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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
16 水の都パルシュフェルダ
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16−3



 そういう訳でそれから2日、デート初心者なベルリナさんは、珍しくもヒール付きの靴とかを手に入れて、早々に爽やかコーデを完成すると、名所の把握に勤しんだ。

 大空洞で魔剣というのを手に入れた勇者様だが、それでも基本、大剣を背負っていたいようであり、少し前に立ち寄った小さな町の武器屋にて大きめな剣を購入したようなのだ。とはいえ、以前のものに比べたら二回りは小さめで、エンカウント後、戦闘を終了する度にどこか不満そうな顔をして己の得物を見つめていたので、ここで武器を見に行きましょうと誘ったら、乗ってくると思われた。

 乙女チックなデートコースにもそりゃあちょっとは憧れるけど、実際、一緒にまわれるならば充分、な感覚で。どうせなら相手にも気持ちよく居て欲しいしなぁ、と。小賢しいかもしれないけれど、それが今の私にできる精一杯のお礼だろう。

 それでお昼までの時間というのがある程度埋まるとし、後は適当なお店か屋台で軽く昼食を取ったりする。そしたら今度はゴンドラで街の水路を移動して…相手には移動の気持ちで居てもらい、こっちは密かに恋人気分を味わうという算段だ。

 勇者様が何かを計画してきてくれたなら、午後からそれを楽しめば良いのだし、私任せの雰囲気ならば2、3件付き合って貰えば良い。

 最後の夕食はそのときの空気だな。

 と、一通りの流れを思い。

 

——よし、頑張れ私!


 と気合い一発。

 手持ちの鏡を鞄にしまうと、心意気も充分に宿を出た。




 待ち合わせ場所は三区の噴水広場。

 パルシュフェルダは六区からなり、第一区から三区までは貴族のエリア、三区から六区までは平民エリア、と大まかに分かれているそうだ。下級貴族とお金持ちの平民が入り混じる第三区だが、様相としては閑静な住宅街と高級ブティックが並んでいる感じである。

 そんな場所に立つ私というのは不釣り合いな雰囲気満載なのだが、取りあえず下品なナンパが無い…的な辺りから、勇者様が待ち合わせ場所として気を遣ってくれた結果らしい。

 どうも結論から言うと下品なナンパは無かったが、だいぶ年上の方々からのマドモアゼール♪な上品ナンパが、2、3回起きていた。リタイア後のおじさま達は若い子にちょっと飢えているらしい。


——そうです!只今絶賛待ちぼうけ中…!!


 まさかすっぽかされるとか、そういう事は無いと思うが、お上品なナンパでもそろそろ辛くなってくる。

 最後のおじさまなんかこちらを望むオープンテラスで、二度目の声掛けをどうも狙っているようなのだ。若けりゃ誰でもいいんですかね…?と、シャレたウインクをかますお人に愛想笑いを返していると。


「遅れてすまない…!」


 と言い、やっと勇者様が現れた。


——おぉう…!ようやく救世主!!


 とか、思いながらそちらを向けば。

 パーカーっぽい上着を着込んだ地味かっこいい勇者様。

 全体的に暗い色だが、いつものキラキラオーラが無くて、ぱっと見、普通のメンズに見える。

 だがしかし。


「………???」


 おかしいな。いや、おかしくないか。

 爽やかだけど色っぽい、イイお顔は健在だ。


——んん〜?いや、でも。いやいや、しかし…。


 そんな彼の様子の変化に、訝しんで思考を飛ばしていたら。


「…こんなに遅れて怒っただろうか?」


 と。

 申し訳なさそうな気配を滲ませ、勇者様は声を絞り出す。

 私はすぐにハッ!(;゜ロ゜)となり、慌てて意識を元に戻すと。


「いえいえいえいえ!たかだか15分程度ですので!!全く問題ありませんっ」


 と、すかさず全力フォローする。

 遅れたとはいえ一生懸命ここまで駆けてきました、な、息切れ模様を見せて貰ったら。何だか理由が透けて見えるし、それでもちゃんと来てくれたという誠意がしっかり伝わりますよ!…そんな事を考える。

 その時、私の背後の何かに視線を取られた勇者様だが、気になったので同じ場所を向いたなら。あ〜あ、な顔とジェスチャーをしたおじさまが目に入り…。ガッカリだよ、な動きの中に「おじさん、そんなイケメン相手に勝てる気とかしないよ」と、茶目っ気がたっぷり混ざった声援めいた声を聞く。

 ちゃんと来てくれて良かったねぇ、と優しく言われた気分になって、こちらこそ相手してもらってありがとうございます、と。勇者様がいて照れた感じで、ペコッとお辞儀をしておいた。


「とりあえず、どこへ行きましょうかね?」


 さあさあ!これからお待ちかねのハッピータイムというやつですよ☆

 と、踊り出しそうなニコニコ顔でその人に問い掛けたなら。


「そうだな。行きたいところはあるか?」


 と、予想通りの答えがあった。

 内心でガッツポーズをしつつも、表の笑顔を崩さずに「折角大きな街なので、剣を見てまわりませんか?」と言い掛けてみたのなら。


「……いや、今日はデートであって」


 と、始めに間を持たせてきたので。


「一緒に行けばどこだってデートになりますよ!」


 と。きっと勇者様だって偶(たま)の休みなんですし、どうせなら行きたい所に行きましょう!!とか、ゴリゴリ押して押しまくる。

 すると最後にゃ戸惑い顔で「…いいのか?」と問うてきたので、「いいんです、いいんです」とようやく移動を開始した。

 三区にも武器屋はあるが、どちらかといえば式典用の装飾された武器が多くて、きっと勇者様ならば実用的な方だろう、と。商業ギルドが配布しているお店入りのタウンマップで、さも「今から探します!」なアピールとかをしてみせながら、とっとことっとこ歩いていたら。


