人間が背後へ散った。その様子に一拍遅れで反応した少年は、すぐさま集団を振り返り、この事態の元凶ともいえる彼女を「おいお前ちょっと待て!!」と呼び止めようとしたのだが。


『 ブ ラ ス ト 』


 という艶やかな声と。


「貫きなさい!--- The holy arrow ---」


 な幼子の声が辺りに響き、次にはその空間に割り込むように飛び出していた。


「っ、くっ…!」


 一瞬で魔力を纏わせ補強した愛剣が、圧倒的な風塊と黄金の矢を的から外し、食いしばった歯の隙間から重さに対する空気が漏れる。

 軌道をズレたそれらの先には海の眷属が犇めいていて、自分達の方に来ると感じた途端、悲鳴を上げて我先にと海の中へ消えていく。

 風塊と光の矢が焦る彼等を掠めていけば、しばし間を置いたのち、それらが消えた水平線で巨大な飛沫が立ち上る。


 ドォ オ オ オン !


 と、遅れ調子に爆発音が聞こえてきたら。


「……うそ、だろ」


 と少年は、血の気が引いた顔で言う。


『何故庇う…?』

「そうよ!どうしてそんな女を庇うのよ…!?」


 悲痛な声が聞こえた方になんとか顔を戻したら、声より悲痛な表情をした二人の姿が目に入り。

 そこへ。


「まぁ…!フィン、ありがとう」


 な、場の状況を理解せぬあからさまな声がして。

 ちょっと待ってよ!!違うから!!な、悲鳴が口から出る前に。


「でも、あの程度、特に問題ありませんのよ?」


 そう言われて背後に庇われた。


——…あれ。なんか、あれ。何で俺庇われて…いや、それよりもこの構図、どこかで見た配置だな…?


 と。

 彼の意識がトリップしかけた時に。


「貴女達など、広大な母なる海にのまれてしまえばいい、ですわ」


 と。

 至極単純な軽い声音が、彼等の間に漂った。

 すると、爆発が収まった遥かなる水平線に、まるで太陽を飲み込むように高い潮の瀬が立ち上がり…見る見るとこちらの方に近づいて来るではないか。

 あれが岸まで辿り着く頃、如何程の高さになるか。


「………いや。ないでしょ。あれは無い…」


 と、彼は現実逃避して。

 一度、深い呼吸をすると、涼しい二人に視線を向けた。


——あぁ、うん、確かに。この二人なら、難なく生き残れるからね。


 そして、ゴォオ!!と近づいて来た水の壁を振り返り。




「たっ。頼むから、やめろぉおおおおお…!!!!!!」




 と。涙の限りに叫んだのである。


 その途端、霧散した海洋の壁に、彼女は「あら…」と呟いて。「お気に召しませんでしたのね…」と、やや寂しげに囁いた。

 あんなに軽い発動呪文で街一つを呑まんと立った、馬鹿みたいな潮の瀬の残像を脳裏に残し。

 どこまでも非力だと、少年勇者は涙した。




 人魚の魔法は“災害”魔法———。




 後の彼女が語る所の、その部分をつまみ取り。


——あぁ、俺、頑張らないと、この人達止められない……。


 取りあえず大型の防御魔法を習得しなきゃ…。

 早々に口で喧嘩を始めた女子三人をぼんやり見遣り、頼りなげな少年は遥かな大地に黄昏れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