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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
16 水の都パルシュフェルダ
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16−2



 ネルドリア王国の小さな町を抜け出して、隣国アルワナ王国の国境を素早く抜けると、海沿いの道を東に辿り気付けば我らはそこに居た。

 水の都、パルシュフェルダを望む丘。

 東西に敷かれた街道通りに歩んで行けば、この素晴らしい景色を見下ろすポイントを通過する。東へ向かう下り調子の道をそのまま進んだら、あの美しい都へと着くのだろう。

 この中都市はさらに隣の王国であるクアドアとの国境近くに位置しており、とても古い歴史を持っているという。前世の記憶の中にある人魚伝説に似通った、領主と人魚の恋物語が有名だ。

 内容は悲恋であるのに、何故かそれにあやかって(?)、人魚の像が飾られたどこかの岬にある鐘が、恋人達のデートスポットになっているという。運が良ければ人魚姫からの祝福があると言うけれど……海洋種に分類される人魚的な存在は、忘れた頃に繰り返されるUMA的な扱いで、実際「見たよ!」な情報は何十年に一度ほど。それら種族が堂々と陸地を歩いた記録も無くて、そういえばそういうものも居るらしい、な扱いだ。専門の学者さんさえ「人魚は居るよ!……ほんと、居たら良いのにな♪」な雰囲気なので、余計「見たよ!」な情報が怪しくなるというものだ。

 加えて、まさかあそこまで海のモンスター・マーライホーンを打ち出してるとは思わなんだが、そこそこ可愛くデフォルメされたら象徴としてアリかなぁ?と。なんとなく思えるところが恐ろしい。

 実はちょっと締め付けすぎて首の締め跡が消えないのだが、愛用している枕さんが入った鞄に手をそえて。

 夜明けを迎えた水の都市へと私達は向かって行ったのだ。


 遠目に見れば狭いかも…と思われたその都市は、門を抜ければ水路に阻まれちょっとした陸の孤島の様相。思ったよりも広いなぁ、と川幅を目算し、市街地へと渡してくれる舟の航行具合を見遣る。

 穏やかな水の音をゆったり掻き分け進む彼等は、どことなくおっとり見えて。緩やかな気質の都市なのだな、と、こちらの早さをゆるめに変える。

 つまりはリゾート都市なのですよ、と気持ちをそっちに切り替えて。滞在中は舟下りかな?と観光予定を立てていく。

 ここから先はお仕事かなぁ?、乗り込む舟をずらしましょうか、と。時間つぶしにふらぁりそこから距離を取ったなら、露店を覗く私の横に不意に彼がやってきて。


「今日から三日後は予定が空いているだろうか?」


 と、驚く私の視線の先でそんな言葉を囁いた。

 ほんの少しだが気まずさらしき妙な雰囲気が漂っていて、あぁ!これって例の穴埋めのデートとかのお誘いですね!?と。思い至った私の方は「気にしないでいいですよ〜ヾ(・・;)」とか。ちょっと時間が開くうちに落ち着いた気持ちのままに、そう思ってしまったけれど。

 逆にそうして流した方が、この人、気に病みそうだなと。


——ここは一つ、有り難くお付き合い頂いて、貸し借り無しにしましょうか。


 そんな思いで「はい」と頷く。

 そうして彼は「待ち合わせの場所と時間は追って連絡する」と言い、ごく自然な足取りで渡し船に乗り込んだ。

 それを何の気も無しに追ってると、どことなく引き気味に勇者様を伺っている、エルフ耳の少年が目に入り。無表情ながら興味深げにこちらに一瞥投げて寄越した、シュシュちゃんと少しの時間、視線が重なった。

 いつも通りの優しい笑みで見届けてくれるお二人に、今更羞恥が湧いたりとかして。


「嬢ちゃん、良い男捕まえたな〜」


 と、不意に揶揄ってくるおじさんに。

 ひやぁ〜〜〜!と心で叫びまくって「いえ、ちょっと貸しがあるだけで…!!」と、わたわた手を振り否定する。

 この時、門の周辺はたまたま人気が薄かったのだが、それでも輝く勇者オーラに、どうやらほぼ全員が目を奪われていたらしい。たぶん、その興味の中には、え?あんな子に声をかけるの??な好奇心があったりで。違う違う、と否定を臭わす私の必死のジェスチャーに、親切心で「またまた〜」と盛り立ててくれるおじさんも、まぁ、内心でそうだろうなと思った風の、腑に落ちた顔をした。


——って。そう考えると私って、ホント、勇者様の隣に居るのが見合わない容姿なんですねぇ…。


 自分の中ではありふれた可愛らしさのボーダーラインを踏んではいるが、美形か?と問われれば迷わずノーといえる顔。とはいえ、大して落ち込む事も無く、冷静な分析でふと思う。


——これってちょっと…いえ、結構気合いというのを入れないと、マズい…ような気がします。


 せめて踵のある靴をゲットしないといけないかしら…?