「もう少しゆっくり歩かないか?」


 と、不意に右肩に手が乗った。

 海の側だからマリンスタイル。ネイビーのセーラー風ワンピースかしらねぇ…?と。まだ18だし許される…よね?と。ここ2日間、鏡の前でクルクル回り、何回も確認したが。


——まさかこんな不意打ちで触れられるとは思わなかった……!!!


 と。

 カアッと染まった赤めの顔を向ける訳にもいかないために。


——あっ、洗わないんだからっ!!このワンピ、絶対、絶対、永久保存!!!


 そんな叫びを上げながら、しかし表層の様子と声は努めて平静を装って「そ、そ、そうですねっ」と振り返らずに返すのだ。


——うわぁああ…!!!しっ、しかも、しかもですっ!ぽんっ、て乗った右肩あたりがほんのりと良い匂いを漂わせてたりしまして、ですね!!?


 うぅ。勇者様っておヒトは香水とかは全く付けないタイプみたいなんですが…。

 まさか、これって。これって、まさか。やっぱりフェロモン…いうやつですか!?

 と。

 私はやはり恥ずかし過ぎて、それきり口を噤んだらしい。


「大丈夫か?」


 と問い掛けながら急に覗いてきた人に。


「っ!!?」


 取りあえずぱくぱくやって、それまで以上に顔の辺りを染め上げたなら。


「………悪い」


 と言いつつ、クライスさんは、今更ながらそんな理由を何となく察してくれたらしい。

 少しバツが悪そうな雰囲気を滲ませながらも、努めて大人な対応で。

 照れの容量を突破した壊れかかったベルリナさんが、元の状態に戻るまで。無難な距離を保ちながらも、一緒に歩いてくれたのだ。




 そうして人通りもまばらな道を歩いて向かった第四区。

 主にこの街の平民と一般の観光客が多く訪れる商業区にて、往来の人の多さにハッと顔を上げた時。

 何の変装をするでもなしに、躊躇いなく歩みを進めるその人の動きを知って。


「あの、ゆう…いえ、あの……くっ、クライスさん」


——有名人とデート中なのに積極的にバラす必要ないですもんね…!?


 そんな前置きをしておいて。


——だっ、だから、これというのは必要な措置である訳でっ…!


 なんとか名前で呼んでみたなら。

 ふと、こちらを振り向いた黒髪のイケメンさんが、無言で「なんだ?」と聞いてくる。

 その距離感の近さというのに、


——ぐっ…!


 と思わず怯んだのだが。


「おっ、隠密スキルとかっ。発動中なんですか…!?」


 と。

 一応大事な事なので、確認がてら聞いてみる。

 すると彼は「いや」と言い、少し歯切れ悪そうに。


「その、これが平時…というか」


 と、スと視線を泳がせた。


「存在感というスキルは知ってるか?」

「はい。施政者とかお偉いさんがよく獲得してるやつですね。あれがオンだと急にその人の存在感が増す…んです…?」

「……いつもはそれで地上げをしている」

「………なっ、なるほど!そうですか!」


——って、えぇえぇえ…!?まさかのソコ!?そんなスキルで!??


 今まで“勇者だから”のキラキラオーラ!と思っていたのに、まさかそんなカラクリで輝いてたのかこの人は…!!

 そのまま歩みを再開し、人ごみの中を進む相手を、ちらっと伺い見上げると。


——……確かにキラキラ感は薄いですけど、普通に見てもカッコイイです、よ?


 そんな感想を抱くくらいはステキな人がそこに居る。

 うん?と思って周りを見れば、勇者だとは感じてなくとも「あっ、あの人良いかも♪」的な女子の視線がチラホラと受け取れて。

 やっぱり貴方、普通にしててもカッコイイ人なんじゃない…とか。妙な方向に凹んだり。

 そのまま居ると。


——歩く度にぱさりと踊る、ちょっと高めのポニーテールが、うなじに先端攻撃を仕掛けてくるなぁ…。後れ毛も気合いを入れて作ったのだが、糊(ワックス)で固めた方が良かったかなぁ…?


 と。

 いつもなら気にならない細かい所が気になってきて、勇者様の隣を歩く自信というのが、段々薄くなってくる。


——もうこうなりゃヤケでしょう!開き直って行くがよい!!


 と、萎みそうな心に喝を入れ。

 せめて人ごみで逸れるまい…と、決意を新たにしていたら。


「ベル、あそこの店に寄ってもいいか?」


 な深良い声が耳に届いて。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——大丈夫。全然平気です。いえ、ものっっっすごく、やる気が湧いてきましたっ!!!


 と。


——なっ、名前!!名前を呼ばれた!!!やったぁ!!!!


 などと燃えた私は、元気がいっぱい溢れる声で「もちろんです!」と返したのである。

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