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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
15 アーリアナ大空洞
154/267

15−7



「うん。なんていうかさ。今まで武器に頼り過ぎてたな〜と思ったよ、オレは」


 戦闘を終えた第一声は、ライスさんのそんな声だった。

 壊れた武器と壊れなかった武器との違いは何だろう?と、そんな感じの問いを掛けられ、予想してみたこちらの答えを「あくまで推測ですが…」と語ってみたら。皆、「あぁ、なるほどね」と何となく納得してくれた。


「あれも一応、名匠に鍛えてもらった槍だったんだけどねぇ…」


 心なしか寂しげに呟いたライスさんだが、いくら名匠に鍛えられても認められる“名”を持つまでには至らなかった訳かぁ…と。すでに腐食が広がっていて再利用もできそうにない折れてしまった相棒を見て、「今までどうもありがとう」とそっと指を這わせて言った。

 帰りの武器の代替品に細長い岩でもな…と、ふらぁり奥へと探しに行ったライスさんを見送って、他のパーティ・メンバーは各々何かを調べに散った。


「あっ。ボク、そろそろ帰るねー☆」


 オステアが呼びに来るからさ♪と。

 こちらもテンション高めを維持してサラッと帰ったイグニスさんを、ありがとうございます!お疲れ様でした〜!と手を振り振り見送って。さぁて、帰る準備をするか。そういや、誰かの遺品さん達を勇者様に渡しておかなきゃな。と、ふとその人を捜したら。

 いつの間にか近くに立ってたお目当ての勇者様、何故か悲痛さも滲み出る真剣な眼差しで。


「買い取る。いくらだ?」


 と言ってきた。

 思わず「何を…?」と素で聞くと、おもむろに腕を上げ。


——……あぁ!あの腕輪さま!!


 と私の記憶を甦らせる。


——えぇと。いやぁ。それってここでの拾い物ですしねぇ…。


 でも勇者様のこの威圧…うーん…じゃ、じゃあ金貨1枚?

 そう思って指を立てると。


「安過ぎる」


 と間髪入れずにぶった切られる。


「そっ…それでは金貨2枚…で」


 と。

 あるいは銀貨や銅貨の数だと行き違いがあるやも知れぬし、今度はハッキリ金貨と入れて、苦し紛れに指を増やすが。勇者様から滲んだ威圧は逆に圧力を増したよう。


「うっ…な、なら5枚でど…(ひぃぃぃぃっ( ̄□ ̄;)!!)」


 革の腕輪に破格の値段で、もうそろそろ文句無いでしょ?

 そう私は思ったのだが……。

 痛い沈黙が通った後に、はぁ、な溜め息を吐き出すと、勇者様はようやくそこで威圧感を引っ込めた。

 ちょっと涙目になりながら。


——だってそれ、ただの革の腕輪でしょう??1万円とか暴利もいいところじゃないのかな??いや、腐食で壊れないほどの“名”をお持ちかもしれないけれど。でも所詮素材は“皮”ですよ??


 ひたすら必死に内心で言い訳もどきを並べていると、言いたい事があるなら言ってみろ、な雰囲気を出す勇者様。

 私はコクコク頷くと、汗を流して口を開いた。


「まず、それは拾い物です。全然懐が痛んでません。そして、素材が皮なんです。希少石とか鉱物でもなく。皮素材ならどんなに美しい造形に仕上がっていたとして、上限はせいぜい金貨10枚。対して、それはただ切って繋げただけのシンプルなデザインですし、金属も見た所、金具部分と…小さいチャームが一つくらいのものですね?そこそこ薄汚れているようですし、そうすると状態も良くない訳です。なので、金貨1枚でも暴利だと、私は推測致します。一応、このダンジョンでの取得物だったので、ちょっとした名前が付いているのかも知れませんけど。それを加味したとして、の、金貨5枚のお値段です。充分だと思いませんか…?」


 長々と説明をして、ほら、充分だと思うでしょう?そんな顔をしてみると。

 対する勇者な人はジッと腕輪に視線を下ろし、ふとこちらに視線を戻すと、一歩下がって間を開けた。

 おもむろに手を腕輪に乗せて、魔力でも通したのだろう。

 先ほど手にした鋼の剣を、そこからスラッと引き抜いた。


「………おぉ、すごい」


 と、ガスマスク越しに間抜けな声で呟くと。


「“魔竜の腕輪”と言うらしい。魔皇石(まこうせき)を核として、持つ者に見合う魔剣を創る」


 ずい、と示された部分を見れば、何気なく腕輪に取り付けられた1センチほどの十字架チャームが、ほんのりと光って見えて。あぁ、これが魔鉱石(まこうせき)なのか。小さいけれど希少石が使われていたんだな、と。


——お。よくよく目を凝らしてみれば、このチャーム。十字架じゃなくて剣なんだ。


 と、追加発見もあったりとかして。

 へ〜、ふ〜ん、と感心しながら、それで?な感じで見上げると。

 ふっと得物を消失させた勇者な人は、心底困った雰囲気をイケメン顔に滲ませて。


「…正直、どれほどの値段がつくのか自分では計れない。だが、間違いなく金貨5枚で収まるような額ではない。今現在の所持金などでは到底足りないことは分かるが、今後の事を考えるなら持っていた方がいい剣だ。だから、おおよその額を提示して貰えると助かるのだが……」


 なら、5枚でいいんじゃないの?仕事に使うものならば。

 即転売じゃないのなら、義理は果たしたようなものでしょ……?

 そんなこちらの次の言葉を、正しく推測したのだろう。

 “だから話にならない”という眉間の皺を一つ刻んで、勇者様はまたしても深い溜め息をお吐きになった。


——じゃあ、10枚でいいですよ。


「…どうせ私が持ってても、永遠に使えないものですし」


 と。

 何となくやさぐれ口調で投げやりに答えたのなら、不意にその場に冷たい風が吹き付けたような空気になった。

 お互い相手の理解の無さに、微妙にイラッとしたのだろう。

 だが。


「それなら金貨10枚で、残りは、そうでござるなぁ……“1日デート”でどうでござろう?」


 そんな横からの和解の声に、私は一瞬白くなり。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「はっ( ゜゜;)」

「さすがにそんなものでは…」


 と言いかけた彼を差し置いて。


「いっ、いやいや、いやいやいやいや!でっ、デートなんて滅相もない!!それこそお金じゃ買えないですし値段も付けられないですよ!そもそも好きでもない奴と1日中デートとかっ…!!!何なのそれ拷問ですか!?なお話ですからね!!?」


 わたわたと身振り手振りでレプスさんを伺って、今の冗談ですよねぇ!?と取り消しを求めると。

 レプスさんがにっこり笑って示した先で、当の勇者様とかが、ものすごく凪いだ空気でこちらの方を見下ろしていた。


——まっ、まさか、まさか、です…?


 と、耳の先まで熱く思うと。


「…そんな事でいいのなら」


 と当事者の彼はあっさりと言い。


——ごっ、拷問を受け入れたぁあぁあああ!!!!!


 と内心叫びまくっていたら。


「…拷問だと思うほど嫌ってはいない」


 とか。

 実に上手い言葉を並べて、乙女心を攫って行ったのだ。

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