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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
16 水の都パルシュフェルダ
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16−6



 思わず滑った口を拾って、息を飲んだままのお人を、それとなく復活させながら。

 人づてに聞いたので真偽のほどは分かりませんが…と、しっかりフォローを交えつつ。もしどうしても気になってしまったら、後でお養母様に連絡を取ってみて下さいね、と。

 やっちゃった感が消えやらない心中の私は一人、とても本人には言えないので、サーセンっした!!と心で叫ぶ。

 やがて意識を取り戻してきた勇者な人は、ぎこちなくも動きを復活させて、取りあえず手元のラグーを飲んだ。

 最早、勇者様の衝撃が無事に消滅する時間まで、この場でのんびり過ごしましょうか!!な切迫した心地な私は、おもむろに引いた鞄にがっつりと右手を入れて。推理小説どこでしたっけ…と、逆に現実逃避にかかる。


——え。ヨナさんに聞いた情報、間違ってたんだろか。いや、勇者様の口から即否定が出ない、って。そっちの方がおかしいんじゃないですか??お養母さん、知らせてないの?てか、大事な事でしょうに、何で彼等は噛み合ってないんでしょう???


 え?貴族?え?何故に??

 とか。次から次と湧いてくる素朴な疑問という奴に、捕らわれたりとかしちゃいけない。深く突っ込んではいけない。

 と、思えども。

 引っ張り出した小説を持つ両手が不思議とカタカタ鳴って、内容が一ミリも頭に入って来ないのだ。

 つまり。


——私、実はものすごい地雷というのを、踏んじゃったんじゃないですか…!?


 だが。

 そんな簡単な状況すらも理解したくない頑固な頭が、ここに乗っていましてね…?と。

 文字と文字の間の無地をひたすら眺めていたのである。

 さて、そうしてどのくらい経っていたのか。

 ラグーを飲みきってしまったらしい無言の勇者様の目が、不意にこちらに動いたようでして。同時に自分の状況とかをやっと客観視したのでしょう。


「すまない」


 という短さに、けれど誠心誠意を込めて。デートを再開しよう、な心の意気を、聞いた気がしたんですけど。


「いっ、いえいえ。大丈夫です」


 と返したこちらの方が、申し訳なさでいっぱいなので…。


「私はこのままのんびりとかでも全く構わないですが…」


 と、提案とかをしてみたり。

 すると、ぐっと押し黙った勇者様だったのだけど。

 腕輪のお代にこの程度では見合わない…とでも思ってしまったのだろう。


「パルシュフェルダに来たのなら、せめてゴンドラに乗るべきだ」


 と。意外にも水路下りの提案をしてくれた。

 まぁ、あれだ。

 私が立てたデートコースにもばっちり入っていた訳だけど、相手方から誘われるとか全く思っていなかったので。期待していなかった分、私の心は色めき立った。

 たぶん、顔にも出たのだろう。

 ぱあっと嬉しそうな色を振り撒く反応を受けてみて、勇者様はほんの少しだが柔らかく微笑した。

 女子はそういうの好きだよな、とか思ったのかもしれないし、ここでデートするならコレ!な外しが効かないイベントを無事に引き当てられたっぽいと、安堵したのかもしれない。

 そんなの私にしてみれば、どちらだっていい訳で。大事なのは大好きな人と、デートの定番☆ゴンドラの舟下り、とか出来る事ですからね!!と。

 なので。


「行こうか」


 と言う優しい声に。


「はいっ」


 と応えた私はもちろん。

 満面の笑みだったのだ。

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