 いつもなら仕様もないなと思ってしまう案件に、深く思い込む私というのが居ちゃったりしたわけで。

 そんなこんなで悶々しながら、彼とのデートに見合うコーデに、私はその先二日ほど悩んだりとかする訳です、と。


 ちょっと遠い目になりながら次の舟に乗船し、乗り降りで五分、十分かかった後に、白い石が敷かれた街をあっちへふらふら、こっちへふらふら。

 たくさんの噴水が見受けられる水の都を、この水路はあちらの方へ、あっちの水路はそっちの方へと。迷路を楽しむようにして簡単に散策し、ちょっとした頭のマップを埋めてみたりとかしてみたり。


——えぇと…ほら、ね。もしデート中に迷ったら勿体ないしね。先に下見しといた方が困らせなくて済む、ですし。


 そんな妙な言い訳をして、やっぱりふらふら歩き続ける。


——決して、緊張しているとかね、そういう訳じゃなくて、ですから…!!


 何やら必死に言い聞かせると、逆に恥ずかしくなったりとかして。

 私は人目も憚らず一人赤面しちゃったり……。


——うわぁあああ…ダメだ。ダメです。これはダメ。


 およそ五十年ぶりの、ででででデートな響きですっ!しかも初!今生初のデートだったりするんですっ!!

 と。

 邪魔にならない路端に赴き、水路の壁に頭をゴツリ。

 そのまま額をゴリゴリしながら「うぅーん…うーん…」と唸っていると、街の警備の役人さんに職務質問をくらったり…。この精神状況で軽く嘘とかついてみたなら、矛盾が矛盾を呼んだりとかしてしょっぴかれそうだったので、ちょっと演技をプラスしながら必死になって言い募る。

 この口曰く「好きな相手とデートすることになったのですが、どんな名所をまわればいいか全く思いつかないのです。お役人さんのオススメコース、良ければ教えて貰えませんか?」だ。

 全くハタ迷惑な困ったちゃんの質問だけど、前のめりながら捲し立てたら、そこそこ熱意は伝わったらしい。そういうのは男の役目だろう?と頭をボリボリやりながら、お役人さんは「うーん」と唸り、地味かっこいい雰囲気を滲ませて「ゴンドラに乗って水路巡りがいいんじゃないか?」と。

 まぁ、間に「意中の相手は仕事一筋、奇跡的にもぎ取った最初で最後のデートですので、たぶんこっちが予定を立てた方がいいと思うんです」と、真剣に注釈をしたのだが。

 そういう訳で、「この街の女性には割と人気だ」な箔押しを得て、他には?他には無いですか?と質問攻めにする私。

 すると。


「つうか、嬢ちゃんな。自分だって一つくらい行きたい所、あるんじゃないか?こんな型通りなデートにしなくたってだな、好きな所でぼんやりしてりゃあお互い疲れず済むだろう?その方が相手の心証だってずっと良いと思うがな」


 と、語りながらその人は、困ったように頭を掻いた。


——……あぁ。なるほど、ですね。結局男子の皆さんはそういうのが苦手って事…。


 全員とは言わないだろうが、それも一男子の意見な訳で。

 目の前の人を見ていたら、不意に落ち着きを取り戻し。


——はぁ。メンズも大変なのね。確かに仕事詰めの勇者様だし…デート(これ)も仕事かもしれないけれど、私次第で楽にしてあげられるし…なぁ。


 エスコートする手間が省けるような“予定みっちり”も安心だろうが、“頑張らない”選択もありだなぁ。

 うーん、この人もデートコースには気を使うみたいだし…。

 と、そんな思いに行き当たる。


——疲れないデートコースで疲れない相手とか…まぁ、テキトーが許される女と思われなくもないだろうけど…さすがに我が侭言えるほど、自分、スペック無いしなぁ。


 そう何となくオチもついたら。


「とても参考になりました。どうもありがとうございます」


 と、お役人さんに頭を下げる。


——臨機応変、きっとそれが一番です!名所をピックアップしておきつつも、相手に合わせた雰囲気で!このデート、きっと良い思い出にしてやるぞ〜〜〜!!!


 聞いた話を参考に心の中で密かに燃えたら、ちょっと気持ちが滲んだらしい。

 お役人さんが「まぁ、頑張れよ」と優しげな目で語ってくれて、「はいっ」と応えた私の顔は、たぶん、それなりにいい顔だった、と思うんです。

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